表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/56

<4-1>共同生活

 最初の一人目を見た時は流石に腰が抜けた。

「な、なんで、お前がここに」

 仕事から部屋に帰ってきたとき、一瞬、誰かが部屋の中にいるような感じがした――そんなはずがない。ワタシは部屋に上がり、明かりをつけた。部屋の隅に何かの気配――人の……影?


 見覚えのある顔、そうヤツだ。下駄の男の傘を盗み、ワタシの傘を盗み、そして死んだ男。男はワタシに気付いた様子ではなかった。表情はうつろで視線はどこを見ているのかわからなかった。存在すること事態が不快であったが、ワタシを何よりも不快にさせたのは、男が事故にあったときのままの様子――つまり頭から血を大量に流し、見ているだけでも血なまぐさい匂いが漂ってきそうな姿で立っていることだった。


「これが、幽霊ってやつなのか……しかしなんでまた、こんなところに……」

 なんで?それは単純なことだ。殺したのはワタシ、いやワタシの持っている『あの傘』なのである。あの事故からちょうど7日になるのか。もしかしたらこの男、あの事故の日からずっとここに居たのかもしれない。確かに何か気配は感じていたのだ。しかしワタシにはそのような存在を信じることはできなかった。しかし、今こうしてはっきりと見えている。


「なんだ、ワタシに恨み言でもあるのか……ワタシはなにも悪くない。悪いのは……悪いのはおまえ自身じゃないか」

 はたしてワタシの言葉があの男に通じているのかはわからない。ワタシの強い語気に押されたのか、男の姿は見えなくなった。しかしそれからというもの、男はその部屋の隅にずっと居続けている。姿は見えなくとも気配でわかる――信じられないことにわかるのだ。だから見ようと思えば見えてしまう。見たくないと思えば見えなくなる。はたして、そういうものなのか、ワタシにはわからなかった。


 だから二人目の時には驚かなかった。やはりそうかという感じだった。3人目の時は何も考えていなかった。それは夏の日に沸いて出てくる虫のようなものだった。最近ではいい話し相手になっている。もちろん相手は何もしゃべらない。視線すら合うことはない。今日のジョークは最高だと自分でも思っている。もしもこいつらにこの映画『シックス・センス』を理解する事ができるとしたら、もしかしたら一人くらいは成仏するのかと期待した。それはもはやユーモアの世界だった。


 しかし、このままいくと、一体全体ここには何人の幽霊が集まることになるのか……

「近所に迷惑だけはかけるなよ」

 最近はすっかりそれが口癖になってしまっている。


 ワタシははたして、病んでいるのだろうか?ワタシは果たしてまともなのだろうか?

「何一つ変わっていないさ」

 そう、ワタシは何一つ変わっていない。ワタシはワタシのルールに従い、今までどおりに暮らしてきている。少し騒がしくはなったが、それもワタシのせいではない。みんな……みんなあの男、下駄の男がしたことなのだから。


「あの男は今頃、どうしてるんだ、この街にいるのか、そもそもあの男はこの世に存在するのか」

 ワタシはまるで念仏か呪文のようにその言葉を繰り返しながら眠りに着いた。あの下駄の音を思い起こしながら……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ