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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
6.帝都へ
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6-01



 ラウストリーチの国は今日も一見穏やかな様子である。


 17歳もとうに過ぎた三人組はそれぞれの仕事や修行に忙しく明け暮れている。


 ナザールは、いよいよ留学の準備を本格的に進めており、孤児院での講義も止め、城内の魔術師志望の子供達の指導もほどほどになっている。

 文通友達のイライーダ王女とはその後も交流が続いているようで、留学すると告げたら、"では、あの都市にある図書館でおすすめの古典文学の本を探して推薦してください。東方公国にあるものは貴方はすでに全部読んだから、わたくしの知らない本はお判りになるでしょう?"と来たらしい。本当にただの友達らしい。

 密かに、リュスラーンとシヴァは色々考えたらしい、大人として。

 そろそろ良い年頃なので、ひょっとしたらひょっとするのでは、いやいや、それにしてもさすがに家柄が等と考えあぐねた結果、恐る恐るシヴァが"本当のところ"を聞いてみた所、大変気を悪くしたような返事が返ってきたらしい。


 "大人ってすぐそういう勘ぐりするから不愉快だよな。俺にも姫さんにも失礼だよ?"


 ・・・本当にただの友達らしい。


 フィルバートは、どういうわけか、東方公国で約束された仕官の道を断って、ラウストリーチ公国の者になった。東の大国の騎士ではなく、辺境かつ弱小の公国侯爵家の養子を選択した彼に、結局どうしてそうなったんだとスフィルカールが聞いてみたところ、彼は少し言いにくそうに"まぁ、そのうち話しますよ"と言ったので、多分一二度リュスラーンを足蹴にしても良い話なのだろうと思う。しかし、なにか吹っ切れたのかよくわからないが、フィルバートはリュスラーンを"父上"とは絶対に呼ばないにせよ、"ライルドハイト家の嫡子"をちゃんとやっているようだ。

 現在は無位無官、そして無職のフィルバートだが、城内の騎士の子弟から"フィル先生"と呼ばれて慕われる程度には熱心に剣術指導をし、"本気"のフェルナンドやリュスラーンに剣術稽古でコテンパンにしごかれ、ライルドハイト家の家令やリュスラーン付きの政務官や女官が何故かスフィルカールに"貴方のおかげです"と賞賛する程度には摂政補佐官的な仕事をこなしている。"楽になったのか、仕事が増えたのか俺にもよくわからない"とリュスラーンがぼやいてるのが良い証拠だ。

 ちなみに、なろうと思えばすぐにでも騎士になれるらしいが、彼はまだ騎士の叙勲を受けていない。

 スフィルカールが公王として正式に表に出るようになってから、公国騎士になりたいと言ったそうだ。なんだそれ、小恥ずかしいにも程があるだろうとスフィルカールは思うが、周囲の大人全員から大笑いされても、彼はそれで良しとしたようだ。"名より実を取るタイプと思っていたが、ここは名をとったか"と、騎士になったら即いろいろとこき使おうという腹だったらしい筆頭騎士のフェルナンドが少し宛てが外れたという顔をしていた。


 スフィルカールには、特筆すべきことが無い。

 いつも通りに執務をこなし。

 フェルナンドに剣であしらわれ。

 シヴァに古典の引用間違いを指摘され。

 リュスラーンに"だから甘いんだよ"と呆れられる。


 そんな日々が続いていた。



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 外は、また冬の季節が運ってきていた。

 何処へ行くにも手足がかじかむ。


 やはり、フィルバートは元気で、スフィルカールは寒がりだった。

 ナザールは、ほどほどに雪景色を楽しんでいる。


 今年も、降雪の後は乗馬訓練をさせられるのだろうか。

 暖炉の前で暖かい紅茶を飲みながら本でも読んでいた方が精神衛生上は良い筈なのだが。


 城の開廊から見える空が、重く厚い色に敷き詰められているのを見ながら歩いていると、同じように空を見上げるシヴァを見つける。護衛に軽く合図をして、少し足早に近づいた。


「シヴァ」

「?」


 怪訝そうな表情に、スフィルカールは少し不安そうに首をかしげた。


「如何した。ぼうっとして」

"あぁ、カールか。ちょっとね、空気が冷えてきたから、今日辺り雪になるかなとおもって"


 いつもの穏やかな様子にホッとして、辺りを見まわす。


「ウルカはいないのか? 何処に行くのだ? 一人で大事ないか?」

"少々遣いにやった。私はリュスラーンの執務室に行こうと思ってね。城の中は一人でも大丈夫だよ"


 目の前に流れてくる文字に乱れは無いが、少し不安を覚えたスフィルカールは隣に並ぶ。


「一緒に行こう。つかまると良い」


 そこで、いつものように肩を貸そうとするも、シヴァはすこし考え、スフィルカールの肘をそっと持った。

 シヴァの口元が優しく笑みを見せる。



"カールは大きくなった。肩を借りるには、もう高すぎるな"



 急に照れくさくなり、スフィルカールは咳払いをする。



「ふむ、そういうものか。では行くぞ」



 













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