<7-1>合流
「もしもし、俺だ。鳴門、今どこだ?」
黒のハンチングを被り、黒のチョーカー、茶色の皮のジャケットの年齢50歳から60歳くらいの男と別れた後藤から鳴門刑事の携帯に電話がかかった。
「あ~、今ですか、今ですね、えーと、ちょっと外に……」
「あー、それはちょうどよかった。急用だ!今すぐ笠井駅前に来い。3分以内にだ」
「さ、3分ですか、行くらなんでもちょっとそれは……」
「事態は急を要する。今すぐだ。手段は問わないし、なんで早く来れたかも問わん。早く出て来い!」
そういうと後藤は携帯を切った。
「参ったなぁ。どうも。まったく、いつから気づかれてたんだか」
鳴門刑事は観念して物陰から姿を現した。一応息を切らしながら。
「仰せに従い物理法則を無視して鳴門刑事ただいま到着いたしました」
「おー、なかなか早いじゃないか、一体全体どうやって……おっと、それは聞かない約束だったかな。仕方ない。今回は勘弁してやろう。だが鳴門刑事!」
「はい!」
「もう少しましな尾行の仕方できんのか?」
「あー、どうも、すいませんです。修練します」
「この男、誰だかわかるか?」
後藤は尾上弥太郎と名乗る男から受け取った携帯を鳴門刑事に見せた。そこには先ほど尾上が撮影した後藤たちを尾行していた鳴門刑事以外の男の姿が映し出されていた。
「あー、この男……確か何度か捜査線上に上がった男ですね。えーと確か白鷺組みに出入りしている――」
「OKだ。そこまでわかれば十分だ」
「後藤さん、こいつがどうかしたんですか?それにこの携帯はいったい……」
「余計な詮索はするな……と言える立場でもないか。それじゃお前の協力を仰げそうにないな」
鳴門刑事は思った。どうせ知ろうと知るまいと、やらせることは変わらないくせに、と。
「鳴門、いいか。どうやらこのヤマは俺たちの出る幕はないらしい。およそ上のほうも、どこぞやからそんな横槍、いや、槍どころじゃないかもしれないが、状況としては手を引かざるを得ないといったところだろう」
鳴門刑事は情けなく思った。自分がどんなに奔走しても後藤の足元に及ばない。自分は果たしてこの人の役に立てるのだろうか?いや、足手まといになってはいないだろうか?
「しかし、『ハイ、そうですか』というわけにも行かないのが、まぁ、『正義の味方』じゃない『ダークヒーロー』のつらいところだ」
なるほど、後藤がバットマンで自分はロビンってわけか。そう思うと気が楽になるくらいに後藤の存在はなると刑事にとって大きなものとなっていた。
「そこでこの男だ。こいつは、まぁ、俺たちの専門分野だ。ヤツは俺をマークしている。その線をたどれば、きっと俺たちの分野のヤマに当たる。そのリアクションによって、このヤマの真の姿が見えてくるに違いない。わかるか?」
鳴門刑事は戸惑った。
「いや、ちょっと待ってください。まだ、パズルのピースは全部そろっていいないですよ」
「言いたいことはわかる。だが、アレはなんだ。ジョーカーみたいなものだ」
「は?」
「ワイルドカードさ。俺が接触していた男は、このヤマにかかわってはいるが、俺にしろ、あの男にしろ、それからこの写真の男にしてもヤマの本筋じゃない。俺以外は誰かの指示や命令で動いている。いや、俺ですら最初は岡島さんの話がなきゃ、動いちゃいないわけだしな」
後藤は頭をかきながら無理な頼みごとをするときのような顔をしながら言った。
「つまり……俺が降りればこのヤマは今後何も起きない。少なくとも俺たちの目の届く範囲では」
じゃぁ手を引きましょうと言いかけて、鳴門刑事は首を振った。
「つまりこちらのテリトリーにおびき寄せるために、なにか『しでかす』わけですか」
「そういうことだ。こちらから白鷺組に出向く。そこでのリアクションでやつらがどこまでこのヤマにかかわっているのかがわかる。そして、それによって後ろで糸を引いているやつがどう出るか。裏返って見えなかったパズルのピースにどんな絵が描かれているのか、わかるかもしれない」
確かに本筋から遠ければたいしたリアクションはないだろうし、そうでなければこちらにわかるような派手なリアクションがあるかもしれない。そこを突破口にすれば、事態を闇に葬ることもできないだろう。しかし、最悪そのリアクションが予想を超えるようなものであれば命の保障はないだろう。
「あまり無茶はいけませんよ。こうなったからには単独行動は厳禁です。それだけ約束してくれれば、後は指示通り動きますから」
無駄だとは思いながら、それでも鳴門刑事は自分の果たすべき役割をこなすしかなかった。岡島警部補もこうなることは織り込み済みだったのだろうと、そしてそれは素直に喜ぶべきことにしておこうと思うのであった。