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先輩にはご注意 !!  作者: yuki
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act 1

生活のためのバイトを探していた心奈は、有名な居酒屋がアルバイトを募集している事を知った。

面接をしてみると、あっさりok.時給も高いし、従業員は目を見張るほどの面ばかり。

気持ちを弾ませてみたが、いざ働いてみると、仕事を教えてくれるどぶりもなく、

出てくるのは冷たい言葉ばかり。唯一女の子の真帆にと助けを求めるが、男勝りな真帆は

冷たく心奈を突き放し……。

初日で辞めたいと泣き出した心奈だったが、誰も止めるそぶりはなくて……。


act 1


心奈は下唇をぎゅっとかみ締めた。

店を出るまではと、ずっと我慢していた思いが、裏口を通った途端、どっと溢れた――。


「ふっ……くぅ……っぅ……」

バックを両手で握り締めた。頬を通った涙は、顎のラインを通ると、中心に集まり、早い速度でポタリ、ポタリと落ちた。

涙を拭うという、それだけの行為も出来ない程に、心奈は傷ついていた……。

柔らかい心奈のショートヘアーが、ゆらゆらと夏の夜の風に吹かれた……。





「今日から、入ってもらう様になった、春瀬 心奈さんだ。皆、よくしてやってくれ」

心奈は、軽く頭を下げた。しかし顔をあげた心奈の表情は、すぐに曇った。

自分を歓迎していない感が、ありありと伝わってくるのだ。その感情を、皆、隠そうともしてない。


しかしまだ、初日だから仕方ないんだと、心奈は思う様にした。


心奈が、ここを見つけたのは、ほんの一週間前の事だった。

生活の為にバイトを探していると言った所、バイトを募集している所があるよと教えてくれた友達が居たのだ。

その日のうちに、どんな店かと入ってみると、わっとなる程の従業員の質の高さだった。まるで、此処の面接は顔で選んでいるのかと思う程だった。

そして、その従業員の心使いにも、感心してしまったのだ。店のホールを回しているのは男性従業員二人と、たまに出てくる女性従業員一人だった。

ひとつひとつの仕草が丁寧で、自分も此処で働きたい。そう思った。だから食事を済ませた後、一人で来ていたと言う事もあって、そのまま会計の時に、募集の事について聞きたい。そう声をかけていた。


面接は簡単なものだった。30歳前後の男性が、面接を担当したのだが、その男性も優しかったので、心奈は安心しきっていた。

そして数日後、電話連絡が来て、採用の通知が言い渡されたのだ。


何処でも、余所者には、風あたりがキツイと言う話は聞くもので、徐々に慣れていけばいい。

そう前抜きに心奈は考える事にしたのだったのだが……。


仕事が始まってみても、誰一人、心奈に仕事を教えてあげようとするものは居なかった。

オロオロとする心奈に、従業員の牧村 迅は、「邪魔だ」と一言、いうなり前を通り過ぎた。

誰だって、初めての職場で、教えもなく、動ける者は少ない。

仕事は見て覚える、が基本の店も確かにあるだろうが、現代的に考えると、やはり新人には教えると言うのが基本だった。


店の中は、全員で従業員は自分を入れて、6人だった。

その5人全員が、心奈に教えてくれると言う、簡単な動作をしてくれなかった。

確かに店内は忙しい。さすが人気店だけはあった。


何をするのかも分からず、教えても貰えず、相変わらず心奈が店内をうろちょろとしていると、男とぶつかってしまった。

「邪魔すんなら、帰れ」

ネームには、高瀬と書いてある。その瞳は酷く冷たいものだった。

「す、すいません」

「つーか、退いて」

心奈の肩にぶつかったと思えば、そのまま何ごともなかったかの様に、仕事をしはじめた。


心奈は勝気な性格ではない。

言いたい事が、あまり言える様な性格でもない、どちらかといえば、我慢してしまう性質だった。

そして、こんなに冷たくされたのも、はじめてだった。

じわっと心奈は、涙目になったけれど、下を向いてごしごしと目を拭った。

(ここは仕事場。しっかりしなくちゃ)

心奈はキョロキョロと店内を見回すと、店内でたった一人だけ居る、女性従業員の真帆の方へ視線をやった。

分からなければ、聞けばいい。そう動いた。


「あっ、あの、何かする事……ありませんか?」

下げたばかりの食器を片付けていた手をピタリと止めると、真帆は、牧村と同じ様に、冷ややかな視線を向けた。

「突っ立ってれば? 動かない方が、ずっと助かるわ」

あまりの言葉に、心奈は言葉を失った。愕然と立ち尽くした心奈をそのままに、真帆はしらっと立ち去った。


心奈の周りからは、忙しい声が聞こえる。

何番に何を持って行って。ありがとうございました。居酒屋独特のにぎやかな雰囲気だけが耳の奥に語りかけてくる。

食器のカチャカチャと擦りあう音や、調理をする音。

確かに心奈に届いているはずなのに、その音はどんどんと遠くなっていった。


そして、ただ立ち尽くしている心奈に、牧村は、更に追い討ちをかけた。

「てか、本当、邪魔。ただ突っ立ってるくれーなら、帰れよアンタ」

突っ立ってろと言われ、突っ立ってるなら帰れと言われ……けれど何も教えてくれる人も居ない……。


斜め下を見つめた心奈の瞳に、ぶわっと涙が込み上げてきた。

頬に流したくない。そう思いながら、必死でキョロキョロと瞳を動かし、涙を逃した。

「すいませんでした」

謝る声が震えた。

その心奈に背を向けた牧村は、一言、残し去った。

「使えねー奴なんかを、採用なんかすんなっつーの」






初日は数時間と言われ、最初からフルで入りたいと言っていた心奈だったが、

今は、その言葉に、これでもかと言うほど、感謝していた。


あんな時間が閉店時間まで続くなんて、きっと耐えられなかった。

きっと、あの中で、泣いていた。よく店を出るまで頑張ったと、自分を褒めてやりたかった。


もう泣いてもいい。よく頑張ったね。

思いながら、どんどんと頬に涙は流れた。

口から漏れる嗚咽は、どんどんと大きく、切羽詰っていった。

まもなく、立てなくなった心奈は、ガクっとしゃがみこんだかと思うと、そのまま尻をついたまま、まるで小学生の様に、泣き続けた。




……To Be Continued…



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