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第十一話 花が咲いたのち

「お金はないの…」

 少女は残念そうに呟きました。少女のおこづかいは、月200円です。今月の分はもう駄菓子を買って使ってしまったし、貯金箱の中にも少ししかありませんでした。

「手持ちは、これだけだわ」

 と差し出したのは小さな一輪の花でした。爆弾魔の住処に来る途中で見かけた小さな花がとても綺麗だったので、摘んでおいたのです。

 家に帰ったらテーブルに飾ろうと思っていたのですが、この際仕方ありません。

 それを受け取った爆弾魔は大きな声で笑いました。


「なるほどなあ。……俺は、金があって心意気がない奴よりは金がなくても心意気がある奴が好きだぜ。つまり、金がなくても金が無いなりにできる範囲でできることをやりゃあいいって思ってる」

「さっきはお金はあった方が良いって言ったじゃない」

「ああ、そうだよ。でも、ないときに慌てふためいて、亡者の踊りは踊りたくないってもんだろ?」


 そして、爆弾魔は続けて言いました。

「アンタの話には乗るが、残念ながら俺らが殴るべき相手はこの国じゃない」

「じゃあ、誰を殴るの?」

 少女の問いかけに爆弾魔は、手に持った花をほんの少し振りました。花びらが揺れました。

「腑抜けたツラした旧友を」


 その日の夜のことでした。

 語り手はやることもなく、ただ求人情報雑誌を捲っていました。

 語り手の仕事はめっきり減って、貯金も底を尽きそうでした。

 語り手は語るのが仕事ですから語ることを禁じられてしまえば収入がないのは仕方のないことでした。


 そんなことをため息交じりに考えていた時でした。

 語り手の携帯電話に一通のメールが入りました。

 それは語り手のかつての同業者で、現在は爆弾魔をやっている旧知の男からでした。



 件名:5秒間待ってやる

 本文:今すぐ窓の外を見ろ。5秒以内に見なければお前の家は吹っ飛ぶぞ☆




 語り手はすべてを読み終える前に急いで窓の外を見ました。

 すると、


 ドーン

 ドーン

 ドーン……


 夜空に大輪の花がいくつも咲いていました。

 色とりどりの花が真っ暗な闇を照らしました。


 一輪

 二輪

 三輪……


 そして……


 語り手は、気付いたら旧友に電話していました。

「……もしもし。見ました」

「あーあ、つまんねえ奴だな。ここは消し炭になるのがお約束だろうが」

「お生憎様です」

「…そんで?」

「?」

「語り手さんは、この物語にどうオチをつけるんだい?やっぱ“めでたし、めでたし”か?」

 爆弾魔の問いに、語り手は応えます。


「昔々あるところに、一人の語り手がおりました。

 その語り手は一度語ることをやめてしまいました。

 しかし、ある日のことです。

 語り手は家の窓から外を見ました。

 花火が上がっていました。

 その花火はまるで野に咲く花のように可憐で、燃え盛る炎のように苛烈でした。

 そして、そんな綺麗な花に混じってこんな言葉が上がっていました。



 “物語を待ってます”

 “戻ってこい、腑抜け野郎!”



 たった一言でしたが、たった一瞬でしたが、それはどんな物語よりも、どんな言葉よりも、語り手の心に響きました……私の、心に響きました。そして、その語り手は――――」


 語り手はいくつか言葉を紡ぎ、最後に“めでたし、めでたし”と結びました。



「……相変わらず随分と雑なシナリオだが、嫌いじゃないな」

 語り手との電話を切った後、爆弾魔は気持ちよく笑いました。

 爆弾魔と少女は野原の上で横になって二人仲良く花火を見上げていたのでした。


「綺麗ね」

「手持ちの火薬だけでどんだけいけるか不安だったが、確かに綺麗だ。悪くない」

 爆弾魔は少女に同意しました。いまだに上がり続ける花火が少女の笑顔を照らします。花のような笑顔でした。

「ところで、語り手は最後になんて言ったの?」


 爆弾魔は瞳に花火を映して、またまたニヤリと笑います。

「さあ?」

 とても愉快げな笑みでした。



 End 4『花が咲いたのち』



 ※



 「めでたし、めでたし」の後を想像し創造するのは、きっとあなた自身。

End 4『花が咲いたのち』へようこそ!

「花火でそんなに綺麗に字が描けるわけなかろう!」というところに関しては大目に見てください。童話なので。

爆弾魔は基本的には愉快な奴です。他のEndで色々やらかしてますが、嫌いにならないでやってください。

そんなわけで、他にも色々エンディングがありますので、読んでみてくださいね!

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