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<10-2>ベムスターVSユウキ

 それはいささか異様な光景であった。閑静な住宅街にある公園の砂遊び場に、4人の若い母親の姿と、6人の子供(後藤にははっきりと男女の区別がつかなかった)、そこにスーツ姿の男が3人と、作務衣を着た老人と思しき男がひとり。真壁は砂場の近くになるベンチに後藤と一緒に座り、鳴門刑事が母親と会話ができる位置に立ち、下駄を履いた老人と思しき人物が近所の量販店のレジ袋を腕に下げ、子供たちと砂場で遊んでいる。


 最初、後藤は下駄の男のことを子供たちが怖がってしまうのではないかと思ってみていたが、ものの数分ですっかり打ち解けている。後藤にはとてもマネはできない。

「坊主、これ知っているか?ほら、怪獣の人形だ。なんだかわかるかな?」

「あー、僕知ってるよ、それベムスターって言うんでしょ」

「おー、おー、よく知ってるのぉ、坊主」

「うん、だってパパがDVD持ってるもん」


 小学校1年か2年くらいだろうか。どうやらここにいる子供の中で最年長のようだ。その子の横で黙々と砂の山を作っているのが妹のようである。

「コウキ君のパパってウルトラマンとか大好きなの?」

「そうなのよ。もう、子供が喜ぶとか何とか言って、結局自分が見たいだけなのよ」

「男の人って、そういうの好きよね。うちのダンナも、なんていうのガンプラ?あんなの掃除の邪魔になるだけよ」


 どういう人間関係なのだろうか。後藤の興味は一瞬そちらのほうに傾いた。どの子とどの母親が家族で、母親同士の中でリーダー的存在は誰で、旦那はどんな職業なのか……という思考を瞬時に行ったもののすぐに後藤はそれを吐き捨てた。今やるべきことはそれじゃない。


 鳴門刑事が後藤のところに歩み寄る。「後藤さん、ボクが買ってきた人形、なんか感じが違うというか、妙に迫力が増したというか、なんか別物みたいな気がするんですけど」


 後藤は一瞬正直に答えそうになってそれをやめた。

「そうか、俺には全然わからんがな」

 鳴門刑事はいぶかしげに後藤の顔を覗き込む。


「いいかい、坊主、このベムスターを倒したのはどのウルトラマンか知っとるか?」

「えーとね、えーとね、こっちかなぁ」

 コウキ君はウルトラマンとウルトラマンジャックとで悩んでいた。後藤にはよくわからなかった。

「ミィ知ってる。こっちだよ」

 それまで砂の山を作るのに夢中になっていたコウキ君の妹がジャックを指差した。

「でも、この怪獣強いから、ウルトラマンやられちゃったんだよ」

「おー、おー、よく知っておるのぉ、そのとおりじゃ」


「よし、じゃぁ、おじちゃんが怪獣をやるから、坊主がウルトラマンジャック、お嬢ちゃんがセブンをやってくれるかのぉ」

「うん、いいよ、わかった」

「そこの2人もほれ、こっちに来んか、そっちのわっぱもほれ」


 下駄の男に促されて、後藤と真壁、それに他の子供たちもユウキ君とミィちゃんを囲んで輪になった。「これから怪獣ショーの始まりじゃ」


 下駄の男はベムスターのソフビ人形にふっと息を吹きかけ、なにやら口元で呟いている。すると怪獣の人形はいっそうリアリさを増し、子供のオモチャとは思えないような迫力を放ち始めた。

「怖い」集まってきた子供のうち、一人の女の子が砂だらけの手で顔を覆う。子供が怖がるほど、この人形には異様な雰囲気、まるで獣のような獰猛さで子供たちを睨んでいる。その目はまさに猛禽類―-鷹や鷲のような機械的で無慈悲な狩人の目である。


「ウルトラマンジャック!子供たちを守るのじゃ!」

 ユウキ君がウルトラマンジャックのソフビ人形を右手に掴みベムスターに体当たりする。

「あ!」何か特別な力ではじかれてしまったかのように、ジャックの人形は子供の右手を離れて砂場に倒れてしまう。

「それ、セブン、ジャックを助けるんじゃ!」

 ミイちゃんが倒れたジャックのそばにいってセブンとジャックを摺り寄せる。

「大丈夫?ウルトラマンジャック?」

「それじゃ、セブンはジャックにこのブレスレットを渡すんじゃ」

 そういうと、下駄の男はオモチャの指輪のようなものを、ミイちゃんに手渡した。


「ウルトラマン、このブレスレットを使って、あの怪獣を倒すのよ」

「よーし、今度は負けないぞー」


 再びユウキ君がウルトラマンジャックでベムスターにアタックする。今度はベムスターが一瞬怯んだように見えた。

「今じゃ!ウルトラブレスレットを使うんじゃ!」

「いけー、ウルトラブレスレット!」

 次の瞬間、ベムスターのソフビ人形の接合部分、両手と首がまるで何かに切断されたかのようにボットっと取れた。

「うわー、すごい!すごい!」

 子供たちから歓声が上がる。「消えた……あの男が消えた」真壁がボソリと呟く。「い、今のは、後藤さん、手品かなんかですか?」鳴門刑事が後藤と下駄の男を交互に見つめる。「俺にわかるか」後藤が吐き捨てる。「今、確かに光が……あっ、何か、さっきまでの凶悪な雰囲気がなくなって、ボクが買ってきたときの雰囲気に戻りましたよ。これって……」鳴門刑事は、後藤の耳元でささやく「何かの呪いとかそういうことですか?」


「よくやったぞ、坊主、次はこいつじゃ、エレキングの登場じゃ!」


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