<10-3>エレキングVSミィ
「うわー、なんか今にも動きそう」
「今度は、ぼくにやらせて」
「この怪獣なんていうの」
子供たちは砂遊びを中断して一つの輪を作っていた。それはまるで昭和の風景のようだった。紙芝居を囲み、砂や泥で汚れた手をズボンにこすりながら駄菓子を食べていた幼い頃の思い出を重ね合わせるには、後藤も鳴門刑事も若かったが、下駄の男にはその姿がはっきりと見えていた。
「セブンはわたしがやるのぉ」
ひときわ大きな声でミイちゃんが叫んだ。さっきウルトラマンジャックにウルトラリングを渡したのはミイちゃんだった。よっぽどセブンが好きらしい。
「よし、セブンはお譲ちゃん、エレキングは宇宙怪獣じゃ。ピット星人の言うことを何でも聞く、わしがピット星人になって指示をだすから、誰にエレキングをやってもらおうかなぁ?」
「はい、はい、はい、ボクやる、ボクやる」
「じゃぁタクマくんやって」
目のくりくりした少年タクマくんは、おそらくミィちゃんと同じ幼稚園のようだ。
「タクマくん、ちゃんとやらないと、ダメなんだからね」
ミィちゃんとの上下関係は明白だ。後藤は思わず苦笑した。
「エレキングは電気攻撃が得意なんだ。弱点は角、あれを折られるとピット星人からの命令が届かなくなるんだ」不意に真壁が呟いた。後藤はそれを聞いてはっとした。内容にではない。真壁の意識がはっきりしてきている。目はうつろだが、目の前の光景が理解できている様子だ。
「効果が、現れているのか……」
「さぁ、ウルトラセブン対宇宙怪獣エレキングじゃ。エレキング、セブンに尻尾攻撃じゃ」
タクマ君は下駄の男の指示に従って、エレキングの尻尾をセブンに当てた。
「きゃぁ」
ミィちゃんが思わず手を放す。セブンが前のめりに倒れる。
「後藤さん、今の見ました、今一瞬、スパークしたような……どんな細工がしてあるんです、あのエレキングには?」
「さぁて、首やら尻尾やらはずして、なんかやってたからな、あのペテン師は」
「角だよ、エメリウム光線で角を狙うんだ」真壁が呟く。
「よーし、えめりむこーせん!」
ミィちゃんには、エメリム光線と聞こえたのか、あるいはエメリウム光線と言おうとして、いえなかったのか……真壁に促されて、ミィちゃんはセブンを起き上がらせてエレキングと対峙する。一瞬セブンの額が光ったように見えた。次の瞬間、エレキングの角が折れる。
「うわぁ」タクマ君が思わず怯んだ。「いまだ、アイスラッガーで止めだよ」真壁の声は少し興奮しているようだった。
「アイスラッガー!」ミィちゃんはセブンの足を砂に埋め込んで立たせると、自分の頭の上に両腕を構えて、アイスラッガーを投げるマネをする。するとまた、セブンの頭がスパークする。「ふーっ」下駄の男がエレキングに向かって息を吹きかける。
「あーっ!」またしてもタクマくんの悲鳴。エレキングの首と尻尾が胴体から外れ、砂場に横たわる。「すごーい、すごーい」まわりの子供たちは手を叩いて大喜びする。真壁の目から涙がこぼれる。
「消えた、消えていった。あの男も、消えていった……」
下駄の男は、すかさずバラバラになったエレキングをレジ袋にしまう。
「お譲ちゃん、よくできたねぇ。ご褒美にこれを上げよう」
「ありがとう。おじちゃん」
ミィちゃんはウルトラセブンのソフビ人形を大事そうに抱えて、お母さんの下に報告に行く。「いーなぁー」他の子供たちが羨ましそうに見ている。
「御兄ちゃんと仲良く遊ぶんじゃぞ」下駄の男は、満面の笑みでユウキ君の頭を撫でる。「妹と仲良くするんじゃぞ」そういって、ユウキ君にはウルトラマンジャックを渡した。
「さて、最後はこいつじゃ!古代怪獣ゴモラじゃ」