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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
6.帝都へ
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6-02




「・・・如何思う?フィルバート」

「如何思うと言われましても・・・」



 厚みのある上質の紙。

 エンボス(型押し)された模様が瀟洒で、一目で最高級品だとわかる。


 封蝋が成された文書を開けたリュスラーンが、その内容を確認するや、近くで書類を整理していたフィルバートを呼び、机の上で額を付き合わせる程に近くに一緒に書簡を覗き込んでいる。


「・・・・これはリュスラーン様宛てですよね?」

「うん」

「カール宛てにも同じ封蝋の書簡が来ていますが、これは開けますか?」


 摂政の間は、スフィルカール宛ての公の文書は彼が一度確認する。

 当然の問いであるが、リュスラーンは、少しだけ考えて首を振った。


「・・・カールに開けさせようか」

「開けた瞬間呪われるとか無いですよね?・・・・陛下からの書簡ですよ?」

「流石にそれはないよ。そうだとしても、城に到着した段階でシヴァが気付くはずだ」


 書簡の送り主は、スフィルカールの父たる、皇帝である。

 今までリュスラーンに対してですら書簡など寄越してきた例が無い相手である。

 しかも、親書と来た。


 リュスラーン宛ての文書には、「来年の6月にスフィルカールを連れて帝都に来い」という内容が重厚な文言と矢鱈と抑揚のある筆致でしたためられている。


「陛下ってこういう字をお書きになるんですね」

「フィル・・・ここに来てそう言うお気楽なセリフよく言えるね」


 内容より文字かよと呆れていると、彼の養子殿は人の話を耳に入れずに暫く頤に触れながら思考を廻らせている。


「来年の6月に18歳になるということが関係するんでしょうか」

「だろうね。成人として扱われるし、一応帝位継承権も消えてはいない。・・・・そうなると、ちゃんと"王子"としての扱いをしないといけない。・・・そうか、お披露目か」


 ぽん、と手を打ったリュスラーンは、続いて腕組みをし、うーんと唸り始める。


「そうかぁ、お披露目か。そりゃ、公式行事は無視出来ないなぁ」

「・・・・一瞬、無視出来ないかなーって思ったんですね」


 フィルバートの視線がややとがめるようにこちらを突き刺しているのがわかる。


 その時、扉の向こう側からノックが聞こえた。


「閣下、殿下とリヒテルヴァルト様がお見えでございますが」


 少し扉が開き、外から来訪者を告げる女官の声に、二人は顔を見合わせた。


「まぁ、まずは開封しようか」

「話はそれからですね」



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 皇帝からの親書だと言われて、スフィルカールは少し指を引っ込めた。


「カール?」

「・・・なにやら、呪われそうな気がするのだが」


 まだ開封されていない書簡をリュスラーンから差しだされて、躊躇していると、シヴァがそっと奪い取った。


"何も無い。心配せずとも開けると良い"


 再度差しだされて、恐る恐る手に取る。


 父からの、初めての書簡である。


「そういえば、摂政の間はお前が私宛の公文を開封する事になっていたはずだが」


 急に思い出し、どうしてこれは自ら開けさせようとしているのかといぶかしむような目でリュスラーンを見ると、摂政のみならず、彼の養子まで一様に両手を振って否定した。


「いや、ほら、初めてのお父上の親書だし?」

「私たちが勝手に開封するのも、ねえ? リュスラーン様」

「・・・・お前達・・・・」


 呪いは冗談としても、気味が悪い、と顔に書いてある。 


 まったくもって、とため息をつき。


 スフィルカールは思い切って封蝋を解いた。




 来年6月を以てスフィルカール・ラウストリーチ・デ・リーデルハインドを成人と見なし

 皇帝第四王子として帝都に於けるすべての公式行事への出席を命ずる



「皇帝からの召喚状だ・・・・・・」



 スフィルカールはぽつりと呟く



 ・・・・皇帝が、会いに来いと。



 初めて、自分には父がいるのだと実感する。


 実感しても。


 指先が震えた。





















 








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