さらば青春の光
一人息子が単車で事故った。
ヘルメットが吹っ飛んで頭がかち割れ、生死の境を彷徨っている。
白青の初期型ヤマハRZ350。
ナナハンキラーと呼ばれていた、今は亡き2ストロークエンジンの単車だ。
こいつと俺は仲間から「青い流れ星」と呼ばれていた。
街道レーサーとしてGSX750Sや750RSとタメを張っていた。
青春の思い出として大切に車庫で保管してあった。
高校生になった息子がこいつを見つけ、乗りたいと言い出した。
「オヤジ、俺は2ストの単車に乗りたいんだ!」
排ガス規制の影響で、もう2ストエンジンの単車を新車で手に入れることができなくなった。
中古車を買うにしても、俺のRZ350より程度の良い単車はないだろう。
俺が高校生のときには「免許を取らせない」「買わせない」「運転させない」という「三ない運動」があった。
それでも学校に隠れて免許を取り、単車を買って乗り回してた。
そんな俺が息子に「単車は危ないから乗っちゃ駄目だ」と言えるだろうか。
ましてや俺と同じ趣味を持とうとしている。親子でツーリングに行ければ楽しそうだ。
思春期で反抗期の息子とのコミュニケーションを単車が取り持ってくれる。
俺は2つ返事でRZ350を息子に譲った。
「大事に乗れよ。取り回しに気をつけろ。タチゴケなんか絶対にするな。2ストオイルは『赤缶』じゃなきゃ駄目だからな!」
「オヤジ、うるさい。ウザい」
「いいから聞け! このチャンバーは特注で作った物で、2度と手に入らないから絶対に潰すなよ!」
「オヤジは俺より単車が大事なのかよ・・・」
「えーっと。事故には気をつけろ。メットはちゃんとかぶれ。グローブは暑くてもしろよ」
「もういいよ!」
俺にはもう1台、単車がある。初期型ヤマハVMAX。
Vブーストという、エンジンが6000回転以上になると多量の混合気をシリンダーに送り込む装置が搭載されていて、馬鹿みたいに馬力があるマッチョな単車。
このVブーストを働かせたくて必要以上にエンジンを回してしまう。
その結果エンジンパワーに耐えられず、ドライブシャフトを3回ほど捩じ切って交換している。
RZ350、VMAXとも30年以上前の骨董品だが、現在でも十分「速い」といえる単車だと思っている。
「今度の日曜日、晴れたら俺がVMAX、お前がRZ350で芦ノ湖あたりまで日帰りツーリングをしようか」
「ガス代、オヤジ持ちならいいよ」
そんな約束をしてすぐに事故りやがった。
息子はまだ辛うじて生きているが、RZ350はグシャグシャになった。廃車だ。
『青い流れ星』と呼ばれていた俺の相棒が・・・。タンクに貼った数々の撃墜マークが・・・。
「俺の青春が散った・・・。俺の思い出が逝った・・・」
「縁起でもないことを言わないで! 英一はまだ死んでいませんっ!」
・・・。嫁さんに叱られた。女にはわからないのだろう。この気持ちは。