あとがき
この作品は僕が書いたのではない。僕が生み出したキャラクターたちが勝手に動き出したのだ。
もとは『傘がない』という、短編ホラー、ちょっとした奇談だった。
ベースとなるお話は、私自身が雨の日にDVDを返却に行ってものの10秒で傘を盗まれた毛経験があること。そして、同じような経験を、とあるブロガーさんが中華料理店で経験したこと。さらにその方が体が大きい方で、大き目の傘を盗まれたこと、たかだかラーメン一杯を食べにきただけで、その大事な『自分の傘』を盗まれたことに、ひどく憤慨していたことが、きっかけになっています。
そして最初のプロットは、傘を盗まれた客がレンタルDVD店に立てこもり、店内の人質と、映画の内容などを折り混ぜながら暴れまくるというものでした。これは80年代のアメリカ映画「フォーリンダウン」であったり、日本のオムニバス映画『バカヤロー! 私、怒ってます』のようなものをイメージしていました。
ところが書き始めるうちに、不意に下駄の音が鳴り響いたのです。
下駄の男はどこからともなく僕の前に現れて、「フン!」と吐き捨てながら、前を通り過ぎていきました。僕は思わずその後姿を眼で追い、そして見てしまったのです!
妄想の暴走。プロットなどぶっ飛ばして、僕は『傘がない』を仕上げたのです。
がしかし……
彼は言いました。「本当に事故が起きたとして、しかもそれが、素行の悪い人間ばかりだとしてじゃ……そりゃあ、警察も黙ってないし、その筋の人たちも何かおかしな事が起きてると思うはずじゃ。それよりも何よりワシが黙っておれんわい!」
こうして下駄の男は、僕に無理やりにその後の世界を描かせたのです。いや、しかし、現実的なきっかけは、もっと現実的で、しかも不純なものでした。
僕の知り合いのプログラマーの方と飲んでいるときに、あるダジャレを言ったのです。それがあまりにもおかしかったので、ふと、下駄の男のキャラクターの肉付けに使えないかと考えたのです。
拝み屋=陰陽師にとって名前とはとても大事なもので、自分の素性がバレることは、何がしらの呪詛にかけられるリスクがある。そのリスクを回避するために、普段からまともに名を名乗らないという設定は、むしろ当然あるべきだと。
そして、きっと下駄の男は人を喰ったような名乗りをするのではないかと。
お気づきの方も多いかもしれませんが、僕は夢枕獏先生の作品に大きな影響を受けています。下駄の男は、『どこからともなく』ではなく『夢枕ワールド』から飛び出してきたに違いありません。どことなく真壁雲斎の影があります。しかし、僕の中ではもう少し違って、下駄の男はもともとは凄腕の技術者で、そこから「こっちの世界」に足を踏み入れた人物ではないかと……陰陽師がPCを活用するのではなく、ハッカーが陰陽道を使いこなすイメージでしょうか?
警察組織や暴力団と呼ばれる組織について、僕はほとんど知識がなく、そこを描くことについては恐ろしいほどのプレッシャーがありました。しかし、運がいい事に、ある日僕が拠点としている事務所に警察の方々がやってきました。なんでも近くの建物を監視したいので、場所を貸してくれないかと……残念ながらその要望には諸般の事情で答えられませんでしたが、本物を間近で見られたことは、とても大きかったと思います。
これも、下駄の男がなせる業なのか?
はたまた僕が風邪を引いて病院に言ったときのこと、待合室で偶然、少し怖い感じの方々がそばに座られて、その方々の会話が耳に入ったことも大いに刺激になりました。
これも、きっと……
いずれにしても、僕は書こうと思ってこの続編を書いたのではなく、何者かの巧みな操作によって書かされたということは疑いようがありません。僕が一生懸命になって考えたのは最後のオチ。ウルトラ怪獣の下りだけです。
そして、この作品を概ね書き終えたとき、下駄の男が活躍する次のステージが頭によぎりました。僕はいま、待っています。彼らが再び囁きだすのを……その囁きはまだまだ、小さなものですが、僕はその声に耳を傾けます。『闇の塔』に繋がる物語。今度はかなりホラー色が濃く、おどろおどろしいものになるような予感。そして下駄の男の拝み屋としての様々な能力が明かされ、大活躍してもらおうと思ってます。
最後に、ここまで読んでいただいた方にお詫び申し上げます。投稿時点で本書は校正がほとんどできておらず、不備が多々ございました。平成23年6月27日までの改定で一部キャラクターや組織について、呼称の変更がありました。その他、服装やセリフなど修正をさせていただきました。
今回の作品を最後まで読んでいただいた方には、予めお詫び申し上げます。そして、あわせて、深く、深く、御礼申し上げます。感謝。感謝。
平成23年6月27日 闇の塔が見える地にて
めけめけ




