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先輩にはご注意 !!  作者: yuki
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act 4

どうやら、この牧村と言う男は、めそめそと泣く女が心底苦手だといった感じだった。

表情は、限りなく冷ややかである。

何でこんな目に、そんな言葉が出てきそうだった。

そんな男を目の前にした状態で、心奈は嗚咽を漏らし続けている。


牧村は、イライラとする感情を必死に抑え、心奈に話しかけた。

「何でさっきから、そんなに泣くんだ。つーか泣き止んでくんねーかな」

ここまで嗚咽を出しまくっている心奈に、それは無茶な注文だった。

「いいから――私の事をほっといてくださっ――」

言葉は嗚咽に、途切れ途切れのみこまれている。


心奈を見下ろしている牧村は、いっそそうしたいと思った。

見ているだけで、イライラする。こんな女が、牧村は一番嫌いだった。

都合が悪くなると、泣く。自分の感情を表わす唇を、ちゃんと持っているにも関わらずだ。

牧村は、心奈に何も言わず、そのまま背を向けた。

そして、歩きだした。

どうせ、今日のバイトだって来ないだろう……?

何故泣いているのかを言うそぶりは見せないくせに、さも自分が悪い様な感じになってくるのが嫌だった。


牧村は、ちょっと強気で、自分の意見ははっきりと言う子の方が好感を持てる性質だった。

大股で歩いて、心奈から少し離れた所で、ピタリと止まった。

(何してんだ? 俺は……)

追いかけて、イライラとするから、やっぱり放って……。しばらく考えた後、やはり踵を返した。

心奈の前に再び立つと、頬を拭うその右手を掴んだ。


「聞いてやる。つーか俺が他人の、しかもこんなふざけた女に付き合うなんざかなりめずらしい事だから。お前は、一体何が気に入らなくて泣いてんだよ?」

牧村の言葉の後も、しばらく心奈は泣きじゃくっていたが、鼻をぐすぐすと言わしながら、牧村の方を見上げた。


「私の場所がないんですっ……。貴方が恐いんですっ……恐くてっ……恐くて……目が……」

すぐに心奈の言っている意味の察しがついた。

「あれは――忙しかったから」

本当はそれだけじゃなかった。新人が入ってくれば、その新人に教えないとならない。それが苦手な人間ばかりだった。

ならばいっそ、今いる人数でも十分だと、心奈を面接した、あの兄に言ったのにも関わらず、従業員募集中のはり紙を張られてしまったのだった。

皆の考えている事は大体似たりよったりだった。

かまわなければ、どうせすぐに辞めていくだろう。そう思い、厨房のスタッフにさえも、牧村は何も教えるなと言っておいたのだ。


けれど、正直、心奈から出た言葉に、罪悪感が芽生えたのは確かだった。


チャランポランな女だったら、すぐに捨て台詞を吐き、出て行くかと思っては居たが、まさか休日、しかもプライベートで逢ってまで泣かれる羽目になるとは思わなかった。


心奈の顔は、涙でぐしゃぐしゃになりつつあった。

ぐずぐずと泣く女は大嫌いだったが、自分が追い詰め、ここまでに至ったのならば、話は別だった。

謝ろうと思った。それくらいの常識は持っていた。けれど、その言葉を遮る様に、心奈の声が出た。


「今日っ……行けません……ごめんなさい……辞めさせて、下さいっ」

声が震えている。こんな事を言うだけでも、心奈は勇気がいる様だった。

どんどん、どんどん、牧村の良心が傷んだ。しょうもない従業員がすぐに辞める所を見ると、兄も諦めるだろうと思っていたが、

そんな軽い気持ちの為に、もしかしたら自分は目の前の女にトラウマを残してしまったのかもしれない。そんな事を考えた。

「悪かった」

思うが早く、言葉が出ていた。

「――――いえ、……気にしてませんから」

辞めると言えた事で、若干、心の重荷から解放されたのか、ぐちゃぐちゃな顔で心奈はほんの少しだけ笑った。

けれど、そんな顔で、気にしてないといわれても、当然説得力などあるはずもなく。

困惑してきた牧村に、心奈は軽く頭を下げ、「それじゃ……」そう背を向けようとした。

その腕を、掴んでいた。

その事に、一番驚いたのは、牧村自身だった。

真っ赤に腫れた顔と、真っ赤に染まった目元で、キョトンと振り返り、心奈は牧村の顔を見上げた。

「もう……あんな邪険にする様な、真似しねーから……」

言葉を出している牧村自身、自分は何を言ってるんだとの思いに駆られまくっている。

悪かったとも謝ったし、心奈は気にしないと言い、ほんの少しだったが笑顔まで見せてくれた。この分ならば大丈夫だろう。

そう思っても、牧村の性格ならばおかしくなかった。なのに何故? 自分の中に芽生えた罪悪感は、それほどまでに大きかったのか?


「今日……待ってる。つーかこのまま一緒に行ったら……てか行く」

驚いた心奈の表情を見る。

やっぱ間違いだった。今の無し。そう言う時間は十分あったのに、牧村は自分が出した言葉を撤回する事はなかった。


……To Be Continued…



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