<7-3>らしくあること
真壁は傘の男と出会ったレンタルショップへと足を運んだ。そこはチェーン展開している大手レンタルショップではなく、この笠井地域で数店舗展開している個人経営のレンタルショップだ。個人経営ではあるが店は広く、物量はチェーン店に引けを取らない。また、古くから営業していることもあり、一部VHSのビデオテープや廃盤になった音楽CDなどもそろっている。
延滞はしない
真壁はその性格にふさわしく、この店に10年近く通いつめているが一度も延滞をしたことがない。真壁自身はそれを少しも特別なこととは思っていないが、店員によっては気分を害することがある。
「延長はございませんね」
「当たり前だ!」と心の中でつぶやく、時には叫ぶ。よくわかった店員であれば、チェックはするものの「お待たせしました」の一言で終わる。真壁からすれば延長をしていると疑われること自体が心外であり、延滞して返すなど、ありえないことだと思っていた。
「24時間営業している店に、期限内に返すことができないなど、どうしてそんなことになるのか?第一、そんなことをしたら、気分が悪いじゃないか」
真壁は決してまじめな人間ではない。ルールを守らないことが気持ちが悪いのだ。そこに善も悪もない。整っていないことが嫌いなのである。時々巻数の並びがバラバラになっている棚をみっると直さずにはいられない。使ったものを元の場所に返す。
『真壁君はえらいはね。いつもきちんとしてるわ』
そういって真壁を褒めてくれる担任の女性教師が一番嫌いだった。当たり前のことを当たり前にやってほめられるなど、迷惑で仕方がなかった。整理整頓係など、もってのほかだ。整理整頓するのが得意なわけでも、好きなわけでもない。そうでないことが嫌いなだけなのだ。
社会人になりたての頃、同窓会に呼ばれて、断る理由もなかったので出席したことがある。
「へぇ、そうか、真壁はプログラママーになったのか、らしいといえばらしいな。俺なんかさ、コンピュータとかぜんぜんわかんないよ」
言っている意味がわからなかった。なんで『らしい』のか、なんでコンピュータがわからないのか。
「僕からしてみれば、人間のほうがぜんぜんわかんないよ」
そう言い掛けたとき、話題は別の話になってしまった。結局この日、真壁は釈然としない気持ちのまま、同窓会の一次会で帰ることにした。その行動も彼らにとっては『らしいといえばらしい』ことなのか、真壁にはわからなかった。
「さて、こういうときは何を見るべきか、そして見ざるべきか……」
真壁は急に楽しくなってきた。この店でどの作品を借りて見るかを選ぶ行為こそ、ある意味真壁が人間らしいひと時なのかもしれない。同僚ならきっと、真壁は借りるDVDの棚にまっすぐ行って借りるのに5分もかからないと思うだろう。しかし、ここでの真壁は違う。真壁は何を借りるのか迷うこと、悩むことを楽しんでいるのだった。