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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
7.シヴァとジヴァルとその兄
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7-04



 フィルバートは、ウルカから聞いた話を彼の母に聞かせたらしい。


 ウルカに何度も話をさせるのは酷だから、と言って。

 夫の最期を聞いて、夫人はぽつりと言ったそうだ。


 あの人らしいわね


 ジヴァルは、ある日突然夫の許にあらわれたのだそうだ。

 理由は、夫人も聞かされていないのでわからないらしい。

 夫が用意した郊外の小さな家に滞在し、時折会っていたのだという。

 夫は、長男には会わせないようにと配慮していた。

 もう物心が付いているから他所で無邪気に口にされないように、という理由以外は言ってくれなかった。

 ランド伯爵にも、夫人の兄であるハーリヴェル公爵にも言わないようにと夫から口止めされていたので、彼らも知らない筈とのことである。


 そして、夫人が双子を出産した後、数日後に夫はジヴァルを連れて家に帰ってくると、生まれたばかりの双子の内、男の子の方にはジヴァルが名付けをすると夫人に告げた。

 夫は、魔法使いの子供が生まれたことに、とても喜んでいた筈だった。

 どちらも夫自身が名付けをするはずだと思っていた夫人は不思議だと思ったが、夫にはなにか思惑があるのだろうと思って、何も言わなかったとのことである。


 そして、ジヴァルが夫と共に帝都に向かったことは知っていた。

 事故後の現場に遺体はなかったので生きているのか、別の場所で息絶えたのかがわからなかったが、表だって言える者として行ったわけではないので、誰にも言えなかったのだと言う。


 まさか、シヴァ・リヒテルヴァルト侯爵として貴方と共にいたなんて。

 不思議な巡り合わせもあるものね、と夫人はすこし寂しげに笑った。


「お前の母ちゃん、大分落ち着いた?」

「ええ。あとでウルカに会いたいと言っていたので、ウルカの決心がついたらね」

「・・あとは、師匠か」

「一晩くらいで目が覚めるとウルカが言っていたから、明日様子を見ましょう」


 フィルバートの私室でようやくお茶を飲む余裕が出来た二人は、大きくため息をついた。


「カールとかリュスラーン様の話どころじゃ無くなったよ」

「ほんと、俺もう疲れたぁ~」


 ソファのクッションにぐったりと寄りかかるナザールを、少し申し訳なさそうにフィルバートが見つめる。


「これで、ナージャが留学に行っていたらと思うとぞっとする。私一人ではとても対処出来ないよ」

「俺も、留学いったところで、此の状況じゃ集中出来ねぇよ。まぁ、俺達でなんとかするしかねぇだろうよ。・・・・とにかく、乗り切ろうぜ」


 

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 翌朝。

 シヴァことジヴァルは寝台の上でぼうっと座り込んでいた。


 手を見つめ、握ったり、開いたり。

 左手にはまだ文様が見えた。

 そして、部屋の内部を、久しぶりに自分の目で見る世界を、ゆっくりと見まわす。


「・・・・見える・・・・」


 思わずでた声に驚いて、喉元に手をあてる。

 自分の声が、自分の口から出てくる感覚が不思議でたまらない。

 小さな声で、あーあー、と言ってみたりする。


 そっと扉がノックされて、細く開いた。

 様子を見ようと思って入ってきたらしいナザールが扉を閉めて振り返ったところで、シヴァが起きていることに気がつく。


「師匠!」

「・・な、なーじゃ・・」


 まだ上手く発声できない声で名を呼ぶと、ナザールはずいっと顔を近づけた。


「うわ、師匠。やっぱりフィルと同じ顔してる!!」

「うん・・・いきなり、それ?」


 何か他に言うことないのか。

 シヴァことジヴァルは緊張もへったくれも無いと呆れて肩を落とす。

 弟子は、一向に構うこと無く師匠の脈を取り、熱を測る。


「熱はなさそうだね。脈も大丈夫・・・。ウルカが言ってた通り、単に眠るだけなんだな」

「・・・ウルカ?」

「あぁ、あとで聞いて。フィルの親父さんの魔法の影響で一晩眠っていたらしいから」


 その言葉に、急激に記憶が呼び起こされてシヴァは頭を押さえた。


「・・・・兄上の魔法・・・?」

「待って、ゆっくり。ゆっくり考えて、師匠」


 その肩に手をかけて、急激に考えないようにと制す。

 気をそらすために、ナザールは質問をする。


「腹減ってない?」

「・・・すこし・・・」

「じゃあ、お腹に何か入れよう。暖かくしてから、考えよう」


 そう言うと、扉の向こうに一旦消える。


「・・・・・兄上・・・・」


 少しづつ記憶の糸をたぐり寄せる。


「・・・痛・・・・」


 こめかみの辺りからガツンとした痛みを覚えて頭を抱えた。



「シヴァ様!」

「ジヴァル!」


 同時に二通りの名前を呼ばれて、顔をあげる。

 フィルバートとウルカが部屋に入ってくるところが目に付いた。


「わ、ホントだ。目の色以外、私と同じ顔!」

「だろう? だからすぐに汝がわかったんだ」

「こう見ると、シヴァ様ってフェルヴァンス人なんだとわかりますね」


 ずいっと少年達の顔が近づいて、また覗き込まれる。


「・・・・うん・・・そっちが気になるか・・・・」



 他に言う事は無いのか。



 シヴァことジヴァルはなんともやりきれない気持ちで、力が抜けてしまった。














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