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5-04



「禁軍と南方軍、どちらにするか決めたのかい?」



 そのセリフに、少年は微塵も動かなかった。



「伯父とランド伯ですか?」

「まぁ・・。そうだねぇ。あと、俺は外務卿とランド伯それぞれから少しばかり君に関してお願いされている。・・・・君がどちらを選ぶのか、気にされておいでだし、できれば自分が望む方に進んで欲しいとも、思っているようだって所までは理解しているよ?」


 広い執務室に。

 他に誰がいるわけでも無いのに。


 リュスラーンは薄ら笑いのなかで、ひそやかにささやく。


「外務卿は禁軍に行って欲しそうだ。そうだね、君はハーリヴェル公爵の甥御だし、ゆくゆくは宰相の可能性もあると目されている外務卿にとって近衛騎士に近しい身内がいるのは望ましい。もう一人の甥御や姪御はまだ未知数だけど、望めば宮廷魔術師になれるかもしれないし。公王殿下のお近くに侍するのは、君の今後のキャリアプランにとってもいい話だ。子爵とは言え、働き次第では中央政治に関われるかもしれないし」


 一方で、と流し目で少年の反応を見る。


「南方軍の総司令も兼ねているランド伯にとっては、君を司令部所属の騎士にして、いずれは自分の仕事の一翼を担って欲しいという希望が透けて見えた。あそこなら、身分も血筋も関係なく、腕一本でのし上がれる環境にあるし、その実力もあるだろうと期待されているみたいだね。それに、北方の草原民族を束ねる"可汗ハーン"の孫の存在は南方の草原の民に対して良い牽制になる」


 ふふ、とリュスラーンはちいさく笑った。


「大人って勝手だねぇ。君の味方をして、君を護っているようでいて、結局は"自分に都合良く"道を歩んで欲しいと思っている」


 で、今のところの君は、と続ける。


「南方軍、に気持ちが傾きかけている、と俺は思っているけど?」

「・・・・勝手な憶測は迷惑です」


 じろり、と硬い表情で睨まれて、怖いねぇとリュスラーンは肩をすくめた。


「中央はね、とかく面倒事が多い。直近で王女派と揉めたばかりだし、タダでさえ、君がフェルヴァンス人の特徴を強く受け継ぎ過ぎていて、あまり東方公国の貴族達からの印象が良くないことは大きな理由になるね」


 そして、南方は、と。

 リュスラーンは少しだけ瞳の力を強くする。


「君にとって居心地は悪くない。子供のころから指導してくれた先輩も多い。それになにより、君にとっては、砂漠の民に対して因縁がある」


 甘いささやきで、どろりとした毒を吐く。


「何の罪も無い君のお父上を拘束し、東方軍に"前払いの傭兵どれい"として売り払った"死の商人"がいるところだものね」

「・・・・!!」


 表情が一変したことで、確信に変わる。


「そうやって顔色を変える辺りがまだ未熟だよ?」

「それ・・・どうして」

 

 蒼白となった顔と、いつの間にか腹の前で組んだ手が震えていることで、フィルバートはその言葉を肯定してしまっていた。


「ランド伯から聞いたわけじゃ無いよ。あの人もそこまでは俺に言ってないし、そもそも言えないだろう。自分の勲功が君の父親にやらせていた"人道的とは言い難い行為"の上でのものだからね。これは、俺なりに調べたことでの推測」


 すこし、体を離して、少年のつむじに聞こえるように呟く。


「あの戦乱時に、いくら混乱の極みと称された南方の最前線とは言え、純粋なフェルヴァンス人がいた事にちょっと違和感があったんだ。あとは、ほら、蛇の道は蛇ってところ。その様子だと大当たりみたいだね」


 今度はもう一方の耳元にささやく。


「"フェルヴァンスの魔女"・・・砂漠や草原南方の部族の間でも、もう忘れられている名前だね。南方軍所属の情報探索役として恐れられた兵士の二つ名だ。・・・精神制御魔法による拷問まがいの"事情聴取"がお得意な"美人"だったと聞くよ?」

「それは・・・・」

「心配しなくても、御母堂や弟妹は勿論、外務卿にも言ってないし、知っているのは、君以外にランド伯くらいでしょう? 今後、俺から言うつもりは一切ないよ」


 その言葉を聞いて、フィルバートは口元を震わせた。


「わたしは、何をすれば良いのでしょうか?」


 嫌だなぁ、とリュスラーンは嘯いた。



「俺、脅すつもりはないよ?」



 そんなつもりは無いけどさ、と言いながらも、少年の肩をそっと抱える。



「今、手が足りてなくってさ」



 リュスラーンは極上の笑みを見せた。



職場体験インターンシップって事でどうかな?」






















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