5. (五人の仲間が生きていた)〈三〉
『Moon暦726年2月25日(土)』
今回はマーシャさんから連絡が入ったと、リリーさんが中継をしてくれた。
「キャプテンです。連絡ありがとうございます。彼女たちのことではご迷惑をかけて申し訳ありません。元気にしてますか」
「私がいつもそばにいるわけではないですけど、問題はないようです」
「ありがとうございます。私たちはあなたに名前をつけました。名前を伝えてもよろしいですか」
「彼女たちは名前で呼んでますが、そういうことですね」
「そういうことです。名前がないと会話は難しいです」
「私は二人に何と呼ばれてるのですか」
「マーシャさんと呼んでます。気に入ってもらえましたか」
「マーシャさん、すてきな響きですね。その『さん』とはどういう意味ですか」
「その名前の人に親しみの気持ちを込めて使う言葉です」
と、私はそう説明した。
彼女の存在は不明な部分がほとんどだけど、仲間と同じ名前だと失礼にあたるし、まして、仲間を助けてくれた恩人なのだから、感謝の意味を含めなくてはいけない、と思い『さん』付けてリリーさんと同じ呼び方にしたことを、彼女は気付いてくれただろうか。
「リリーさんと同じ意味ですか? キャプテンにはその『さん』がありませんね」
「私はキャプテンと呼ばれてますが、ほんとうの名前はマギーと言います。彼女たちの名前と同じでさんは付きません。彼女たちは私の名前を知りません。私はキャプテンですからその名前は秘密にしてください」
「分かりました。名前ことは秘密にします。私の名前はマーシャでよろしくお願いします」
「ありがとうございます。今度からそう呼ばせていただきます」
「こちらこそ、名前を付けてくれてありがとうございました。話しは変わりますが、私が建物を突き破ったときに、外の穴から入って下に落下したのはキャプテンだったのですか? 仲間がマギーと呼んでました」
「そうですけど……」
「あの時はごめんなさい。キャプテンの視線が私の位置で止まったのです。だから上から圧を加えたけど、危害を加えるつもりはありませんでした」
「えっ、あれはマーシャさんだったの?」
と、私は彼女の思いがけない言葉に驚いた。
「怪我はありませんでしたか?」
「あの時は一瞬頭がクラクラしただけですぐ回復しました」
「よかったです。キャプテンが私を見てたので、私は見つかると思い意識を外すつもりでした」
「あの時は何も見えませんでしたよ」
確かに落ちる前に一箇所おかしな場所があり、壁の残骸がそこだけ少し消えていて、私の視線はあのドアの横に少々固定されていたのだ。
「私の話しを少し聞いてもらえますか。私は建物にぶつかった瞬間に『あいつ』を外に放り出しました。それと同時にパワーを解除して自然体に戻りました。『あいつ』は体が柔らかくて壁にぶつかったと思うとバウンドしてそのまま消えてしまいました。私と同じでワープができたのです。『あいつ』は地球に行きたかったけど、大気圏を突破できないと判断しそれで私の力を利用したかったと思います。下等生物である『あいつ』は私の住み家を荒らし回り、私は自分の住み家を守るつもりで『あいつ』を追い出したくて地球に来たのです。この意味を理解していただけますか。私はあなたたちの判断力に感謝してます。『あいつ』を地球に連れて来たのは私ですから、地球で『あいつ』が暴れ回るのを阻止してもらえて助かりました」
と、彼女がそのような経緯を説明してくれた。
なるほど、そのような理由があったのだと思い、『あいつ』はどこにワープしたのだろうか。
確かにホールとEクラスは近いがその後の足取りは分からずじまいだが、しかし『あいつ』の存在が消えたことは確かである。
次は自分の住み家に戻れた話しで、私たちが右往左往している間に彼女は自分のパワーを使い果たしたので、幸いなことに『あいつ』はすぐに自分の前から消えたので、ここの電気系統のエネルギーを見つけて吸収していたそうだ。
最初はドア近くで、私が下に落ちてから天井付近に移動して吸収したそうで、マーシャさんは地球の言葉でいうと擬態ができるらしく、彼女はいったい何者(物)なのか?
あの時一瞬電源が落ち、リリーさんも理由が分からなくて予備電源を使ったと言っていたけど、マーシャさんが一気に電気のパワーを吸収していたからなのだ。
電気のパワーは素晴らしい、一瞬にしてエネルギーに変換できたと言われ、自分の住み家には存在しないのでこのシステムを詳しく聞きたいとも言われたので、その件に関しては私は分からないので、リリーさんから説明が聞けると話した。
自分の住み家に帰ろうとした瞬間に、私たちの異様な会話をキャッチしたので、素早く彼女たちを包み込み、そのままワープして住み家めがけて帰ったそうだ。
帰り着いたときには彼女たちの意識は消えていて、空気の成分が包み込んだときに含まれていたので、エネルギーの余裕が少しあり、すぐさまドームを作り替えて彼女たちを保護したそうで、今まで人間に酸素が必要だとは気づかずに、今回初めて知ったと話してくれた。
彼女たちから今まで以上に色んなことを学んだとも話してくれ、上からの信号はずっと前からキャッチしていたが、自分の存在が知られたくないので無視していたとも話してくれた。
前から私たちの言葉も少々理解できたと話し、彼女たちのお陰でよりいっそう会話ができるようになったと説明してくれ、『ムージュ号』と上の世界とどちらに連絡を取るかで迷ったけど、彼女たちの意識の中には上の世界は存在していなかったので、ここに連絡を取った方が賢明だと思った、とも話してくれた。
彼女たちの意識の中にはキャプテンとリリーさんの存在が大きくて、あなたたちなら彼女たちを引き取りに来てもらってもいいと思うようになり、自分は『ムージュ号』に連絡したとも話してくれた。
彼女たちにはすべてこちらのエネルギー不足で連絡が遅くなったと言ってあるけど、私も自分の存在を極力知られたくないので、いろいろ手間取って時間がかかり遅くなって申し訳ない、と言ってくれた。
彼女たちの意識の中に今後どうなるのかと不安を感じ始めたので、時間の限界を感じ運良く一回目の連絡が取れたけど、自分の手違いで通信が途切れたことも伝えてくれ、ジョナの意識はキャプテンと話せたことで少々回復して穏やかになり、安心感が芽生えたのではないか、と説明してくれた。
ジョナはいつもほかの仲間を励まし続け、彼女の存在でほかの仲間も精神的に救われていると思ったらしく、自分はジョナとキャプテンとの会話を最優先し、二回目の会話ではジョナはキャプテンを信じているから、必ず『ムージュ号』に帰れると思ったのか、意識が力強く変化したことが感じ取れた、と話してくれた。
彼女は上の世界もある程度は理解しているが、彼女たちを送り返すことにおいて、私たち意外に会話の糸口は見いだせないと思い、上の世界と友好関係を作ることには賛成だが、私以外の対談は拒否すると言い、私が上に行ってジョナの時計に電波を発信すれば、こちらから必ず連絡をすると約束してくれた。
上の位置はわりとすぐに確認が取れるけど、ここの位置はずれが生じて確認が難いので、リリーさんが二十一時から二十四時までずっとにジョナの時計に電波を発信をすることを約束し、今回の連絡は終わった。
これで向こうからこちらへの連絡が確実に取れることが判明し、三回目の連絡でこれだけの重要な進展があり、彼女はとても友好的で相手の気持ちも十分に理解する能力を持っている、と二人で話して強くそう思い、彼女たちは意思の疎通ができる異星人(?)に救われて、ほんとうに運がよかったのだ、とつくづくそう思った。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
こういうストーリーですが、引き続き読んでみたいと思われる方は、新たなタイトルである『仲間を迎えに行くために、やっと『ムージュ号・二世』が発進した』を、よろしくお願いいたします。