5-01
"外交なら及第点、お見合いならサイテー"な行事ごとを終えて数ヶ月がたった。
季節は、また冬である。
暖炉が恋しく、また暖かいクリームシチューが体の隅々まで染み渡る頃だ。
スフィルカールは、やはり時折フィルバートにせかされて馬で遠乗りに出かけ、リュスラーンに呆れられながら公王として徐々に増える執務をこなし、時折ナザールと意見をぶつけながら日々を過ごしていた。
もう、フィルバートと剣術の稽古を一緒にすることは無くなった。
リュスラーンとフェルナンドに、"この先、彼に剣で敵うことは無い"、と宣言されたためである。
自分の身を守って逃げおおせる程度、の剣術を身につけよと言うことになった。
フィルバートがどのような修行をしているかも、スフィルカールは知らない。
相変わらず、食事が喉を通らない程度には絞られているので、まぁ、そういうことなのだろう。
最近は騎士の子弟の中でフィルバートの剣術指導を受けている者もいるそうだ。
以前は大人しかいなかった城の中で、子供らしく高い声が響く事が増えてきた気がする。
地方の貴族の子弟で魔術師を志望する者も出てきたとのことで、ここでもナザールは生来の面倒見の良さを発揮している。
ナザールは、徐々に魔術師として将来を見据え始めている。
最近は魔術言語に関心があるようで、それはロズベルグ翁の専門分野でもあるらしい。
意図せず、自分の後を追うような志向を持ち合わせた養子にあれこれと指導に熱を入れている。
ナザールとフィルバートは、それぞれ個室が与えられることになった。
とはいえ、大概誰かの部屋で一緒に勉強したり、だらけたり、そんな様子は変わらずである。
彼らと共に、自由な時間をのんびりと過ごし、子供達に勉強を教えに孤児院へ通う。
そんな、穏やかな日々をスフィルカールは過ごしている。
東方公国もその後たいしたもめ事も起きていないようである。
"迷うための時間と場所"をきちんと自分で得ようと努力しているイライーダ王女は、ランド伯や外務卿、そしてイェルヴァ公王の助けを得ながら、徐々に"自分の意見"を表に出せるようになってきたらしい。
・・・と、いうことを何故かナザール経由で聞くようになった。
ある日突然、"ラウストリーチ公国宮廷魔術師団所属 ナザール・ロズベルグ殿"宛ての手紙が届いた時の衝撃はきっと忘れないであろう。
顔が引きつっているフィルバートをよそに"あ、姫さん手紙くれたんだー"という大変お気楽な感想を放ちながら、気楽に手紙を受け取り、気楽に返事を書いている。
俺の苦労返して?とリュスラーンが言う程度に、何かをあっさりと乗り越えてくれた。
リュスラーンは手紙の内容が矢鱈と気になるらしく、折々に見せて?と聞くが大体すげなく断られていた。
ただ、ナザールは返事を書く際にリュスラーンに大まかな内容を伝え、問題が無いかどうか確認してから返事を認めているそうなので、彼もそれ以上しつこくすることは止めているらしい。
"俺と姫さんは国の彼是は関係ないし、それにこれは只の友達の手紙だから"をなるべく守りたいらしい。
最近、あれこれと東方の古典を読み始めたのはその影響であろう。本当に"只の友達"の手紙らしい。
ナザールの元には、ハルフェンバック家の双子からも手紙が届く。
兄の元に届くより、回数が多いらしく、フィルバートは少々すねている。
回数が多いのは、魔法の課題を出しているから、との事らしい。
皆、それなりに、自分の生き方を進めている。
そんな事をおもうにつけ、スフィルカールは暗澹たる気持ちで押しつぶされそうな自分を自覚する。
・・・フィルバートめ。
急に妙なことを言い出しおって。
答えがでない
いや、出したくない。
そんな"課題"を突きつけられているのである。