第103話 一人じゃない
今回、つづれしういちさんから頂いた素敵なイラストを使わせていただきました。
本当にありがとうございます!家宝にします!
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雨上がりの焦げたアスファルトの匂いとセミの大合唱がピークを向かえ、それが私に奇妙な懐かしさと似た感覚を与えた。
早いもので、あの林間学校で起こった騒動からもう1週間経とうとしている。
今考えても、神様のことだとか贈り物のこと、あの時間で起きた事件も全部夢だったんじゃないかって思えてしまう。
全部実際にあったことなんだけど、何だか現実味が無いことばかりで、私の弱い頭じゃ処理が追いついていないのかも知れない。
何にしても、誰も犠牲者が出なくて本当に良かった。
あれから宇月君は謙輔への復讐も止めてくれたみたいだし、彼が私と同じ過去転生者だったってのはビックリしたけど、もうあんなことしないって言うなら、私からこれ以上何か言うことも無いか。
***
そういえば沙耶だけど、小岩井のことはあきらめて新しい恋人を探すのだと息巻いている。
まあ、相手があの河村さんじゃね……。
勝ち目が無いというか端から相手にされていなかったというか……ご愁傷様。
「……というわけで、今度の連休三人でデパート行かない?」
「何が、というわけでなんだ?」
「や、だから、二人とも私の応援してくれるって言ったじゃん!」
「応援って言うか頑張れと言っただけだぞ」
謎の提案を出す沙耶と、呆れ顔の瑠璃。
三人でデパートに行って、それが一体沙耶の何の応援になるのか。
「だから、私のショッピングに付き合ってよ!」
「あたしらに、お前のファッションショーに付き合えと?」
「ファッションだけじゃないよ! 出会いなんてどこに転がってるかわかんないんだし!」
「デパートに出会いなんて無いと思うけどな……てゆうかごめん、私その日用事があるんだ」
「そうなの?」
そう……今度の連休はいよいよ悠太郎と会える日。
沙耶には申し訳ないけど、これは前からの約束だし、それに私だって人並みに恋だってする。
今は東京に引っ越してしまってなかなか会えない彼氏に会うということは、私にとって何よりも優先されることなのだ。
それを沙耶達に言うつもりは無いけど。
「……男か」
「え……」
「男だろっ! この裏切り者め!」
「えっと、ちが……」
「ああ、あのイケメンか。なかなか会えないって言ってたもんな」
「やっぱりいぃぃいいいっ!! もぉおおおおおおっっっ!!」
瑠璃、お前後で説教な。
てゆうか、沙耶ならそんな焦んなくてもいくらでもいい男寄って来るだろ。
「瑠璃っちにはいつも会いに行ってる先輩が居るし、玲美っちにはイケメンの彼氏が居るし、私だって人並みに青春したいよぉおおおおん!!」
「む、村瀬さんはそんなんじゃないぜ!?」
「沙耶、落ち着いて。美人が台無しだよ」
「中学二年生の夏は今しか無いんだよ!? これが落ち着いていられて!?」
沙耶のあまりの剣幕にふと周りの男子達を見てみる。
ほら、美人の沙耶が困ってるんだからお前ら誰かフォローしろよ。
あ、目を逸らされた。根性なし共め……。
「じゃあさ、連休はあたしと一緒にクワガタ取り行くか?」
「何が悲しくて女子二人で虫取りなんか行かなきゃならんのよ!」
瑠璃のこのクワガタに掛ける情熱は何なんだ。
「この埋め合わせは夏休みにでもするから、今回は本当にごめんね」
とりあえず、適当にごまかしてこの話は終わりにした。
うん……悠太郎とのデートでデパートに行くことだけは避けておこう。
***
帰り際、教室を出るとそこには謙輔がいた。
珍しいね。小岩井あたりに用事でもあるんだろうか。
「今帰りか?」
「うん。小岩井? 呼んで来ようか」
「ああ、ちょっとお前に話しておきたいことがあって立ち寄らせてもらったんだ」
私に?
いったい何の話だろう……いつに無く真剣な表情の謙輔。
「宇月のことだ」
「宇月……君?
復讐は止めたって聞いてたのに、また謙輔にちょっかい出してきたの?」
「違う違う、それは無いから安心してくれ」
「そう……私も無関係ってわけじゃないから話なら聞くけど」
「じゃあ、ちょっと着いてきてくれるか?
ここだと話しにくい……っていうか、聞かれるとなんだか中二病みたいな話になっちまうからな」
ああ、確かに!
転生だの贈り物だのって……聞く人によってはそういう風に聞こえちゃうもんね。
言っておくが、別に私は腕に何かを封印するための包帯を巻いていたりはしない。
「どこで話す?」
「空き教室があるんだが、そこでいいか?
そこに実は宇月も呼んである……とは言っても、あいつは向こうが終わってから来るから少し遅れるけど」
「え、宇月君も来るの?」
「この前の騒動を詫びにうちに来る予定だったんだとよ。
実は俺もこの前あっちに行って来てさ。その時にあいつとも話したんだ」
「そうなんだ」
「あいつ、お前にもしっかり謝りたいって言ってたぜ」
「謝るくらいなら最初からしなきゃ良かったのに……」
そうは言っても、宇月君は謙輔をずっと敵視してたんだし無理も無いか。
私も事情は少し違うけど、似たような境遇だから気持ちはわからないでもないかな。
***
──空き教室。
校舎の南、1階のはずれにあるこの教室は以前は文化部が使ってたらしい。
だけどその部も去年無くなってしまって、それから立ち寄る生徒も少なくなっていた。
……で、そんな教室の鍵を何で謙輔が持っているんだろう。
「盗んできたわけじゃねえよ。
この前の騒動のお詫びに、この教室を掃除するって言ったらあっさり貸してもらえた」
そう言いながら、掃除道具を普通に取り出す謙輔。
「実際に掃除するの?」
「そういう名目だからな。玲美は宇月が来るまで待っていてくれ」
「じっとしてるのも嫌だし、私も手伝うよ」
そう言って平らな形をしたほうきを受け取る。
平らな形をしたほうき。名前は知らない。
端っこの方をほうきで掃くと、大量のほこりがまとわりつく。
大量のほこり……。
「ゴホッ……窓開けたほうが良くない?」
「……だな」
「何やってんだ、君達は……」
そこには、むせている私達を呆れるように見ている宇月君の姿があった。
「掃除か? 僕も手伝おうか」
「いや、後でいい。
それより遠いところ済まなかったな」
「お互い様だろ。それより、日高さんも呼んだのか」
「宇月君に言ってなかったの?」
「すまん。実はさっき思いついたんだ。
宇月、お前も玲美に謝りたいって言ってただろ?」
「そうだけどさ……まぁいいか。
あの時は本当に申し訳なかった……そして、僕の暴走を止めてくれてありがとう」
「あ、いえ……」
宇月君の謝罪は、何ていうか姿勢がとても綺麗で誤られているこっちが逆に恐縮してしまうほどだった。
そっか、前世の記憶があるんだっけ……精神年齢は私達よりもよっぽど上なんだろうな。
「貴重な贈り物まで使わせてしまった。
君も転生者なんだろう? 何か目的があっただろうに使ってしまって良かったのか?」
「私の方はもう済んでますから……」
宇月君を年上と意識すると、何故か敬語になってしまう私。
そもそも、宇月さんって言わなきゃいけないんじゃないかな。
「そういえば宇月、お前の前世のこと調べておいたぞ。
中野友一……目に見えての虐めには遭っていないようだ」
「そうなのか?
僕の記憶だと、この頃は……お前の取り巻きに毎日のように虐められていたはずだが」
「……すまん」
「いや、お前じゃなくてだな……ああ、もう! めんどくさい!」
えっと、別の時間軸で宇月君は……つまり、中野君は……んん?
「前世って中野君……なの?」
「そっか、そういえば玲美は知らなかったな。
こいつの前世は中野友一。
一年の時、お前達の班に居たろ。あいつだ」
中野……友一君。
クラスが変わってから接点無かったけど、まさか彼が宇月君だったなんて……。
でもそれって同一人物が同じ時間軸に生きてるってことだしおかしなことにならない?
「正確には僕は転生じゃ無く憑依だ。
魂だけ未来からやってきて、こうして宇月一哉の肉体に宿った」
「そんなことってあるんだ……」
だから、前世の記憶があるのね。
憑依ってことはつまり、宇月君は中野君が取り憑いた宇月君で、中野君が二人居るのも時間軸が違うから許されることで……頭がこんがらがってきた。
「調べていくうちに妙なことがわかった。
虐めには遭っていないが、逆に虐めに加担しているという声をあいつのクラスの奴から聞いた」
「そんな馬鹿な……僕は自分で言うのも悲しくなるが気が弱くて小動物のように臆病だったはずだぞ」
「お前達、掃除終わったか?」
あ、生活指導の先生だ。
そっか、掃除って名目でここを借りてたんだっけね。
「もう少しで終わります」
「早めに終わらせてくれよ。先生も忙しいんだからな」
「うぃっす」
先生が来てしまったので話し合いは後日謙輔の家でということになった。
中野君のことはともかく、こうして見ていると二人は本当に和解したみたいだね。
そのことだけはホッとしたよ。
「ま、罪滅ぼしってわけじゃないけどさ、できる限り中野のことは俺がしっかり見張っててやるよ」
「とはいえ、これは元々は僕自身の問題だ。
君は学校に居る間少しだけでも気に掛けてくれれば良いさ」
「私も何か協力しようか?」
「いや、いい。お前には林間学校で散々助けてもらった。
今日来てもらったのも、宇月に謝らせるいいチャンスだと思ったからだ」
「まさか、いきなり今日とは思わなかったが……」
「ま、ともかく……この謙輔様が手助けしてやるんだから、大船に乗ったつもりでいてくれや」
謙輔はそう軽く言ったけど、それとは裏腹にその思いは真剣なんだと思う。
それは、私自身が謙輔に何度も助けられたからよく知っている。
「宇月君……中野君って言えばいい?」
「宇月でいいよ。中野はこの時代に生きている中野友一のことだからさ」
「謙輔は本当に頼りになる奴だからさ、前世では色々あったかもだけど……仲良くしてやってね」
「ああ、もう僕は間違えたりしない……大丈夫だ」
宇月君の過去にどれほど凄惨なことがあったのかは、私にはわからない。
それでもきっと、今の宇月君なら贈り物なんて無くてもどんな苦難でも乗り越えていけると思う。
宇月君はもう、一人じゃないんだから。
その晩、テレビで憑依霊に取り憑かれた一家を霊能者がお祓いするという特番がやっていた。
もしかして、宇月君も霊能者にお祓いされたら成仏しちゃうのだろうか……とか変なことを考えてしまったが、このことは私の胸にそっとしまっておこう。
……きっと成仏する。
更新遅くてすみませんm(__)m
次回から最終章になります。




