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<5-1>動き出した後藤刑事

「おーい、鳴門!」

 翌朝、後藤は鳴門刑事を廊下の隅に手招きした。この場所で声をかけられるときは、厄介ごとと決まっていたので、鳴門刑事は首をすくめながら後藤の近くに寄った。後藤が鳴門刑事の肩に手をかけながら話す。後藤は大事な話をするときに相手の方に手を置いて話す癖があった。

「いーか、こっからはオレの単独だ。お前は例の傷害事件のほうに回ってくれ」

 鳴門刑事は怪訝そうな顔ですかさず反論した。

「先輩、それはないっすよ。このヤマ、なんか出たんですか?」

 後藤は声を押し殺しながら耳元で囁く。

「この件、どうやら上が絡んでるらしい。今、岡島さんにサグリ入れてもらってる。事情がわかるまで、表の動きはなしだ」

「最近そういうの、多くないですか、この前のひき逃げ事件のときも……」

 後藤は鳴門刑事の肩をゆすり、強引に言葉を切った。

「あー、オレだって面白くねーと思ってるよ。これは散々上とやりあったオレの経験からくる忠告、いや命令だ。このヤマはやばい。若いヤツは足手まといだって言ってんだよ。それに――」

 後藤は鳴門刑事の両肩に手を当て、ポン、ポンと二回両手で叩いた。

「背中を任せられるのは、署じゃ、お前と岡島さんだけなんだ。あとは誰も信じられねー。お前はオレが動いている間、署内の動きから目を離すな」

 鳴門刑事は首を横に振りながらも、抵抗は無駄だと悟ったことを両手を挙げることで合図した。

「むしろ、そっちのほうがやばそうな仕事ですね。まったく、ボクもとんだ上司を持ったものです。命がいくつあっても――」

 鳴門刑事はその後の言葉を詰まらせた。

「あー、すいません。変なこといっちゃって……」

「フン、構わねーよ。昔のことだ。心配するな。気にしちゃいないし、そんなこといちいち気にしてたらこんな商売続かねーよ」

 後藤はまわりに聞こえるような大きな声で笑い飛ばした。そのことによって、鳴門刑事は救われたと同時に、この話はこれで終わりだと言うことを悟った。

「じゃーなぁ、あとはよろしく頼むぞ!」


 後藤は傷害事件の聞き込みに回ると言って署を出た。鳴門刑事は後藤を見送るとすぐに携帯を取り出した。

「あー、もしも、鳴門です。はい、えー、動き出しました。はい、はい。わかりました。動きがありましたらまた、ご連絡します」

 鳴門刑事は電話を切ると、後藤の後を気づかれないように尾行し始めた。


 その頃、岡島警部補は署長室を訪れていた。

「署長、実は妙なことが起きてまして、まぁ、交通課としては、単なる事故として処理をしている件なんですが――」

「どうした。何か問題でもあるのかね」

「いえー、問題というよりかはどちらかというと、いいことと言っては、まぁそれも不謹慎なことなんですが」

「回りくどいな。この前の加藤三治のことか」

「えー、加藤に限らず四課でマークしてた重要参考人がこのところ立て続けに事故で死亡しております」

「で、なにか不審な点でもあるのか?」

「いえ、わたしも隅々まで洗いましたが、事故を否定するような物証や証言はなにも……」

 署長は岡島警部補との話を一刻も早く打ち切りたいというあからさまな態度――威圧的な口調で叱責した。

「岡島君!何もないということは何もなかったということだ。そうじゃないかね」

 岡島警部補は、態度をただし、規律正しく答えた。

「はい、何もありませんでしたので、何もなかった。おっしゃるとおりです。失礼しました」

 署長は一瞬周りを伺い、岡島警部補を手招きした。


「後藤を抑えろ。ワシでもかばえることとそうでないことがある。この件はこれ以上のことは何も起きん。何もなく、何も起きないことに大事な部下を失うわけにはいかん。わかるな。これ以上言わせるなよ」

 署長は席を立ち上がり、岡島警部補の肩に手をかけた。

「貧乏くじを引くのは、ワシらだけで十分だ。後藤はキレるが、後先を考えない。いつも誰かが背中を守ってくれると思っていたら大間違いだ」

 岡島警部補は厳しい目で署長を見つめたが、やがて穏やかな表情になった。

「わかりました。これ以上なにも起きないということでしたら、これ以上深入りしないよう私から言い聞かせます」

 署長と岡島の間には上司と部下という空気から、戦友という空気に変化していた。

「フン!止めさせるとは、流石のお前でもいいきれんか」

 岡島は頭をかきながら照れくさそうにいった。

「あいつは、悪いところばかりワシに似てしまって……」

「うんんん!」

 署長の咳払いで二人の関係はもとの上司と部下に戻った。

「これは命令だ。後藤を抑えろ。いいな」

「はい」


 署長室を出た岡島警部補は大きくため息をついた。

「――と、おっしゃいますが、簡単には後藤を止められるとも思えんがなぁ」

 岡島警部補は携帯を取り出し、廊下の隅で電話をかけた。

「あー、俺だ。そっちはどうだ……」



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