開ける幕
私は昔から自分が嫌いで堪らなかった。音楽家を両親にもつ私は音楽の才能の欠片も無かった。周囲からの痛い眼差し。「お姉ちゃんはピアノがあんなに上手なのにねぇ...」とため息を吐く音楽教室の先生。姉ばかり可愛がる両親。そして何より期待に応えられない愚かな自分。その全てが全て苦痛で、苦悩だった。幼い頃からその重荷を何処にも捨てられずに。
「...ごめんね...おかあさん...おとうさん。」
皆寝静まった頃の部屋。私は今日も静かに呟く。
***
「よしっ!」
桜舞う季節。工藤音羽は今日から中学生になる。
私立中学ならではの可愛い制服を見に纏い、少し大きいことに不満を覚えながらも音羽は中学生になる喜びを噛み締めていた。
(入学式にはお母さんもお父さんも来れないけど、なんだか...)
...楽しい中学校生活になりそうな予感がする。
「そろそろ行くか。」
そう呟き、音羽は外へ踏み出した。
[音羽side]
絶好の入学式日和。こうして歩いていると明日からここを通って行くんだという中学生の実感が、じわじわと湧いてくる。
(友達、できるかなぁ...)
私が今日からそこの生徒となる私立泉崎中学校は、私と同じ小学校から来る人が一人も居ない。皆、公立中に進むからだ。だから余計、不安に駆られた。
学校に向かえば向かう程、期待と不安が入り交じったようなあの独特な気持ちになる。
「あ、音羽。」
声に気づき前を見ると、小学校時代の友人がこちらに向かって手をふっていた。
「いけゆう。もえかちゃん。」
「せーふく、可愛い。いいなぁー!」
「うちらさ、こんなダサいんだよ。あり得なくない?!...てか、浮かない顔してどーした?」
「え、そんな顔、してる...?」
私は慌てて顔を両手でペタペタと触る。
「はーん、分かった。同小1人も居ないから、不安なんでしょ。」
「音羽は面白いし、優しいからすぐ友達できるよ!」
...まったく、この二人には手が上がらない。
「ありがとう。頑張るよ。そっちも頑張れ。」
「うん。お互い頑張ろうぜ。」
「またね!」
「うん、バイバイ。」
私たちはお互いが見えなくなるまで、手を振り合った。
「...!?や、やば。時間!!」
私は慌てて入学式へ向けて走り出した。