表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/56

<12-5>闇の塔

 下駄の男が去った後、入れ替わるようにひとりの男がしわがれた声の主を訪ねた。

「お呼びでしょうか?」

「7代目、すべて終わったよ」

「は?」

「7代目の抱えていた問題はすべてあの下駄の男が解決してくれた」

「そのことと、関係があるかどうかはわかりませんが、白鷺組の……」

「お前が引き継げ」

「は?わたしが、ですか?」

「回りくどいのは好かん。わかっておるだろうが、ワシの意に沿わんことはくれぐれもしないことだな」

「はい、肝に銘じて」


 榊原はずっと気になっていた。しわがれた声の主が手に持っているもの。子供の頃に見た記憶がある。もしかしたら持っていたか?怪獣の人形。ソフトビニール製のそれは、しかし、とても作り物とは思えないほどに生々しく、しかも禍々しい。「それはなんです?」と一瞬聞こうとしたとき、しわがれた声の主が先に口を開いた。


「後藤からは眼を離すな」

「はい、すでにひとりつけております」

「ふん、手回しのいい」

「ただし、手は出すなよ。白鷺組も加賀組もワシにとっては取るに足らん。白鷺組のようになりたくなければ、今から言う3つのことを守るのじゃ」

「3つ」

「逆らうな、謀るな、侮るな」


 しわがれた声の主は合図をして榊原に帰るように促した。不思議な感じがした。あの人形、以前どこがで見たか、或いは……不思議と知っているような感覚、懐かしい知り合いに出会って、でも、名前も誰なのかも思い出せないようなもどかしさを感じていた。


 なぜだ?


 余計なことを聞くことは、命に関わる。榊原が諦めて部屋を出ようとしたとき、不意に呼び止められた。

「あと、ひとつ。塔には関わるな。いいな」

 榊原はしわがれた声の主に深々とお辞儀をして部屋を出た。帰りの車の中、窓の外は闇だが、空に突き刺さる鉄の塔が眼に入った。


 なぜだ?


「なぁ、東京スカイツリーは、いつ完成だ?」

「たしか、来年の12月とかだったと」

「そうか、来年か?」

「そういえば、最近あのあたりに妙な噂があるのご存知出すか?」

「妙な噂だと?」

「えぇ、なんでも、あの塔の周りで最近妙なことが起きているようで――」


 運転手の話に耳を傾けながら、榊原は塔を見ながら呟いた。

「逆らうな、謀るな、侮るな……そして、塔には関わるな、か」


 下駄の男は、荒川の土手にいた。そこから東京スカイツリーは実に良く見える。闇に突き刺さる鋼鉄の塔は、いつになく禍々しくその姿をさらしている。

「このまま、何事もなく、というわけにはいかんじゃろうな。猫が一匹、下駄の男の足元で甘える。白と黒の模様が見事に左右に分かれた変わった猫である。

「団十郎、どうじゃ?今日も変わりないかのぉ」


 団十郎と呼ばれた猫は、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、額を下駄の男の足にこすり付けてくる。

「そうか、そうか。おぬしが見ていてくれるおかげで、ワシも安心して仕事ができる。今のところは大きな動きはないようじゃな。しかし、ワシのシキガミでは近づけないほど、禍々しい気を発しておる。どうにも、困ったことじゃ」


 カラン、コロン、カラン、コロン……


 誰もいない荒川の土手を、下駄の音が鳴り響く。


 カラン、コロン、カラン、コロン……


 そして、闇の中に消えてゆく。



 終わり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ