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<11-6>帰り道

 下駄の男は、拝殿に寄り、なにやらしばらく話し込んでいた。どうやらただの談笑のようだが、よほど親しいのか、或いはここの関係者なのか。若い宮司は、下駄の男に頭が上がらない様子だった。


「これで、すべて終わりなんでしょうか?後藤さん」

 鳴門刑事は、どこか不満げである。それは後藤も同じだ。

「どうかな。ここを出てからが、俺たちの本当の仕事だ。真実なんてもんはどうでもいい。一番大事なのは……」

「この町に住む人の生命と財産の安全」

「そういうことだ。どうやら真壁は命を狙われたようだ。俺たちがけん制したから、たぶんこれ以上手出しはしないと思うが、それにしてもどうにも気に入らない」

「『違和感』ってやつですね。それは僕も感じてます。なんか、こう、もっと裏にどす黒いものが……」

「待たせたのう。じゃあ帰るとするかの」

 下駄の男が鳴門刑事の言葉をさえぎった。


「余計な詮索は無用じゃよ。ここまではワシの仕事じゃが、ここから先はお主らに働いてもらわにゃならん。ワシらを襲った連中に心当たりがある。まずは真壁の安全を確保するために、どうすればいいかのぉ」

「それなら、もう、問題はないかと思います。あのタイミングであれば、連絡が間に合わなかったで済むでしょうが、ここから先は、そうはいきません。それに……」

「うん、なんじゃい?」

「いえねぇ、拝み屋のオッサンには、取って置きの手立てがあるんじゃないかなと、そう思えましてね」

「フン!」


 下駄の男は面白くないという表情をしながら、歩き出した。後藤、鳴門刑事、真壁がそれに続く。真壁は所在なさげというよりは申し訳なさそうに3人の後を追った。

「傘を貰い受けるぞい。真壁、異存はないな」

「あ、あんなもの、もう、持って行ってください。でないと、ワタシは……」

「言っておくが、それで全て元通りにはならん。覆水は盆には返らん。しかし、そのことを嘆くよりも、次にこぼさない手立てを考えることじゃ」

「めずらしく、いいこと言うじゃないですか、拝み屋のオッサン」


 下駄の男が何かを思い出したように、立ち止まり振り返った。

「おい、後藤、ところでワシは、いつから拝み屋のオッサンになったんじゃ?拝み屋はいいが、オッサンはやめんかい、この罰当たりが」

 思わず後藤と鳴門刑事は顔を見合わせた。そして今日、久しぶりに笑った。それに釣られるように真壁も笑った。下駄の男がだけが、不機嫌そうに三人を睨んでいた。


「フン!まぁ、いいわい。ワシもいろんな通り名があって、面倒に思っていたところじゃ。若い子に拝み屋のおじちゃまと、言われるのも悪くないのぉ」

 下駄の男は、再び歩き出した。

「そうか、どうも、おかしいと思ったんだが、そういうことですか」

 今度は後藤が立ち止まった。

「いや、なんでこんな回りくどいことをするのかと思ってたんですがね……」

「な、なんですか、後藤さん」

「オッサン、あんた、本当に何者なんですか?笠井町の防犯カメラの位置を完全に把握してるわけですか」

「え?ただ人目を避けていたというわけじゃないんですか」


 下駄の男はすっかり機嫌を直していた。

「細かいことを気にしすぎじゃ、たとえそうだとしても、お主らになんらデメリットがあるわけじゃないだろう?むしろ感謝して欲しいものじゃ」

「それに、さっきから聞こうと思ってたんだが、あと一体の人形にどんな意味があるんです?」

「そうそう、それを僕も聞きたかったんです。あれはタイラントといって、ウルトラマンタロウに出てきた怪獣で――確か、怪獣の霊を集めて作ったとかいう設定じゃ……」

「おー、よく知ってるのぉ。その通りじゃ。まぁ、こいつはほれ、ワシの報告書みたいなもんじゃ」

「報告書?」

「そうじゃ、こいつをクライアントに治めて、それでワシの仕事は終わりじゃ」


 一瞬後藤の脳裏におぞましい光景が浮かんだ。ついさっき、真壁の部屋で見たあの化物が、もしかしたらあの炎の中から抽出され、あのソフビ人形に納められている。そしてそれを受け取る輩とは、きっとまともな人間じゃないと、そして、そのような人間が、この町にいないことを願うしかなかった。


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