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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
7.シヴァとジヴァルとその兄
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7-09



 外務卿がハルフェンバック領へ向かうのは今秋と決まった。

 収穫の時期を終え、冬支度に入る前に行った方が良いとのハルフェンバック領の元領主の判断である。


 多少の下賜品も用意し、新しい女王からの宣旨を携えて、「新東方王国」の誕生を可汗ハーンに伝えると共に、今後も変わらぬ友好関係があることを国内外に標榜することが主たる目的である。

 その外務卿に同行するのが、保護国ラウストリーチ家の侯爵となるという構図が何を意味するのか。

 現状、"可汗ハーンの孫"はラウストリーチ家のライルドハイト侯爵であり、草原の部族達とも旧知でその行動もよく理解している。

 女王陛下の代理である外務卿の使節一行に加わることで、東方王国がラウストリーチ国を保護国として上手く使っているというアピールになると共に、"ラウストリーチ家の後ろには草原の部族がいる"ことを再認識させることにも繋がる。


 と、言う図式になったら良いなぁとフィルバートが言っていた。


「え?希望的観測なのか?」

「だって、私まだ爺様に"すみません、勝手に他家よそに養子に行っちゃいました"って報告すらしていませんもん。母から一応手紙で報告したみたいですけど、爺様のお返事には"自分で説明しに来させろ"としか書かれていなかったみたいなので」


 大丈夫なのだろうか、とナザールは一抹の不安を覚える。

 フィルバートの私室で、二人で今後のことを話をしながらお茶を飲んでいるところである。

 ナザールは、フィルバート達が出発したのを見届けてから中立都市へ出発することになる。

 東方王国と草原の部族の外交が済んでもフィルバート達はハルフェンバック領にそのま滞在し、スフィルカールの行方を捜すつもりらしい。

 在外公室も、一旦解散となった。


「しかし、母上もナージャに無理な頼み事して・・・」

「あぁ、いや良いんだ。生活の保障をしてもらって、寧ろ悪いなと思うよ」


 中立都市の魔法使いの教育に特化した学校に双子を通わせる希望をハルフェンバック夫人は持っている。以前から、フィルバートも母から聞いていてそれは賛成していたそうである。

 その学校は、寄宿舎で生活しながら治療師や魔術師、魔法技工士などの魔法使いの技術を磨く教育機関である。中立都市の統治機関からの補助もあるが、各国の宮廷魔術師や貴族の子弟も通いそれなりの補助金も必要らしい。

 才能さえあれば奨学金の制度も整っているので、国同士のいざこざや身分などとは無縁に勉学に専念できるというのが最大の魅力だった。

 11歳になった双子は、春先には入学出来るように準備を進めていたところらしい。


 しかし、ナザールが留学するという話を聞いた双子の母は、双子を秋から入学させる事を決め、彼に一緒に連れて行ってくれないかと頼んだのである。

 中立都市に家を一軒購入してあるのでそこで双子と一緒に生活してはどうか。ナザールを双子の生活態度や勉強の指導をする家庭教師として雇いたい。使用人数人と護衛がいるので生活の細々したことは心配しないで良い、という事である。

 双子を寄宿舎で別々に過ごさせるよりは、その方が良いと彼らの母は判断したようである。

 流石にロズベルグ翁に相談をしてから、ということで手紙を送ってみると、「仕事があるならそれに越したことはないし、衣食住の心配がないのは何よりだ。是非申出を受けるように」との返事が来ると同時期にハルフェンバック夫人宛てにも丁重な謝意の手紙が来たらしい。


「特に、クラウスが情緒不安定になりやすいので、独りで寄宿舎生活は難しいと思っていたんです。ナージャが側にいてくれると助かります」

「ルドヴィカはむしろ寄宿舎でノビノビしたいんじゃないかな?」

「ルイの方は、寄宿舎住まいじゃなくても何をやらかすかわからないので、そちらに関してはお目付役をお願いします。護衛はダヴィが長を務めますので、相談事は彼に」

「そりゃぁ、心強いや」


 元孤児の騎士が一緒とあって、不安はない。

 留学中の勉学の方は心配ないとして、もう一つの懸念について口にする。


「もしカールを見つけたらどうする?ハルフェンバック領に連絡する?」

「あまり手紙で連絡したい内容ではないので、ハルフェンバック領への連絡は不要です。まずは中立都市の家で保護して王都の母に、私に取り急ぎの要件があるとだけ連絡をください。私たちが王都に戻った時には連絡しますので、そこで合流ですかね。こちら側で保護した場合も同様です。それに、ひょっとしたら少しハルフェンバックを離れるかも知れない」

「どういうこと?」

「シヴァ様が、フェルヴァンスに一度帰った方が良いかもしれないと言っていて。・・・数年程兄の居る国に行ってくる、程度の情報で以降十数年間行方不明ですからね。どうも父のことで国許から何か言われて来ていたらしいんですよ、決着を付けに行った方が良いなと仰っています」


 少し迷っています、とフィルバートは言う。


「カールを探しに行きたいのですが、草原の方のツテが上手く機能するなら、寧ろ動かない方が良いかもしれない。そうなると、シヴァ様だけでフェルヴァンスに行くのも危険な気がして、ついていく方が良いのかとも思っています。ウルカからは、ハルフェンバック領には自分が待機しているからと、出来れば私にシヴァ様について行って欲しい様です。彼の内側に残っている"リオン"の部分がどうも拒否反応を示しているようなので、自分はついていけそうも無い、と言っています」

「・・・・師匠の家事情かぁ。・・・」


 ほとんど自分のことを話していないシヴァの故郷や家庭事情について想像が全く働かない。

 はあ、とフィルバートは吐息を漏らした。


「色々ありすぎて、そろそろ限界ですよ」

「俺も疲れた」

「カールは今頃独りで大丈夫なんでしょうか? 第一、今まで単独で行動したことなんてないんですよ? 東方公国東北部、草原との境にある領地、って情報でたどり着けるのかな」


 今までのスフィルカールの行動様式を思い返し、ナザールも暗澹たる気持ちになる。


「絶対まよってるよな」

「リュスラーン様も最後の最後で一人で逃がすなんてそんな決断するくらいなら、もう少し違う教育方針ってものがあったでしょうに」


 それより何より。

 二人には頭を抱える材料が多い。


「あの自覚のなさで、独りでいるのかと思うと正直ぞっとするんですが」

「まぁな・・・・なんか妙なのに巻き込まれていないと良いんだけど」


 尊大な表情や不遜な態度はともかく。

 彼の持つ独特の雰囲気はこの場合にはかなり問題に思える。


「一見華奢だし、色が白くて、さらっさらの真っ黒の髪で、海みたいな眼の色していて」

「そうそう。で、相手の目をじーっと見て話ししちゃうから」


 慣れていない護衛や女官の落ち着きを無自覚に奪っている様を思い出して、二人は今日最大の嘆息を漏らす。


「街中で男女関係無しにふらーっと目が持っていかれている奴が時々いたしな」

「東方公国の知り合いに色々言われたんですが、どれもリュスラーン様に聞かれたらタダじゃ済まない感想でしたよ」


 ふと、ナザールとフィルバートの視線が合う。


「・・・・・俺達、普段からあいつの護衛を結構頑張っていたよな?」

「それが現在、絶賛単独放浪中・・」



 また、二人は同時に頭を抱えた。





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