第十五話 少女の夢
その時、少女は目を覚ましました。
いや、この期に及んで“少女”というのは少し語弊がありますね。
……その時、“おばあさん”は目を覚ましました。
ふかふかのベッドの上でおばあさんは白い天井を見ました。
「何だったのかしら」
おばあさんは呟きます。
「どうかしましたか?」
ベッドの傍らにいる若者がおばあさんに尋ねました。おばあさんはその若者に目を向けて、でもすぐに天井に視線を戻します。
「夢を見ていた気がするの」
「へえ、どんな夢?」
若者の傍らには小さな女の子がいました。若者の娘です。
「忘れちゃった。でも、きっと大切な夢」
「……」
「おばあちゃん?」
一筋、二筋。
おばあさんの目から静かに涙が溢れました。
「何だかね、胸がいっぱいで苦しいの」
「今日の分の薬は飲みましたか?」
ベッドのそばには小さな丸テーブルが置かれていて、水差しとコップ、それにカプセル型の薬がその上にありました。
「ええ、飲んだわ。けどね、胸が苦しいのは病気のせいじゃないわね」
「そうなの、おばあちゃん?」
「そうよ」
「じゃあ、何のせい?」
「そうね……きっと大切なことが胸に引っ掛かっているせいね」
おばあさんは胸をそっとおさえます。
そんなおばあさんの頭を少女はうんと背伸びをして撫でました。小さな手がふわふわの白い毛に埋もれます。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。もう少し泣いたらきっと収まるから」
「それでも一応安静にしていてくださいね」
若者も心配そうに言いました。
「分かったわ」
おばあさんは言いました。
若者と女の子がおばあさんの部屋から出ていこうとしたところで、女の子は自分の父親の服を引っ張りました。
「ねえ、お父さん。今夜もおばあちゃんと一緒のベッドで寝ても良い?」
「おばあちゃんに訊いてごらん」
若者は自分の娘に言いました。
「ねえ、良いでしょ、おばあちゃん」
「ええ、いらっしゃいな」
おばあさんはまるであどけない少女のようにキラキラした笑顔を浮かべています。
「その時は、お父さんの”昔々あるところに””めでたし、めでたし”っていう幸せな物語もまた聴かせてね」
「あら、それは私も聴きたいわ」
娘とおばあさんが口々にそう言うのを聞いて、若者は優しい笑みを浮かべました。
「ええ、もちろん」
そんな笑顔を見て、おばあさんもしわくちゃな笑顔を浮かべました。その目にはもう涙はなく、胸に引っかかっていたものも、もうすっかり取れたようでした。
めでたし、めでたし。
End 8『少女の夢』
※
夢を見て、面影を見て、いつかの日々を想う。
End 8『少女の夢』へようこそ!
はい、夢オチエンディングです!
夢オチって実は一回書いてみたかったんですよね。
一応、ハッピーエンド枠です。
他にもまだハッピーエンドもバッドエンドもございますので、見てやってください!