<12-3>深まる闇
「後藤さん、これはやはり、あの事件に関係が……」
「わからん」
「だって、二人の証言によれば」
「二人?だれだそれ」
「あの、ハッカージジイと真壁ですよ」
「存在しないもの、関わりのない者の話が、なんでここに出てくるんだ?」
「そ、そんなぁ」
笠井町の南、繁華街からはだいぶ離れたところの工業地帯。廃工場になったところに2台のバイクと二人の男の血痕が発見されたのは、あの日から1週間たってからのことである。二人が現場に訪れたのは、そのバイクの持ち主が、どうやらサラマンダーと関係があるのではないかという、キヨのママの情報からであった。
「二人を襲うように命令されたが、途中でそれが変更になった。だが、その情報が届くよりも、先に二人を襲い、その後、始末のために二人はバラされ、命令をした組長が自殺」
「鳴門、それには少し無理があるな」
「なんでです?」
「二人をバラすまではいいが、なんで組長が自殺をしなきゃならん?」
「そ、そうですよね。だとすると他に黒幕がいてとか、そういうことなんでしょうか?」
「ふん!こんな街に黒幕とか、影の支配者とか、いると思うか?」
「それは、そうですけど、じゃぁなんで」
「わからん、だからわからんと言っている。もっとわからんのは、ドラゴンスケールだ」
「メンバーらしき人物と接触して、リーダーらしき人物が、最近行方がわからないっていう……」
「しかも、その親の反応、あれは絶対になにか隠しているに違いない」
この現場に来る前に、後藤と鳴門刑事は解散したはずのドラゴンスケールが最近復活したという情報を調べていた。確かに、そういうことはあったようなのだが、これといって活動をしているわけでもなく、それでもメンバーのうち頭をとっていたという『橘 裕二』という男を探り当てた。笠井町で花屋を営む両親の話では、もう何日も連絡がないという。捜査願いを出すかと聞くと、かたくなに拒んだ。いつものことで、まわりに迷惑をかけているので、申し訳ないというのだ。それはわかる。しかし……
「脅されているのか……」
後藤は、この事件の闇が、想像以上に深いことを思い知らされた。だが、後藤が動けるようなことは何一つなかった。おかしいからといって、なんでも捜査できるものではない。警察の領分ではあるが、それがすべて後藤の領分というわけでもない。
後藤と鳴門刑事が帰った後……
「あなた、本当にこれで、良かったのかしら?」
「仕方がないさ、裕二の命がかかってるんだ」
「でも、本当にあの子は無事にいるんですか?」
「でも、信じるしか、信じるしかないだろう、あんなものを見せられては……」
橘裕二の母親は、堪えられなくなり、部屋の奥へ飛び込んだ。嗚咽が漏れる。父親は必死で耐えていた。息子はもう、死んでいるかもしれない。だが……
5日ほど前、店を開けようとシャッターを開けると、そこに小包が置いてあった。宛名のない小包には、宅配便の「なまもの」のシールが貼られていた。橘裕二の父親がその小包の開ける。包装紙、新聞紙、そして小さな箱。中には小さなビニール袋になにかが入っている。良く見るとそれは切断された人間の指であり、その指には見覚えのある指輪が……間違いない、それは息子、裕二の指だった。
箱の中には一枚のメモ書きがはいっていて、こう書かれていた。
『息子の命が惜しければ、他言無用、さもなくば今度は息子の首が家の前にさらされることになる』