第104話 なぜ
遅くなりましたが更新再開しますm(__)m
本編2から主人公は宇月君に代わります。
この日、僕は久し振りに以前の自分が住んでいた町を訪れていた。
たしかこのスーパーの裏にあったはず……すると、僕の思惑通りそこに中野家はあった。
家屋周辺の町並みが、僕に懐かしさを思い出させる。
さすがに呼び鈴を押すことも無いが、こうして外から眺めるだけでも幾つか情報を得られる。
二階のカーテンは開いている。つまり、僕が部屋に引きこもっているということは無い。
玄関周りにある小さな花壇にも手入れが行き届いている。
少なくとも、生活が崩壊しているようなことは無さそうだ。
中二の三学期……時期的には学校での虐めがエスカレートしていてもおかしくないくらいだが、当代の僕はそこまで深刻な状況にはなっていないという事か。
***
来たついでだ。せっかくだし近隣を散策してみよう。
これまで復讐ばかりに気をとられて、まともに人生を謳歌していなかった気がする。
今日ぐらいは羽を伸ばしてもいいだろう。
とは言っても、この辺りに何か行ってみたい場所なんてあっただろうか。
近所を流れる川……カツアゲされていた場所だ。
駅前にある小さな公園……あそこで渡辺達によく殴られてたな。
弁当屋の前の大きな本屋……万引きを命じられて嫌な思い出しかない。
───渡辺、悪いがもう一回思いっきり殴ってもいいか?
どうするかな……そうだ、バス停前の玩具屋でも見に行くか。
あそこには嫌な思い出は無い。何を隠そう、小学生時代の僕はそこで開かれていたゲーム大会ではそれなりに名を馳せていたのだ。
あれが唯一のいい思い出かな……ああ、泣きたい。
「宇月君、何してるの? こんなところで」
「げっ……誰かと思えば暴力イケメン野郎じゃねえか!」
「河村さん、とその彼氏さんじゃないか」
「小岩井だ! テストに出るからよく覚えとけ!」
「二人とも、デート中かい?」
「無視すんなこの野郎」
「恭佑が新しいゲームが出たからって、ね?」
「おう。てめえには喧嘩じゃ負けたがゲームじゃ負ける気がしねえ」
「ほう……悪いが僕はゲームも得意なんだ」
ゲームと聞いて、久し振りに僕の中の前世の血が騒ぎ出した。
当時、ゲームしか取り得の無かった僕に対してその挑発は決して安くは無いぞ。
「まあいい……いずれてめえとは白黒付けてやる。
小岩井主催ゲーム大会の日程は後日追って連絡します」
「うちのサルがごめんなさいね」
そう言うと小岩井と河村さんは足早に去って行った。
たぶん、あそこのおもちゃ屋にでも行くんだろうな。
二人の邪魔をしては悪いし、今日はあそこに行くのは止めとこう。
さて、本格的に行く場所がなくなってしまった。
***
図書館で時間を潰そう。
そう思った僕は、またしても知り合いを見掛け、今度はこちらから声を掛けることにした。
「日高さん、久し振り」
「ああ、宇月君。こんなところで珍しいね」
「ん? 誰だ? 玲美の知り合いか?」
見慣れない顔がそこにはあった。
背が高く、男の僕から見てもこいつは間違いなくイケメンであることはわかる。
「あ、宇月君は初めてだっけ? 私の彼氏の伊藤悠太郎。
東京に転校しちゃったんだけど、連休を使ってこっちに遊びに来てるんだ」
「そうなのか。挨拶が遅れて申し訳ない。
宇月一哉だ」
「さっき玲美が言ってたけど、俺は伊藤悠太郎。
そういや宇月って名前聞いたことあったな……謙輔とひと悶着あったって人か」
「ごめんね、悠太郎には話しちゃってたから……」
申し訳無さそうにしている日高さん。
まあ、彼氏にはそのくらいのことは話したりもするだろうし別に咎める気は無いが、何だかさっきからその彼氏さんからやたらと好戦的な目で見られているのは気がする。
「気にしなくていい。それより、デート中とは知らなくて話し掛けて悪かった。
邪魔しちゃ悪いから僕は失礼するよ」
何だか気まずくなったのでさっさと退散することにした。
それにしても、今日はやたらとカップルと出くわす日だ。
日高さんにあんなイケメン彼氏が居たことには驚いたが……人生を謳歌しているようで何よりだ。
図書館周辺も駄目だな。
カツアゲされてなかった方の川に行こう。
少し町からは離れてしまうが仕方が無い。
川といっても小さな川だ。公園に面した小さな川。
***
公園に着く頃には日も暮れかかっていた。
懐かしさを覚える公園だ。嫌な事があると、よく一人でここへ来ていたっけ。
この公園には色んなアスレチックがある。
そして小さいながらも川も流れていて、割と何でも揃っているちょっとした穴場だ。
たまにはこんな休日も悪く無い。
そう思って僕はベンチに腰を掛けた。
そんな事を考えていると、どこからかこの場に相応しくない雑音が聞こえてきた。
バイクの音か? この公園に乗り入れは禁止だったはずだが。
ちょっと注意してやろうか……そう思い、僕は音の響く現場へと向かった。
近付けば近付くほど音は騒がしさを増していく。
どこの馬鹿共だと思い目を向けると、そこにはどこかで見たことのある顔もあった。
誰だったか名前までは思い出せないが、前世の僕の記憶には間違いなくある顔だ。
「おい、お前」
そいつの肩を掴むと一瞬ビックリしたように振り向き、すぐにその顔はにやけたものに変わった。
「何だおめえ?」
「近所の迷惑になるだろ。それに、中学生がこんなバイクに乗って何やってんだ」
「中尾、そいつお前の知り合いか?」
「知らないッス、初めて見る奴です」
中尾……こいつ、前世で渡辺と一緒に僕を虐めてきた中尾亮一か?
いや、僕の知るこいつは不良ではあったとは思うが、こんな暴走族紛いの真似はしていなかったはず。
「俺達に文句でもあるのか?」
「文句があるから言っている。ここはお前らに相応しい場所じゃない。
即刻ここから立ち去れ」
言っても聞かないだろうが建前上はこう言っておく。
しかし、こいつは前世の僕に因縁のある相手。
しかも日高さんによって良い方向に改変などもされて無さそうだ。
ここでもし喧嘩になっても、倒してしまって問題無いだろう。
「偉そうにしやがって、俺達を誰だかわかって言ってんのか?」
「知らんし覚える気も無い」
いよいよ一触即発と思った瞬間、僕の目に信じられない光景が眼に入った。
なぜ、お前がここにいる?
「おい! 君は──」
慌ててその手を掴もうとした時、中尾が僕に殴りかかってきた。
それをさっと交わし、すれ違いざまに横腹を目掛けて鋭く拳を入れる。
倒れる中尾を頭を打たないように受け止めそっと地面に寝かせた。
「中尾ッ!? 何だこいつやべえ……」
「てめえ! こんな事してただで済むとおも」
何か言っていたが、回し蹴りでそいつの顎を蹴り上げ黙らせる。
唇でも切ったのか、口元を押さえ睨み付けてくるがそれ以上は何もしてこないようだ。
そんな事より、早くあいつを捕まえて問いたださないと……しかし、そこにはもうあいつの姿は無く、暴走族達も我先にと逃げ出し始めてしまった。
気が付くと寝かせておいた中尾の姿も無い。恐らく誰かが担いで行ったのだろう。
それにしても、なぜあいつらの中に中野友一が……何かの見間違えか?
静けさを取り戻し薄暗く染まった公園内で、僕はただ一人残され立ち尽くしていた。
せめて週一ペースくらいで書いていけたらいいなと思いつつ、これが最後の本編です。