<3-3>その筋のルール
「最近、妙な事が起きている」
「はい、まさかあの加藤があんな死に方をするなんて、信じられません」
「まぁ、あいつの事などどうでもいい。問題は――」
「誰が殺ったかってことですか?サツの方では事件性はないってことらしいですが」
「あー、こっちのルートからいろいろと探りは入れてみたが、不審な形跡はないそうだ」
「しかし、偶然にしちゃー」
「あー、できすぎている。今のところこっちに実害はない。しかし、流石にこうも続くとなぁ」
「誰かの仕業に違いない……と言いがかりをつけるような輩が?」
「あー、そうだ。それに厄介なことに」
「他に心配事が?」
「後藤が動いている」
雑居ビルの一室で交わされているこの会話の主は、後藤が長年マークしているこの街の裏の事情に精通し、それはこの街にとどまらずもっと大きな範囲に影響を及ぼす闇の支配者。その力は政界、経済界、そして警察組織まで根を伸ばしている。
「じゃー、やはり、裏には何か事情が?」
「それはわからん。だが、あいつだけは油断できん」
「消してしまえば……よろしいのでは?」
「フン!貴様らはすぐ血を流したがる。ワシはそういうのは趣味ではない!」
「失礼しました。では、このまま放っておくので?」
「いや、それはまずい。まぁ、江戸川南署には手を打ってあるが、それでやめるようなら、後藤はもっと出世しとるよ」
声の主はグラスにブランデーを注ぎ、窓の外を眺めた。
「ヤツを呼んである」
「ヤツといいますと?」
「あー、この手の厄介ごとには、あの男、拝み屋が適任よ」
「拝み屋……ですか……信用できるので?」
「できんな。一癖も二癖もある。裏で何を考えているのか、或いは企んでおるのか……」
「ではどうして、そのような輩を」
「7代目!お主も知るときがくる。この世にはな。あーいう者にしか解決できんような厄介ごとがあるということを」
「拝みや……がですか?私にはどうも、呪とか幽霊とかそういうのは」
「フン!浅いわ!まぁいい。いいか7代目。ここはワシに任せるのじゃ。若いもんを抑えて置けよ。ワシの言いつけを守らんヤツがどういうことになるのか……7代目、先代がどうないうことになったのか、よーく思い出すんだな」
7代目と呼ばれた男は額から汗を流していた。この老人がいかに強大な力を持っているのか。そしてこの老人の下で仕事ができることはこの上ないことではあるが、一歩間違えば、先代と同じ運命をたどることを誰よりもよく知っていた。
「はい、間違いがないよう。私がじきじきに指揮いたしますので、ご安心を」
「ルールは――守らんとな」
声の主はそういうと7代目と呼ばれた男に手で合図をした。7代目は部屋を後にした。
「まったく、怖えー、怖えー」
部屋の外では二人の男が待っていた。
「7代目、どうでしたか?やはり中国の――」
「お前ら、いいか、よく聞け。これは絶対の命令だ。手を出すな。あの方からの命令だ」
二人はお互いに見合ったが、早足で歩き去る7代目の後をすぐに追った。
「どうやらこれは、俺たちの領分ではなさそうだ。世の中にはそういうこともあるのかもしれんな……」
「はぁぁ」
三人が建物を出たとき、耳慣れない音が聞こえてきた。
カラン、コロン、カラン、コロン
「フン、現れたか……いくぞ、ワシらのような家業でも、知らないほうがいいことがある」
そういうと7代目は止めてあった車に乗り込んだ。
「しばらく待て」
7代目は下駄の男が建物の中に入るのを確認すると車を出すように命令した。
「世の中にはいろんな化けモンがいるんだな」