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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
6.帝都へ
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6-04



 出発は、5月の中頃と決まった。

 ラウストリーチ公国の公都から帝都までは軽くみても2週間はかかるので、皇帝から指定された必着期限に余裕を持たせるためには少し早めに到着するつもりでいたい。

 公式行事に出席するので、それなりの見た目も考えて衣類も準備しなければならない。

 まだお披露目前なので要人に会う機会はないだろうが、皇帝には面会する予定であるし、一応父親なので多少土産らしいものも準備するほうがいいだろう。

 そちらの準備は、女官を中心に進められている。


 そして、スフィルカールとともに帝都へ向かう一行の人事選考も始まっていた。

 スフィルカールに摂政のリュスラーン。それに御者に護衛が数名。女官が三名ほど同行するとのことである。


「あちらはあちらで、殿下の侍従や女官は配置されているだろうから、あまり多く連れて行くと妙な勘繰りされかねねぇって話でよ」

「だから、王子としては少ないのか。・・・・大丈夫かな」


 フィルバートは、親方の鍛冶工房でスフィルカールの警護体制を聞きながら、不安そうに頤を少しかく。


「親方が御者、としていくんだね」


 アリーが尋ねると、親方は己の胸を軽く。


「まぁな。道中は任せろ。あと、さすがに国から連れて行った女官は一番近くに居ていいから、すこしは安心だろう。旦那によれば、城の女官達はいざとなったらちゃんと殿下をお守りできるように日常訓練はされているって話だ。それに、表向き同行はしないが、何人かはウチからも帝都に行くことになっているからな」

「バトゥ、帝都入りするみんなはとても頼りになるんだ」

「そうか、親方とアリーが言うなら、心配しないよ」


 そこで、アリーは今まで言い出せなかった疑問を口にする。


「ところで、バトゥは帝都の旦那様の御家にはいかなくていいの?ご養子になったわけだし。貴族ってそういうものでしょう?」

「うーん、私もよくわからない。リュスラーン様からは行かなくてよいって言われただけなんだ」


 二人が首をかしげていると、親方はそりゃぁ仕方なかろうなと言う。


「まぁ、お前さんと、アリーはなぁ。帝都ではちと目立ちすぎるんだよ。珍しいけどまぁ居る、って程度の東方公国とは大違いで、砂漠の者も草原の者も、ましてや極東フェルヴァンス人なんて帝都の街中ではめったに見かけない。今回は殿下の公務のほうで旦那も頭がいっぱいだ。おめぇさんの事なんか気にしてられるか」

「ふうん。東方公国もこの公都も、東から行商人がたまに来るけど、帝都は違うのかな。僕も帝都の市場で売られるまでに、何度か転売されていたみたいだし」

「そうなんだ。帝都って、いろんな土地の人があまり流入するところではないんだね」


 砂漠の民と一目でわかるアリーと、父譲りの極東人らしい容貌のフィルバートは互いを見て、肩をすくめた。


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 シヴァは、少し不安そうに眉を寄せる。


"・・・そうか、君がそう言うなら。従おう"

「悪いね。いろいろ押しつけて」


 リュスラーンは同僚の執務室にて、ソファに向かい合わせにすわる魔術師に真に申し訳なさそうな声を響かせた。

 シヴァは首をかしげながら、個別に執務室を訪問した真意を問う。


"わたしに直接話にきたあたり、ひょっとしてナージャやフィルにはまだ話をしていないのか?"

「あの三人組にはまだだ。無用な不安感を与えたくはないからね。そもそも、俺の取り越し苦労かも知れないし」

"君は、わたしにはあの三人組に甘いと散々言ってきたが。その実、一番子供扱いしているのは、リュスの方だな"


 そうかなぁ、とリュスラーンは苦笑いを見せた。


「フィルバートには、家の事もあるから、少し早めには説明する。俺がいない間は、彼に"当主"をやってもらわないといけないし」

"おや、予想以上にちゃんと"父親"をやっているんだな"


 揶揄うように、抑揚のある文字。

 感情が入ると、魔術師の文字もそれに応じて動くことがある。

 リュスラーンは困ったねと破顔した。


「当の本人には、随分嫌がられているけどね。絶対に父とは呼びたくないらしい」

"どういう手を使ったかは聞かぬが。カールとこの国の為という理由で、一人の少年に国と家族を棄てさせたのだ、という自覚は持っておくことだな"


 棘のある言葉と文字からうける印象に、顔を上げると。

 固く閉じられた両眼がこちらを見つめているのにぶつかる。

 ひやりと、背中に冷たい汗が一筋通るのがわかった。


「あ・・・・、怒ってる?」

"ライルドハイト家の話に私が口を挟む余地はないがね。少なくとも、彼には数年は考え迷う時間があったはずだ。それを全部潰して、性急に事を運んだことをわたしは決して良いとは思わぬ"


 ロズベルグといい、シヴァと言い、勘が良いな。

 "何かやった"らしいことは彼らには明白らしく、リュスラーンは足元の絨毯の織り目を暫く数えて。


「誰が、なんと言おうとも、誰に恨まれようとも。この決断は正しかったと俺は思っている。・・・・その分、フィルバートに対して俺には相応の責任があることも、わかっている」


 だから、と彼は自らの拳を握りしめた。

 顔を上げた時には、もとのにこやかな笑みに戻すことができた、と彼は思った。


「だから、俺のいない間は、あのやんちゃ坊主のこと、頼んだよ」





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