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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
7.シヴァとジヴァルとその兄
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7-01



 外が騒がしい、とナザールが気がつき、応接室から外に出た時には、すでにシヴァが屋敷の使用人等によって部屋に運ばれている所であった。

 師匠、と呼びかけようとして、フィルバートが駆け寄ってくるのが目に入る。


「フィル、どうした?」

「ナージャ。シヴァ様が倒れたので少し診ていただけますか?」

「あ、ああ」


 その声に応じ、急いで用意された部屋に飛び込んだ。

 寝台で寝かされたシヴァの様子に、ぞわりと背中に何かが走るが、腹の奥に力を入れて、彼の脈を取る。


 特に体調が悪くなったような様子では無い。

 熱は無く、呼吸も正常だ。


 だが、何かが違う。

 ・・・師匠の中で、何かの魔法が発動した?


 ぼんやりとしてまだはっきりとまとまらない。

 一体何が起きたのか、特にやることもなさそうな寝台の傍らで、ただ眠るように意識を奥に隠してしまったシヴァの顔を見つめる。

 背後に、近づく気配に気がついて肩越しに相手を認めた。


「フィルか」

「ナージャ、シヴァ様の様子は?」

「あぁ。意識は無いみたいだけど、特に問題があるわけじゃ無い。・・・何か、師匠の内側で魔法が動いたような感じがするけど」


 そこで、周囲に目を配り、誰も居ないことを確認してフィルバートがそっとささやく。


「母が、シヴァ様をご存じのようだ。・・・・ジヴァル、と呼びかけた瞬間、シヴァ様の意識がなくなった」

「・・・あぁ・・・・なるほど」

「驚かないの?」


 驚愕するどころか何か納得した様子に、フィルバートが目を見張る。

 周囲を一瞥した後、ナザールもちいさくフィルバートに告げる。


「クラウスが、自分と俺の名付け親は一緒だと言い出した。師匠は、俺以外に名付けをしたことが無いと言っていたから。・・記憶を失う前に、クラウスに名付けをしたと言うことになる」

「クラウスが?」

「お前のとこの双子。アレは特異体質だ。・・自分と名付け親が同じ魔法使いが解るらしい」


 その言葉に、フィルバートの表情が凍る。

 シヴァの顔を見ながら、ナザールは自分自身で整理をするかのように淡々と言葉を綴る。

 

「さらに、同じ名付け親の魔法使い相手なら、そいつの心の動きが大きく動くときを感じ取ることができる。だから、クラウスは俺と初めて会ったときに"僕と同じだ"と言ったんだ。・・・ルイと違って、今まで、"同じ奴"が居なかったクラウスにとって、初めての"同じ"が、俺だったんだ」

「母が、少し具合を悪くしたので休ませました。・・・・もう少し落ち着かないと話を聞けそうも無い」

「あとは・・・・・」


 ウルカか。


 二人の視線で、意見の一致を見たところで、部屋の奥の扉がそっとノックされたのに気がつく。


「ウルカ・・・・」


 扉を開けた先にたたずんでいた黒い髪に金の瞳の少年の姿は、いつになく頼りなげでちいさくも見えた。

 中に誘うと、真っ直ぐにシヴァのもとに進む


「ジヴァルは、大事無いか?」

「あぁ、特に問題は無い。内側で魔法が発動して寝ているような感じだ」

「そうか・・・・彼を知っている者に、名前を呼ばれたら一度眠るように魔法が組まれているんだ。上手く動いてくれたみたいだ・・・彼の者の術は、完璧だな」


 隣に近づき、シヴァの顔を見下ろして、安堵の息を漏らす。

 暫く、沈黙が流れて、重々しい空気にナザールもフィルバートも次の言が告げられない。


「フィル・・・。汝を一目見た時から、何時かこの日が来るであろうと思い続けてきた。お前は、彼の者に、色は違えど本当によく似ていたし、何より吾の内側にほんの僅かに残っている"彼の者"の部分が打ち震えていたから。・・・すぐに、わかった」

「ウルカ・・・・、彼の者って」


 フィルバートの声が震える。

 ウルカは、苦しそうな、何かをこらえる表情でその顔を見上げた。


「・・・吾がジヴァルと結んだのは主従の契約では無い。共に生きる、"共生"だ」

「え?」

 ナザールが驚愕で目を見張る。

 そんな契約聞いたことが無い、という表情だ。


「ジヴァルの瀕死の状態を助ける為には時間が必要だった。吾が真に契約した"主"の命令で、"主"の命を礎にしてジヴァルと"共生の契約"を結び、時間をかけて吾の力で癒す必要があった。傍目から見れば主従とほとんど変わらないように感じる。流石にナファは薄々感付いているようだが、その様な素振りを見せないでいてくれている。」


 ウルカは、胸の服地の部分をぎゅっと掴む。


「真の契約者は、リ=ウォン・・、此の国ではレオニード・ハルフェンバックと呼ばれていたはずだ。・・・・・フィルバート、汝の父親だ」




「・・・・・どういうこと?」



 その時のフィルバートの表情は。

 蒼白を通り越していた。






 














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