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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学二年生編 本編その1 止まった時計の針
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第99話 チート

 動こうとした途端、不意に足がふらついた。

 さっきの奴の攻撃が効いたというのか? チートも何も無い、奴の攻撃がか……?


「どうした、俺を殺すんじゃなかったのか?」

「慌てるなよ。そんなに死に急ぐことも無いだろう」


 平静を装い、感覚が正常に戻る時間を稼ぐ。

 ついでに逆上し過ぎて逆上せあがったこの頭を冷やすのにも丁度いい。

 ふと辺りを見渡すと誰が置いたのか、おあつらえ向きに竹刀があった。

 俺はそれを手に取る。

 チート能力で剣道にも打ち込んできた俺にとって、鬼に金棒……いや、鬼にチートか。


 剣道三倍段────。

 奴の喧嘩戦法は所詮空手の真似事……竹刀を持った相手には手も足も出ないはず。

 これで、奴の勝ちは完全に潰えた。

 俺の勝利をより確実にする為にも、得物はより長い方がいい。


「さあ、始めようか」


 剣先を渡辺に向けると、奴は不敵に笑った。


「この勝負、俺の勝ちだ」

「何を世迷い言を」


 そうこうしているうちに平衡感覚も元に戻った。

 俺の勝利は不変のものとなったのだ。

 さっさと終わらせて、復讐を再開させてもらう。

 日高には悪いが、その間は外のアホ共と一緒に気絶していてもらうとするか。

 いくら俺の邪魔をしたギフト持ちとはいえ、無関係の者を巻き込む気は無い。


「俺から行くぜ!」


 飛び掛かってきた渡辺を剣先で払い、脳天へと竹刀を叩きつける。

 頭を押さえて痛みを訴える奴を見ていると笑いが込み上げてくる。


「いい様だな! 渡辺!!」


 偉そうな事を言っておいて、やはり剣道の前に手も足も出ないでは無いか。


「ほざいてろッ! 俺の勝ちだとさっき言っただろ!」


 何が勝ちなものか。

 ほら、悔しかったらこの剣捌きを避け切ってみろ。


「ぐあ、痛えっ!」

「謙輔! もうやめよう!

 宇月君は、どうしたら復讐を止めてくれるの!?」

「渡辺を殺したら」


 それを聞いて遂に日高が泣き出してしまった。

 何故泣く必要があるのか、全く理解できない……こいつに危害を加える気は無いというのに。

 知っているか? 人は他人の為に泣く事はできないんだ。

 所詮はお前も、自分だけが大事なだけの偽善者の一人という事か。

 誰も俺の深い悲しみなど分かるものは居ない。


「泣くな、玲美! 俺がまた、お前の楽しい日常を取り戻してやる!」

「お喋りなどしている暇はあるのか!?」


 近付こうとする渡辺を竹刀で叩きまくる。

 亀のように丸く固まって本当に滑稽だな、渡辺。

 そうして耐えて、何とか突破口を見出そうとしているのだろうが、まだまだ甘い。

 剣道には防御を突き破るための技だってあるのだ。

 俺は渡辺のがら空きの喉へ向かい、激しく突きを繰り出した。


「待ってたぜ……それをな!!」

「何っ!?」


 渡辺は俺の突きから横へ逃げ、竹刀を掴むと強引に引っ張った。


「お前の格闘技はどれも丁寧すぎるんだよ……確かに強いかも知れねえが、場数が足りてねえ!」

「しまっ……」

「もう一発頭突きを喰らいやがれっ!!」

「がぁっ……!?」


 奴はずっとこれを狙っていた……?

 くそっ……目が霞む……まだだ……俺はこんなところで負けるわけにはいかん!

 俺は────!


「……僕は! こんなところで倒れるわけにはいかないんだ!!」

「謙輔ラリアットッ!!」


 ラリアット……だと……?

 プロレス技なんて……聞いて……な……い……。



……………………

…………


***


 ……終わったか。

 まったく……しつこい奴だったぜ。

 本音言うと、素手で来られてたら勝ち目なんて全然無かったろうな。

 あいつが竹刀を持ってくれて助かった。


「謙輔! 怪我は大丈夫!?」

「ああ……駄目だな。お前が膝枕してくれたら治るかも知れん」


 などと意地悪なことを言ってみる。

 ……と、言ってからしまったと思った。

 こんなこと言って玲美にしばかれたら、今度こそ俺はKOされてしまう。


「……そんなので治るなら、いくらでもするよ!」


 え……?

 いやいや、予想外の返答に俺もどう言ったらいいのか一瞬分からなくなった。


「いや……冗談だ。そんなことしたら、悠太郎にどやされちまうからな。

 あいつは、そこで寝てる奴なんかよりよっぽど怖え……」


 これについては半分冗談で半分本音。

 直接戦ったことは無いが、悠太郎をキレさせたら流石の俺も無事でいられる保証は無い。

 イケメンな上に強いとか、あれこそチートだろ。


 ……さて、それは置いといて、今のうちにこいつの手足を縛っちまわねえとな。

 野郎を縛る趣味なんて無いが、こいつには色々聞かなきゃならん。


「玲美、俺を縛っていたロープを持ってきてくれ」

「うん。それだけじゃ足りないかも知れないから、他にも無いか探してくるね」


 玲美からロープを受け取り、宇月を縛り上げていく。

 それにしても、こいつ……散々人の顔を竹刀で叩きやがって。

 せっかく中学入ってここまで、何も問題起こさずやってきたのに……こんな顔で先生や親父に何て言い訳したらいいんだよー!

本編1の終わりまでもう少しです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすが謙輔さん!(下っ端1) いや、ほんとさすが謙輔さんだわ……! 玲美ちゃんの膝枕は魅力的でも、悠太郎くんとの友情はもっと大切よね。
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