7-13
中立都市への出発に先立ち。
なぜか東方王国の宮殿に呼ばれた。
「女王陛下が、出立前に是非お茶をご一緒にと申されておいでなのだけど。ナザールさん、どういうご関係なの?」
フィルバートの母がやたらと興味津々なのが困りものである。
「あー、いやぁ、タダの文通相手で」
「陛下と?」
「・・・・はぁ、今となってはそうですね」
師匠といいリュス様と言い。
フィルの母ちゃんと言い。
皆めんどくせぇ。
文通友達に男も女もあるかよ。
と言うことで、ちょっとおかんむりなのである。
「・・・姫さん、周囲の大人どうにかしてよ」
「ごめんなさい。変に勘ぐる者が多くて」
今までは、王女殿下の文通相手で済んでいたのだが、女王となると話が違う。
本来なら、お茶を一緒にと呼び出すのも躊躇したのだと言う。
「でも、貴方には一度ちゃんと御礼を言いたかったから」
「御礼言われることはしていない気がするけどさ。姫さんが自分なりに女王様やっていられるきっかけになったんだったら、よかったよ。カールに直接会いに来たって話を聞いたときは、姫さんって勇気あるんだなぁって思ったし、今回も格好いいじゃんって思った」
宮殿の大きな庭の東屋で、遠くに護衛がいるのを認めながらお茶を共にするのは正直緊張する。
こちとら、子爵でもなければ王子でも無い。
元は孤児なのだ。
イライーダの方はとうの昔に慣れっこのようで、護衛や女官を気にすることなく、あれやこれやととりとめの無い話で楽しそうである。
はじめこそ少々緊張気味であったナザールも、徐々に雰囲気に慣れ、イライーダの話に頷いたり、笑ったりと周囲を気にすることなく過ごしている。
「中立都市では、学校に通うの?」
「いや? ロズベルグの爺様の懇意の魔術師の研究所に入ってそこでしばらく修行するって事になっているんだ。図書館とかあちこち行けるから、ちゃんと姫さんにおすすめ図書情報もお届け出来るよ?」
「楽しみにしています。もう、それくらいしか自由にならないみたいだし」
覚悟を決めたとはいえ。
一国の王と標榜するからには、自由は放棄しなければならない。
ラウストリーチとは規模が違うからな。
それなりに、諦めた事も多いのだろうと思う。
「姫さん、友達居ないだろ?」
「はっきり言われると少々傷つきますけど?」
否定はしませんわね、とイライーダは答えた。
「しょうがないから、カールとフィルの次に俺の友達認定してやるよ」
「あの二人の次ですか?それも何やら面白くはございませんけど」
それは致し方ございませんわね、と女王は笑った。
「何せ、"男同士でつるんでいる方がまだ面白い"んでしょう? ・・・・正直、子供っぽいですわよ?」
これだから、男って嫌ねぇ。
きれいな所作でお茶を飲んで。
女王は美しい笑みを見せる。
「それを眺めるのも、楽しみの一つと思ってよろしいかしら?」
「うわぁ、大人ぶってやがる」
近くの女官が、少し眉根を寄せる程度の言葉づかいで。
ナザールは最大限の鼓舞を女王に進呈する。
「まぁ、体に気を付けて、頑張ってね」
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「ナージャ、そろそろ出立だよ?」
護衛長の声にわかってるよ、と投げやりな返事をした。
これが、当面の最後の連絡だと思う。
つい最近、子爵家に届いた手紙を握りしめる。
向後の憂いはない。
極東に行く。
たった二行の書簡。
それだけで十分な情報をナザールにもたらしていた。
「カールのことは草原にお任せってことね」
しばらく、どの程度の時間になるのか。
ナザールもフィルバートも検討がつかない。
しかし、もう前に進むしかないのだ。
「師匠のことは任せたぞ」
お前の弟妹のことは任せろ。
固い決意を胸に秘めて。
ナザールは護衛長に声をかけた。
「じゃあ、ぼちぼち。中立都市へと行きますか」