<2-2>現場
事故現場に着いた頃には雨は上がっていた。加藤は雨の中、道路を渡ろうとして、主婦が運転する乗用車にはねられた。法定速度であり、被害者が道路に駐車していた車と車の間から急に飛び出してきたため、ブレーキを踏む間もなくモロにぶつかったらしい。跳ね飛ばされた被害者は宙に舞って頭から落ち、反対車線に転がった。首は曲がり背中をむいていたという。ほぼ即死だ。
「目撃者は?」
「はい、数名の目撃者がいますが、事故の瞬間、ガイシャは傘で頭を低くするような格好で急にあそこの車と車の間から飛び出したようで、これといって不審な点はないようです」
「つまり、単なる事故というわけか」
「えー、ただ……」
「うん?なんだ、何かあるのか」
「ガイシャがさしていた傘が見当たりません」
「傘が……ない?」
「ガイシャが跳ねられた瞬間確かに近くで傘を見たという証言があるのですが、まぁ、救命や通行の邪魔になるので誰かが避けたのだとは思うのですが……」
「わかった。ご苦労。念のため近くの防犯カメラ当たってくれ」
「わかりました」
後藤は現場の警官の報告から、加藤が事故の前に立ち寄ったラーメン店に足を運んだ。
「あー、すまん、ちょっと話を聞きたいんだが」
後藤は警察手帳を店長に見せて店内を見回した。
「事故の前、加藤はどんな様子でしたか?」
店長は腕を組みながら怪訝そうな顔で後藤を見つめた。
「うーん、まぁね、あーいう感じの人だから気にはなったけどね。刑事さんにお話しするようなことは何も……店に入ってきたときは、これといって急いでいたわけではなさそうでしたが、携帯ながめてて、多分メール見てたんでしょうね。用事を思い出したって感じで、急いで外に出て行ったってところだね」
「ありがとう。あとー、他の客なんだが、加藤が食べているとき店内には何人いたかな」
「えーと、カウンターにその加藤ってひととサラリーマンの二人組みに、あー、あと一人たまに顔を見せるお客さん。オイ信二!テーブルはどんなお客さんだったっけ?」
アルバイトらしき若い男が天井を見上げながら思い出していた。
「えーと、学生の3人組と……あー、多分それだけですね。」
「そうか。すまない。邪魔したな。あー、一応何か気がついた事があったらここに電話してくれ」
後藤は手帳から名刺を取り出し店長に渡した。
「まぁ、それ以外でも、なんかもめごとがあったらいつでも電話してよ」
「毎度ー、刑事さん、たまにはメシ喰いに来てくださいよ」
「あー、そのかわりネギは抜いてくれよ」
店を出ると胸ポケットからタバコを取り出し、口にくわえる。
「ふー、まいったなぁー、こりゃ……手がかりは……傘だけか」