第七話 躊躇
語り手は、少女を殺すことにしました。
「ごちゃごちゃうるさいんですよ」
語り手は近くのデスクに寄りかかると、そんな風に少女に言いました。木製のデスクの上には鉛筆や鉛筆削り用のナイフ、パソコンやメモ帳、セロテープやホチキス……そんなものが乱雑に散らばっています。少女は語り手の言葉にハッと息をつめて、身を強張らせました。
以前まで幸せな物語を語っていた頃の語り手とは似ても似つかず、まるで冬にできるつららのように鋭く冷たかったからです。
語り手は丁寧な口調ではありましたが、鋭さをそのままに更に言葉を紡ぎました。
「私の語る物語は大した伏線もなければトリックもない。単調で大したクライマックスもない。シナリオはハチャメチャで、結末はいつだってただの“幸せ”だったんです。その幸せを私は大切にしていたんです。でも、周りに言われて気付きました。そんな妄想、そんな戯言、何の役にも立たない、イカレテいると」
堰を切ったかのようでした。語り手は次々とその胸の中にあるものを悲痛な表情で吐き出し続けます。
その中で僅かに笑顔を少女に向けました。
「私のかわりに物語を語ると、貴女は言いましたね。貴女は語り手に替えが利くと思っている。確かに世界には似たような物語が溢れていて、語り手が一人や二人いなくなったところで誰も気に留めないのでしょう。語り手がいなくなったとして、人々はその替えをすぐに探し出すし、世界はそれでも円滑に回るんです」
「そんなことないわ!」
少女は勇気を持って、ようやくそう叫びました。語り手の言葉に応えたのでした。目にいっぱい涙を浮かべて語り手を見つめています。
語り手はその様子を半ば面倒くさそうな表情さえ浮かべて見下ろしました。本当に何もかも面倒くさくなってしまった語り手は、後ろ手でデスクの上を漁ると鉛筆削り用のカッターを手に取りました。
「そんな戯言はもうたくさんだ……!」
呟くように絞り出すように語り手は言って、ナイフを少女に向けて振り上げました。
少女はその間にこんなことを叫びました。語り手に届くように叫びました。
「私が聴きたいのは似たような物語なんかじゃない!他でもないあなただけの物語よ!!」
そして、ナイフを振り下ろそうとしていた語り手は
【選択肢】
1、一瞬、躊躇いました。→『第十二話 かけがえのないあなたへ』へ
2、一瞬の躊躇もなくそれを振り下ろしました。→『第十三話 語らないもの』へ
※
あなたの心にこの言葉が届きますように。
第十二話~第十三話は、12/18の21:00以降にUP予定です。