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<11-1>夕日

「なんで、ウルトラマンなんですか?」

 笠井稲荷に向かう道すがら、後藤、鳴門刑事、真壁、そして下駄の男の一行は、5分ほど無言で歩き続けた。


 カラン、コロン、カラン、コロン


 下駄の音が鳴り響く。どう見ても滑稽さだけが際立つ。しかし、この日鳴門刑事の身に起きたことは、例え警察という特殊な職場であることを差し引いても荒唐無稽なことばかりである。聞きたいことは山ほどあったが、結局鳴門刑事は、後藤が歩きタバコを吸うことを注意するのを忘れるくらいに頭の中が混乱していたし、いろいろ考えたが、一番自分に引き寄せた質問をぶつけるしかなかった。


「たとえば、ウルトラマン以外のヒーローじゃダメなんですか?いえ、そればかりか、なんでマン、セブン、ジャック指定なんです?」下駄の男は鳴門刑事の方を振り向かずに、レジ袋をぶら下げたまま両腕を胸の前で組むと「さーて、なんでじゃったかのぉ」と小首をかしげた。


「まさか、なんとなくとか、適当とか、好きだからとか、そんなんじゃないと思いますがね」後藤が鳴門刑事の問いかけに相乗りする。後藤にはウルトラマンだろうがセブンだろうがどうでもいいと思えたが、しかし、言われてみれば、指定するからには理由がありそうだと思った。


「おー、そうじゃった、そうじゃった。真壁よ、お主、エースまでは全部見たんじゃろ?」下駄の男は、真壁の方に振り向いた。その顔は老人というよりは、いたずら好きな少年のそれだった。

「はぁ、確かに……でもなんでそんなことわかるんです?ワタシがあの店であなたを見たのは、あの夜……あの一回だけだったはずですが……」真壁はすでに普通の受け答えが出来るようだ。

「ワシはなんでもお見通しじゃよ」今度は後藤に向かってニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて見せた。

「はー、そういうことか……おっさん、レンタルショップのデータを盗み見しやがったな」


「え、盗み見ってそんなこと……」

「できますよ。あの店、個人経営でこの沿線に4~5店舗、オンラインで結んでやってるみたいだから、セキュリティはかなりゆるいんじゃないんですかね。ちょっと腕がある技術者なら、それほど苦労しないで覗き見くらいは出来るでしょう」

「鳴門ー! このおっさんがどうやって真壁の情報や加藤、三河、山本の情報を得たのか、一切詮索無用だ。なんだったら、俺が教えたってことで納得しろ」

「後藤さん!そんなぁ!」

「鳴門勘違いするなよ。これは命令じゃない!お願いだよ」

「ご、後藤さん……命令ならともかく、お願いなら聞かないわけに行きませんね」


「かっ、かっ、かっ、お主ら、いいコンビじゃのー」

 後藤も鳴門刑事も何か文句を言おうと考えたが、何一つ言い返せないと気づくと、無性に腹が立った。

「で、真壁がエースまでは知っていたということと、どういう関係があるんですか?」

「鳴門刑事、警察学校では心理学とか教えたりするのかのぉ?」

「はぁ、まぁ基礎的なところから犯罪心理学が中心になりますが」

「基礎は大事じゃよ、基礎は……人に暗示をかけるためには、ステレオタイプ的なアイテムが有効だとワシは思うんじゃがのぉ」

「えぇ、確かに有効です。固定観念を利用するのは詐欺や霊感商法の常套手段です」

「だからじゃよ。今回の場合は、心理学の面からもワシの分野の面からも、誰でも悪役とわかるアイコンは有効なアイテムというわけじゃ」


「そちらの分野のことはわかりませんが、なるほど、真壁が回復した経緯には、自分に何かが取り付いたという思い込みを、こういう形で治療したというわけですか」

 鳴門刑事は、理屈を積み重ねて、事態の全体をつかもうと努力をしていた。一方後藤は、直感的な違和感や不自然さから来る疑問、そしてこの件に関わるそれぞれの人間の思惑を合わせて、多面的に事態を把握しようとしている。時にまったく違う結果が導き出されることがあるが、後藤には鳴門刑事の進言はとても貴重なものだった。後藤には正論を導き出しても、正論を正論と位置づける自信がない。後藤は自分が王道から外れた人間であることをよく知っていた。


 見た目にも滑稽な4人は、聞く耳を疑うような滑稽な話をしながら滑稽な目的地に向かって歩いてゆく。夕日は立ち並ぶビルの陰に隠れてしまっている。西の空が赤々として血に染まったように見えたのは、後藤の錯覚であり、真壁の憂鬱であったが、同じ頃、別の場所でこの事件に関わる血が流されたことを、後藤はまだ、知らなかった。


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