エピソード4 キッカケはキスだった
この作品はフィクションであり、登場人物、その他背景は架空の物語である。
カンパーイ!
何はともあれ飲んじゃえ。ちょうど良く冷えたビールが二日酔いの頭を冴えさせる。
自己紹介もそこそこに大好きなビールがすすんでいく。
話題といえば仕事のことばかり。少し疎外感を感じてしまうが仕方が無い。
(まぁ、もともとリコが職場に馴染めるようにセッティングしたんだから…。)
二人の話に耳を傾けながら飲む手は止めない。どんどん杯数を重ねていく。
「酒強いなー、全然顔に出んなー。」
「ウン、でもリコのほうがお酒は強いよ。酔っても変わらないし。」
共通の趣味がパチンコ、スロットだということもあり少しずつ溶け込む。
「どこで打ってるの?」
「仕事先の近くかな。仕事中に行けるし。あ、これ内緒な。」
2人の勝負師に火がついた。
「今度一緒に行ってみようや!この辺の店はまだよう知らんし。」
「いいですね〜、いろいろ店を巡りますか。」
他愛も無い話題が続く。そのうち奴は後輩に電話をし始めた。
「よし、2次会に行こう!」
仕事が終わって合流した後輩の車でスナックへと場を移す。
「ワシは不倫は反対じゃ。」
もっともらしいことを言っている。
「じゃ何?この手は。」
なれなれしく触ってくるその手を振りほどきながら笑ってみせた。
「ワシはええんよー、お前もワシと付きあっとれば。」
ご都合主義もここまでくれば開いた口がふさがらない。いったい何様のつもりだ。
この手の男には、ちょっと痛い目を見せるか!にやりと笑った次の瞬間奴の手をねじる。
エイコの特技はマッサージである。ツボ押しも使い様によってはちょっとした武器だ。
「痛てー!も、もうちょっと手加減してー。」
誰が遠慮などするものか。
「そんなに力は入れてないけど、ここが痛いのは肝臓でも悪いんじゃない?」
ザマー見ろだ。続けざまにピンポイント攻撃。
「じゃあ、ここも痛いはずだよ。揉みほぐしておかなきゃね!」
手、腕、肩。変な気を起こす余裕を与えるまもなくアタックする。
(翌日にはアザになってるだろうな。あースッキリした。)
オヤジ撃退法のひとつである。先手必勝、触られる前に潰しておく…はずであった。
少し間を取りながら奴は話題を変えてくる。
(敵もなかなかやるなぁ。ワクワクしてきた。)
気づけばとっくに日付が変わってる。リコは次の日仕事のためお開きとなった。
「お疲れ〜!先に帰るけど身分は保証するから大丈夫だよ。」
言い残したセリフが気にかかる。
「帰らなくていいの?明日仕事でしょ?私はタクシーで帰るから。」
「少々飲んでても送るから大丈夫。」
「じゃあ、お酒が抜けるまでネットカフェで仮眠しますか?」
眠いが飲酒運転の車には乗れない。近くのネットカフェに入り、その場をしのぐ。
(個室だから大丈夫、後は漫画でも読んでいよう。)
安易な気持ちで考えていたが奴は違った。
「メルアド教えて!」
隣の個室からメモの書かれた名刺が差し出される。
(まぁ、良いか。リコも身分は保証する!な〜んて言ってたし。)
メルアドを書いて渡した。その後数分間何事も無かったかのように静かである。
しばらくして、トイレにでも立ったのか隣から奴が出てきた。
と同時にエイコの顔を覗きこむ奴の顔が…。
キスされたのだ。
「☆×☆×・・・・・・・・」言葉にならない。頭の中がパニックになった。
(チッ、油断したー、私ともあろうものが…。)
負けず嫌いで、人の思い通りになるのは大嫌いである。が、あっさりキスされたのだ。
「おこった?」
席に戻るなりすかさずメールでフォローする。
(腹は立つけど負けを認めるようでシャクに障る。引くもんか!)
「怒っては無いけどもうやめてください。」
平静を装いつつ口調を厳しく、言い放った。
いたずらっ子が叱られた時のように「ヘヘッ」と笑いながらすぐに寝入ったようだ。
いったい何を考えているのか行動が予見できない。
(とんでもない奴と関りあったな…気が抜けない、誰か助けてよ〜!)
もうひとつ隣の個室で寝てしまった奴の後輩は目を覚ます気配すらない。
長い夜がふけていった。