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<2-1>不可解

 東京都江戸川区の笠井町地域を管轄する江戸川南警察署 組織犯罪対策部。近年急激に人口が増加し、暴力団による組織的な犯罪と思われる事件も増加。さらに中国系マフィアの活動範囲もこの街に広がり、後藤刑事は多忙な毎日を送っていた。ある雨の午後、かつての上司から一本の電話が後藤にかかってきた。


「後藤さーん、交通課の岡島警部補から3番です」

「あー、今出る……すまん、岡さんからだ。また、こっちからかけ直す」

 後藤は雑多な机の上に置かれた書類に目を通しながら、『再TEL』と鉛筆でメモを入れる。こういうことはやはり鉛筆がいい。

「あー、岡さん、後藤です。珍しいですね署に電話なんて」

「携帯鳴らしてもでねーからよ。署に直接かけたよ。お前はなかなかつかまらんからなぁ」

 後藤は鉛筆を持った手で頭をかきながら思いついた言い訳をそのまま口にした。

「すいません、立て込んでいまして……」

「ふん、まぁ、四課はここのところ忙しいみてぃだからなぁ」

「そーなんですよー、あー、四課じゃないっすよ、組織犯罪対策課っていうたいそうな名前がついてますよ」

「うるせー、面倒くせー、俺らにとっては四課は四課だ」


 車の音、無線、雨、笛の音――どうやら岡島は現場から電話をかけているようだ。

「で、なんです、なにか事件でも?」

「あー、手短に用件だけ言う。さっきな、笠井駅近くのえーと、なんだ、最近オープンしたなんとかとかいう中華家の前あたりでな、事故があったんだが……」

「えーと、たしかぁ……ラーメン一杯390円の店でしたっけ」

「あー、そうそう、その390円の店の前で死亡事故、道路を横断しようとして乗用車に引かれたんだが、そのガイシャっていうのがちょっと気になってな……」

 後藤は財布の中に店のオープン記念の割引券が入っていることを思い出した。もう期限は切れているかもしれない。


「こっちの管轄ですか?」

「あー、加藤三治だ」

「加藤って、ちょっと待ってください岡さん!それは……」

「あー、これで3件目ってことになるか」

「で、どうです、見立ては?」

「まったく関係ない。ただの事故だ。道路を横断しようとして出会い頭にどーんってやつ、まぁ雨で視界も悪かったって事になるんだが……」

「同じですね。これまでの2件と……」


 後藤は頭から手を下ろし、さっきメモした紙の裏に文字を書き出した。

『加藤 8月』

『三河 6月』

『山本 』

「三河が6月、で加藤が8月、山本は・・・5月でしたっけ?」

「あー、そういうことになる。見立ては間違いねー。それは俺が保証する。現場はきれいなもんだ。なんの疑う余地もない」

 後藤は『山本』の文字のあとに『5月』と書き足した。


「……だが、こんなことは初めてだ」

「わかりました。今から現場に行きます。岡さんはまだ現場に?」

「あー、すまん、俺は次の現場に行かないとならん。今日みたいな雨の日はどうもな……最近はドライバーが未熟なのか、歩行者が無謀なのか」

「わかりました。誰かに引き継いで置いてください。15分くらいで着きますから」

「あー。なぁ、後藤……こいつは何かな、天罰ってやつかな」


 後藤は再び鉛筆を持った手を頭にやり、髪の毛をかきむしった。

「岡さん、もしも神様ってやつがいて、悪いやつに天誅を下したとしてです、そしたら俺は神様にワッパかけにいきますからね」

「ふん、相変わらずだな。だからお前、出世しないんだぜ」

「へいへい、この世界に入って鬼のような先輩にみっちり仕込まれましたからね。今更賢くまわれと言われても、俺はそんなに起用じゃないっすから」

「言うなよ、じゃ、あとは頼んだぞ」


 小気味のいい会話ではあるが、なんとも不愉快な話だ。

「まったく、どうなっちまってるんだ」

 後藤刑事は江戸川南警察の組織犯罪対策課に所属している。いわゆるマル暴――かつて四課と呼ばれていた部署の刑事だ。岡島は交通課の警部補でかつての後藤の上司だ。二人は署内でも有能な刑事であったが、やや独断と専行がすぎ、周りとの強調を欠く事があった。それなりの実績も上げたが、同じようにそれなりの問題も起こしている。


「こりゃまた、いらんことをするなと、署長から言われるだろうが……」

 後藤は素早く身支度をして現場まで車を走らせた。

「まぁ、言われる前にやっちまえば、どうということはないか」

 後藤は車を走らせながら、『再TEL』と書いたメモのことを思い出したが、当面は忘れることにした。

「すいません。立て込んでいて……忘れましたってか」


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