<2-3>検証
「後藤さん、現場の防犯カメラの映像入手しました」
現場では結局、めぼしいものは何一つ見つからなかった。部下の鳴門刑事に事故現場付近の飲食店やマンションの防犯カメラをチェックするように指示をして、後藤は現場を後にした。その二日後のことである。
「おー、どれ、なにかでるかな」
「残念ながら事故のあった場所を捉えた映像はなかったんですが、中華店に入る前の加藤の映像がありました」
後藤は右手で頭を書きながら顔をゆがめた。
「うーん、収穫なしか」
事故現場から少し離れたところにあるコンビニの防犯カメラに雨を避けるように小走りにコンビニの前を横切る後藤の姿が映っていた。
「うん、ちょっと待てよ」
後藤は身を乗り出し画面を巻き戻す。
「加藤のヤツ、傘、持ってねーな」
ビデオを持ってきたのは後藤の下で働く新米の鳴門刑事だ。
「鳴門ー!お前気づけよなぁ」
「すいません。でも、加藤のヤツ、傘をどこで……」
「そんなもんいくらでも想像がつく。メシ喰うのが目的じゃなくて、傘をパクるのが目的でラーメン屋に雨宿りしたんじゃねーか」
「じゃぁ、事故直前に持ってたって言う傘は」
「まぁ、普通に考えれば、あのときあの店にいた誰かのものってことになるが……」
「じゃぁ、事故の後、自分の傘がないことに気付いた客の一人が、道路に放置されていた自分の傘を持って帰ったって事ですかね」
「うーん、どうもなぁ」
後藤は再び頭を書きながら顔をゆがめながら天を仰いだ。
「ちがいますかね?」
鳴門は自分の推理に自信はあったが、後藤の表情からは明らかに同意を得られていない事がわかった。
「いや、ちがわんと思うぞー、それはいいんだー、それはいいんだがなぁー」
鳴門は半年ばかり後藤の下で働いているが、こういうときにどうすればいいのか、大体察しが着くようになっていた。
「洗い直しますか?前の2件」
後藤は片方の目を瞑り、鳴門をチラッとみた。
「そうだな。鳴門、悪いがそうしてくれるか。忙しいところスマンな」
鳴門は素早く身支度をすませ、ドアを飛び出そうとした。
「あー、鳴門!」
「えっ、なんです?」
「あー、捜査の基本だ。真実は……」
「真実は――必ず痕跡を残すでしたっけ?」
「うん、よし、頼むぞ」
それはかつて後藤が岡島に叩き込まれた言葉だった。
「たどり着くよ。真実は、決して消えない、ただ隠れているだけだ」