あなたの側で
とある森の中に、古い小屋が建っていた。その小屋がいつからあるのか、知る人はもういないそうだ。そんな小屋の周りにある、小さな花壇に、小さな花が植えられている。さっき水を与えられたばかりで、木漏れ日を受けたしずくたちがキラキラと輝いている。
水を与えられた花。つまりこの小屋には人が住んでいる。
小屋の中に1人、もう老年が近い女性がロッキングチェアーに腰をかけ、本を読んでいた。本から目を離さずに、近くのテーブルに置いてある紅茶を一口飲んだ。それをテーブルに戻す。これの繰り返しであった。町の忙しさから逃れたこの小屋では、毎日がゆったりとしている。鳥のさえずり、風で揺れる葉のざわめき、遠くの方に聞こえる動物の遠吠え。それらが、いつも自然と耳に飛び込んでくる。
とにかく、追い詰められることは無い、静かな生活を毎日送っていた。
彼女がしばらく本を読んでいると、玄関のドアが開いた。
「あら、おかえりなさい、フォセ。どこに遊びに行ってたのかしら?」
そう彼女が迎え入れたのは、彼女とともに暮らしている小さなドラゴンのフォセだった。フォセはまだ子供。彼女が散歩をしていた時、偶然倒れて苦しそうにしていたフォセを見かけて治療をしたことをきっかけに、2人は一緒に暮らすことになった。
フォセの口には花が根っこごと咥えられている。
「その花...プロテフィの花ね。」
プロテフィの花というのは、青に紫のグラデーションがかかった花である。その根っこには万病に効く作用があるとして有名である。そしてこの花は、かなり不安定な崖の側面にしか生えないという変わった花だ。高所を吹き抜ける強い風に対抗すべく、かなり硬くなった茎は引っ張った程度では到底切れない。だから、引っ張られると根っこごと抜けてしまうのだ。その点では手間があまりかからないものだと言える。
フォセは彼女の前に花を置いた。
「ありがとう。嬉しいわ。」
フォセも、彼女の笑顔を見られて満足した様子だ。
彼女は元々町に住んでいた医者である。だから薬草に詳しいのだ。病気にかかっても自分で治してしまうし、フォセが病気になれば、たちまち治してしまう。とは言ってもフォセは身体が強く、めったに病気になどならないのだが。そのため、1人と1匹でも、不自由なく生活出来るのだ。時々2人で町へ赴き、食料を買う。その代金はもちろん医者として働いていた頃に貯めたものだ。今でも時々病院を手伝ったりして稼いでいる。
「フォセ、今日はあなたの好きなご飯作ってあげるからね。」
フォセはそれを聞くと嬉しそうに翼をはためかせた。目がキラキラとしている。
「少しお家の中で待っててね。お水汲んでくるから。」
そう言って、彼女は小屋を出て行った。フォセは退屈そうにあくびをし、体を丸めて窓の外を眺めていた。
彼女はバケツを持ち、小屋のすぐ近くの湖の水を汲んだ。
「よいしょっと...重いわ...。」
いっぱいに水が汲まれたバケツは当然重い。彼女はそれをゆっくり持ち上げ、小屋への道を歩いて行った。途中で少しずつ休憩を挟み、のんびりと帰った。
小屋に着き、バケツを地面に置いてドアを開ける。
「ただいま。フォセ。」
フォセは嬉しそうに彼女の足元へ向かった。
「ちょっと重いから手伝ってくれる?」
そう言って彼女は、バケツを持つ。フォセはそれを背中で支える。
「ありがとう。」
2人でバケツを台所へと運ぶ。
「ふぅ。昔はこれくらい何ともなかったのに...やっぱり私も歳ね。そろそろこの小屋の管理をしてくれる人を探さなきゃ...。」
そう言って彼女がロッキングチェアーに腰をかけると、フォセが胸を張ったような体勢で彼女の前に立った。
「あら、あなたがこの小屋を守ってくれるの?ウフフ。確かにあなたは人の言葉を理解出来るくらい賢いし、私が教えた動作も覚えちゃうものね。でも限界はあるでしょう?だから、あなたの面倒も見てくれる人がいいわね。あんまり手間のかからないあなたなら、すぐに見つかるわよ。」
フォセは彼女がどういう意味で言っているのか正直わからなかった。
小屋の管理?人探し?考えてもよく分からない。どういうことなのか、ハッキリと分からない。いや、もしかしたら分かっているのに、認めていないだけなのかもしれない。少し表情が暗くなり、考え込む。
「じゃあ、ご飯作るわね。」
だが、彼女のその一言で、フォセはいつものように、嬉しそうに彼女の足元で鼻を鳴らした。先ほどの状態から一転した。もう覚えていないかのようだ。
ご飯が出来るまで、フォセは彼女のよく座るロッキングチェアーの側で寝息を立てていた。
「...小屋を新しく管理してくれる人...出てきてくれるかしら...。」
料理を作りながらそう呟いた。
小屋の管理をする人、それは、この小さな子ドラゴンの世話も一緒にできる人が適切なのだ。今更野生に戻ることなどフォセには無理だろう。出来たとしても、群ではすぐに仲間外れにされたり、1匹でいても襲われたりして、死んでしまうのが運命なのだろう。だからフォセとこの小屋だけは守って欲しい。この小屋を守ることは、フォセを守ることでもあるのだから。
「ハイ。お待たせ。出来たわよ。」
フォセの前に料理を入れた皿を置く。
「今日はあなたの好きなハンバーグよ。」
眠そうに目をこするフォセだったが、それを聞いた途端目を見開いて喜んだ。まだ子供の証だ。
窓の外では、月がやや雲をかぶりながら地上を柔らかく照らしている。町の光にかき消されそうなほどに弱い光ではあるが、森の中ならばそんなことにもならない。自然のままの空気を楽しむのにはとても向いている。
「あんまり急いで食べたら喉に詰まるわよ。」
彼女は小さく「フフッ」と笑いながらそう言った。フォセはそんなことなど御構い無しに食べている。
「...いつ、探しに行こうかしらね...。」
しかし、そんな無邪気なフォセの側で、彼女はまだ悩んでいた。
フォセと一緒に探しに行くのが最も良いと思ったのだが、フォセは自分以外の人間には慣れていない。それゆえ人間が多い場所に連れ込むのは怖がってしまい難しいだろう。でもフォセを会わせない限りは、新しい管理者を完全に安心させることは不可能だろう。
なぜかと言うと、ドラゴンは人々から恐れられる存在だからだ。時に人を襲い、山を燃やし、最悪の場合町をも襲う。
彼女もドラゴンは嫌いだった。幼い頃、森で遊んでいる最中にバッタリと出くわしてしまい、腰を抜かしてしまった。そんな彼女に、大きな声で咆哮を上げたのだ。幼く、おしとやかな彼女がそれで恐怖を植え付けられないわけがなかった。
だから、倒れて苦しそうにしている子供のドラゴンは、いくら自分に言い聞かせても助けたくないと思ってしまっていた。野生の「ドラゴン」が「倒れて」いる。医者として倒れている者を助けるのは当然のこと。しかしその相手はドラゴン。この葛藤に彼女は強く悩んだ。しかし体は勝手に動いていたのだ。治療中には冷や汗が流れ、足はガクガクと震えた。しかし、治療する手は震えながらもしっかりと進んでいった。
治療が終わり、荒かったフォセの息は正常な寝息に変わった。そこで、彼女もハッと気付いたのだった。
「ドラゴンを助けた」のだと言うことに。
どうして、自分はこの子を助けることが出来たのだろう。しかしすぐわかった。恐怖に震えながら、医者の使命を果たし切ったのだ。意味が分からなかった。怖いのに、助けていた。体が勝手に動いた。途中から何も覚えていない。しかし、周りに誰もいない。それならこの子を助けたのはまごうことなく自分だ。それ以外にありえない。現実を受け止め、この子を少し離れて見守ることにした。
しばらく見守っていると、フォセが目を覚ました。彼女はブルッと身震いをし、少し身構えた。フォセは辺りを見回し、彼女を見つけた。自分の体に包帯が巻かれていることに違和感を感じつつも、彼女の方へ歩いて行った。彼女は体が全く動かなかった。前方から来る子ドラゴンをただ見ているしかなかった。
子供のドラゴンが足元まで来ると、彼女の頭には血が上り、今にも倒れそうな気分だった。冷や汗が吹き出た。何をされるのか、不安でたまらなかったが、子ドラゴンは足元で小さく鳴いたのだ。その声で意識はハッキリと戻り、体も動くようになった。でも逃げはしなかった。つぶらな瞳でこちらを見つめてくるその小さなドラゴンは、可愛く見えた。どこか嬉しげだ。助けたのが誰なのか、知っている様子でじっと見ていた。そんな健気な子ドラゴンを見て、彼女のドラゴンへの恐怖心は薄れていった。そして、家に迎え入れ、家族として暮らすようになった。名前も彼女が付けたものである。
日を重ねるごとに彼女たちは仲良くなっていき、さらにフォセは賢くなっていった。いつしか人の言葉も理解出来るようになったのだ。そして今に至るわけだ。
フォセとの出会いを思い出してボーッとしていると、フォセが満足そうに鳴いた。もう食べ終えたようだ。
「相変わらずよく食べるわね。」
一方自分はほとんど食べていない。フォセは少し心配そうだ。
「フフ。ちょっと考え事しちゃってただけよ。気にしないで。」
そう言って、いつものペースでゆっくりと食べ始めた。
朝目覚めると、外は大雨だった。フォセはまだ目が覚めていないようだ。ベッドから身体を起こし、フォセを起こさないように朝食の準備に取り掛かる。
朝食が出来ると、フォセが目を覚ました。彼女はフォセの前にご飯を置いてから言った。
「フォセ、今日私お出かけするから、お家でお留守番しててね。あなたは雨に濡れたら風邪引いちゃうでしょう?」
フォセが風邪を引くようなことが無いのは承知しつつもこう言う他ない。正直なこと言えるはずがないのだ。
それは、昨晩決めたことだ。
フォセはご飯を食べ終えるとすぐに眠り始めた。その時に彼女は決心した。
明日、まずフォセを置いて1人で探しに行こうと。
そもそもフォセを置いて1人で行くのはあまりいいことではない。しかし、1人で行くのにはある理由があった。
それは、ドラゴンがいるからという理由で小屋の管理を止めない、心からドラゴンを愛せる人であって欲しいからだ。
表だけの好きという感情なら、フォセはすぐに見破ってしまう。そう言う人にはよく甘えて好かれようとするが、怖がられたり、嫌がられたりで、かえって距離が離れてしまう。そうなれば2人で暮らすなんて到底不可能だ。だから、信頼し合える関係を築ける人を選びたい。
それが彼女の考えだった。そのためには、まずフォセを連れて行かないで人を探すのがいいと思った。表だけで我慢しつつ了承されても困る。
彼女はフォセが家から出ないように鍵をかけて外へ出た。外はものすごい雨で、肌に当たると痛いくらいだった。傘をさし、いつも町へ向かう際に通る道を1人で歩く。フォセが隣にいないのはやや久しぶりだ。町までの道は大体30分ほどかかる。
雨は弱くなる兆しを全く見せない。むしろ強くなる一方だ。風も強い。雷も鳴っている。できるだけ早く町へたどり着かねば。
やや急ぎ足で、足元に気を付けながら歩く。ぬかるんでいて、少し気を抜いただけでも転んでしまいそうだった。急ぎたくても急げない。焦燥感に煽られる。
雷も近づいて来ているのが分かる。なおさら急がねば。焦りはどんどん強くなる。
道は半分を過ぎようとしていた。あと少し、もう少しペースを上げよう。
その時、足がぬかるんでいる場所に運悪くはまってしまい、彼女は転びそうになった。慌てず、慎重に足を抜く。
そして、再び歩み始めたその時だった。
ものすごい爆音と共に激しい閃光が辺りを埋め尽くした。雷が彼女の近くの木に直撃したのだ。
「キャア!」
彼女はその衝撃でその場に尻餅をついた。木は一瞬にして炎に包まれた。彼女は倒れた衝撃か、雷の影響で体が動かなかった。少なからず電気を受けたのかもしれない。
立ち上がりたい。でも立ち上がれない。体を必死に動かしても、体制を立て直すことが出来ない。
炎を纏った木は今にも倒れてきそうだ。
しかし身体は無情にも動かない。
頭の中にフォセの姿が現れた。しかもたくさん。これが走馬灯というものなのだろうか...ということは、自分は死を勘付いているのか?
木の根元がミシミシと嫌な音を立てる。そして、ゆっくりと倒れ始めた。さらに運悪く、彼女の倒れているところへ、狙っているかのようにまっすぐ倒れこんできた。
彼女は声が出なかった。木が目前に迫った時、彼女は目を固く閉じた。そして、心から漏れ出すように、声が絞られた。
「...フォセ...ごめんね...。」
彼女が帰ってこない。もうお昼を過ぎたのに。雨はまだ降り続いている。さっき雷が落ちた後、ものすごい音がしたけど、そんなまさか。彼女は生きている。生きているに違いない。
フォセは部屋の中で、彼女を待ち続けていた。少し寒い。暖炉は火が消えていた。
フォセは暖炉の火を点けようとした。いつも、彼女がやっていたようにまきを暖炉に並べる。確か隙間を作りながら置いていたような。彼女が火を点ける時の一連の作業を思い出す。
まきを並び終えると、フォセは火を吹いた。すると暖炉に、赤い火が点いた。成功したようだ。
部屋の中がふんわりと暖かくなる。そう言えばお腹が空いた。でも彼女がいないから何も食べることが出来ない。食べ物は勝手に食べちゃいけない約束だ。前に一度かじったときに怒られてしまった。彼女との約束は絶対に守らないと、僕が僕自身を嫌いになってしまうことに気が付いたのだ。
それから空腹に耐えながら彼女を待った。時計に目をやると、いつの間にか4の数字にまで針が回っている。さっきは12だったはずなのに。
暖炉の前で丸くなっていたら、少し眠くなった。眠って、目が覚めたら彼女が目の前にいるはず。いや、絶対にいる。彼女は無事だから。そう信じて、フォセは目を閉じた。
頭にひんやりとした感触を覚えてフォセは目覚めた。
上を見ると、しずくが垂れてきているようで、鼻先にピチャリとまた一滴かかった。頭を振ってそれを払うと、その場から離れた。
大きくあくびをして、外を見やる。雨は止んでいるみたいだ。とは言っても、既に真っ暗。時計の針は7と8の間くらいを指している。
フォセは小屋の中を見回した。
いない。
彼女がいない。
その途端フォセの中の不安が爆発した。ドアに飛びつき、ドアを開けようとする。しかし開かない。
鍵をかけていったのか。フォセの手では、鍵を開けることが出来なかった。
ドアを破ろうかとも考えたが、帰ってきた時に絶対怒られてしまう。
だけど、でも、不安はどんどん大きくなる。
彼女を探したい。見つけたい。会いたい。甘えたい。
彼女のご飯が食べたい。空腹は収まらない。
今すぐにでも小屋を飛び出して彼女を探したい。頭がおかしくなりそうなくらいだ。とにかくジッとしていられない。でも何も出来ない。たまらなく悔しくなってきた。
フォセはドアに向かって唸り声を上げた。そしてすぐ様それは咆哮へと変わった。誰か気が付いてくれ...でも外からは鍵が開かないのでは...?それじゃあ意味が無いじゃないか。では何をすればいい?どうすればドアは開く?最早ドアを開く方法は一つしか無かった。
フォセは後ろ足に力を込めてドアをぶち破った。
彼女との約束を破ったのはこれが初めてだ。しかしそんなことを気にしている暇は無い。
待っていれば彼女が帰ってくるのは当たり前なのに、どうしてこんなに不安になっているのだろうか。僕はどうしたのか。もしかしたら、僕の心の奥では彼女が帰ってこないのではと考えつめてしまっているのか。雷がすぐ近くで鳴ったことや、その直後の轟音。それに、その音がした方向は、彼女が向かった方向だ。
ただの思い込みであって欲しい。その一心で、彼女が向かった方へと飛ぶ。遠くには町が見える。彼女はあそこにいてくれるはずだ。そうであってくれ。
途中、倒れて炭のようになった木を見つけた。一応、あそこに彼女がいないかを確認することにした。
ここにはいないでくれ。すぐに会いたいけど、ここにだけはいないでくれ。頼む。
木は道を塞ぐように倒れていたが、どこにも彼女は見当たらなかった。でも、少しだけ土が赤く染まっていた。きっと小動物なんかが潰されてしまったのだろう。
そんなことは気にせず、再び空へ浮上し、町の方へ向かう。町の中へは入れないけど、上から探す分には問題無いだろう。建物の中にいたら分からないけど...。
町中を見渡したけど、結局彼女は見つからなかった。こんな長い時間飛んだのは初めてだ。とても疲れた。もうお腹も空いて仕方がない。不安は募る一方だが、小屋へと戻ることにした。不甲斐なさだけが残る。涙が堪えきれずに溢れ出る。
なんだか頭がフラフラする。疲れすぎたのだろうか。それに、なんだかまた雨が降りそうな感じがする。早く帰ろう。
小屋に着くと、ぶち破られた扉の破片がそこら中に飛び散っていた。
小屋の中に彼女がいないか期待したが、もちろんいるはずがなかった。いるはずないと分かっていたのに、無駄な期待をして無駄に悲しくなった。また涙が溢れる。
フォセは玄関で倒れこむようにして眠ってしまった。相当疲れが溜まっていたのだ。そのままフォセの意識は深い闇へと落ち込んで行った。
翌朝、綺麗な空が、太陽の顔をしっかり覗かせ、明るく地上を照らしていた。フォセも目を覚ました。目の前には、いつもの小屋の中が見えた。いつも見ている落ち着く風景。
その中にはもちろん彼女がいた。
いつもと同じように、本を読んでいる。体を起こして彼女の足元へ近寄る。そうすると、彼女は頭を撫でてくれた。
でも...その手にはなぜか感触を覚えなかった。
その違和感で目を覚ます。朝日が小屋を照らし、フォセもまた照らされている。背中がほんのりと暖かい。慌てて小屋の中を見る。当然彼女はいなかった。
体が冷たい。寒気がする。自分のいたところはびしょ濡れになっている。昨晩雨に打たれていたようだ。全く気が付かなかった。
小屋を出て、彼女がいつも水を汲みに行く湖に向かった。
水面に浮かぶ葉っぱは静かに揺れている。フォセは少しだけ水を飲むと、その場に座り込んだ。そして、大きな涙を流した。水面が涙を受けて波紋を作る。いくつも波紋が生まれては、消えていく。たくさん涙は溢れ出る。それでも涙は止まらなかった。
「フォセ。」
不意に背後から声が聞こえる。ビクリと体を震わせて背後を見る。
...そこには彼女が立っていた。
小屋には、3名の大人達がやって来ていた。ドアが破られた小屋を見て、若干警戒したが、小屋の中には誰もいなかった。
入り口に、小さなドラゴンが倒れているだけであった。
大人達は小屋の中を調べて回った。彼女の遺品を探しているのだ。
すると、1人の大人が何かを見つけて言った。
「この写真は何だ?」
フォセと彼女が一緒に写っている写真だった。
「入り口にいたやつと似ているな。」
「いや、これが入り口にいたやつだろう。」
3人は玄関を見た。そこには小さなドラゴンの遺体が転がっているだけだ。
「フォセ...ごめんなさい...。」
彼女は涙を流しながらフォセに謝った。何度も、何度も。
「私のせいで、あなたも巻き込んでしまって...本当にごめんなさい...。」
フォセも、さっきよりも強く泣いた。彼女に飛びつき、彼女に抱かれ泣き続けた。
しばらく2人は抱き合い、泣き続けた。
「フォセ...もう、あなたを1人に何かしない。ずっと一緒にいるわ。今ならそれが出来るの。」
フォセは嬉しそうに顔を上げた。涙でくしゃくしゃになっていたが、確かな笑顔がそこにあった。
「さぁ、フォセ。行きましょうか。」
フォセは大きくうなづいた。
彼女の墓は小屋の前に立てられた。そのすぐそばに、小さな墓も立っている。森の中でひっそりと佇む小屋。その前に立つ2つの墓。あの写真が無ければ、小さな墓は立てられることは無かっただろう。
この出来事で、人々のドラゴンへの考えが変わっていた。共に生きることが出来るのだということに気が付いたようだった。
墓に刻まれた文字は、そのことを忘れさせないようにと、想いを込め書かれたものだ。
『ドラゴンと共に生きた女性、そしてその女性と添い遂げた幼きドラゴン、ここに眠る』
月明かりを浴びて佇む2つの墓は、どこか優しい雰囲気を漂わせていた。
今回は誕生日プレゼントという形で贈らせていただきます。1日遅れてしまいました。大変申し訳ございません。