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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
4.亡国の王族
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4-12



 その日街から戻ってきたナザールにイライーダ王女と一体何時何処で会ったのか、と問い詰めるとあっけらかんとした返事が返ってきた。


「あ? なんかフィルが大もめに揉めたっていう次の日に庭園の隅っこでかな? あれ?姫さんここに来たの?」

「姫さん・・・・」

「姫さんって・・」


 あまりに馴れ馴れしい呼び方に、フィルバートもスフィルカールも呆れてそれ以上の言が続かず。


「ナージャ君って、時々何かを超越するよね」


 リュスラーンは呆れたのか褒めたのか、わからない表現でそう評した。


 ナザールのよくわからない能力を見せつけられたところで、この都市での公務はすべて終了し、ラウストリーチへとようやく帰る運びとなった。

 それは、フィルバートにとっては少々辛いものだったのかも知れない。


 帰らないと帰れない、は意味が違うのだ。


「母上、伯父上、大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。領主としての務めも満足に果たせずにいるのに・・。」

「何を言ってるの。難しいけど、こうやって会う機会を得ることだってできるでしょう?」

「そうだよ、わたしがラウストリーチに行く事もあるかもしれないし。手紙だって荷物だってやりとり出来るから、なんとかなるよ」


 出立の朝、フィルバートの頬を細い手がなでて、ハルフェンバック夫人は自分より大きくなった子の背中を抱きしめる。その様子に、急に涙目になった妹が兄に抱きついた。


「兄上、一緒にお家に帰らないの?」

「うん、ごめんね、ルイ。もう少し、お勉強で公王様の所にいるよ」

「ナージャとダヴィがたくさん魔法書買ってくれたから、お家に帰ったらちゃんとお勉強して、兄上に見せてあげるのに、一緒に帰らないの?」


 抱きついたまま見上げる妹の金の髪をなでて、フィルバートは抱き返す。


「ごめんね。今度お家に帰るときまでの楽しみにしているから、ちゃんと勉強するんだよ?」

「クラウスと競争して、たくさんパズルも解くよ?」

 

 兄は本当に自分達と一緒に家に帰るわけではない事を理解して、ルドヴィカはぽろぽろを涙をこぼした。

 ごめんね、と何度か頭をなでて、フィルバートはふと周囲を見渡す。


「クラウスは?」

「すねちゃって、寝室から出てこないの。貴方が一緒に国に戻らないのが嫌なのと、ナザールさんとお別れなのも悲しいみたいで。今、ナザールさんにお話しに行ってもらってるわ」




「クラウスー。いつまですねてるんだよ? 俺そろそろ出発するよ?」


 寝室のベッドの上がこんもりと膨らんでいる。

 すこし、滑稽な隠れように、ナザールはくすりと笑みをこぼした。


「あーあ、国に帰ったら、俺、クラウスとルイにお手紙書くのになー」


 ちらり、と毛布の隙間から緑碧の瞳がのぞく。

 気がつかない振りをしながら、さらに呟く。


「一緒に図書館で調べた魔法書と同じ内容の本を買ったから、勉強して魔法の仕掛け手紙とか送るけどなー。クラウスがお返事書いてくれるの、俺すっげー楽しみにしてるんだけどなぁ」

「・・・ナージャ、お手紙書いてくれるの?」


 すぽん、と毛布から顔を出して、クラウスはようやくナザールに姿を見せる。

 その頭をぐりぐりとなでて、ナザールは胸を張った。


「もちろんよ。ちゃんとお家で勉強してるのがわかるように、時々お題を出しちゃうよ?」

「僕、お返事書く」

「兄上にも見せてあげられるからな?」

「うん。ナージャ、兄上の面倒見てあげてね。時々、あぶないことするから、その時は、叱ってね?」


 弟にまで心配されてら。

 しっかり者の素質十分の言葉に、ナザールは任せておけと破顔した。

 


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「疲れた・・・・・」

「さっきからそればっかりですね」


 馬車の窓から見える景色を見ながら、だらけている姿に、フィルバートは眉をひそめた。


「フィルは、なんだかんだもめ事起こしたが、結局家族と休暇を満喫していたじゃないか」

「はあ・・まぁ、そうですかね」

「ナザールは、それこそ充実した視察だったようだな?」


 じとーっとした目で見ると、まったく効いていない明るい声が返ってきた。


「まーねー。じっ様に頼まれた本も魔法の道具も買えたし。俺用の本も買えたし、博物館も図書館も良かったし。工房も充実していたし」

 

 なにやら、一番の満喫ぶりを見せつけられ、釈然としないスフィルカールである。


「あーあ、この旅で良いことと言ったらフィルの母御と弟妹に会えたくらいだ」


 一番窮屈で、一番面倒くさい目にあったと、後頭部を手で抱えて、足を伸ばす。


「クラウスには結局怖がられたままだったのが、少し悔やまれる」

「どうしてそんなにクラウスに懐かれようと頑張ったんですか?」


 なんどか、クラウスの気を引こうと頑張ってみたのだが悉く不発に終り、大体兄かナザールの後ろに隠れられて終わったのであった。


「・・・ナージャに負けた気がするのが悔しい」

「何だよそれ」

「ナージャが無条件で懐かれたのが羨ましかっただけじゃないですか」


 言い返す言葉も無く、ぐぬぬとふてくされた。

 それはそうと、ナザールはすこし羨ましそうに嘆息する。


「あーでも、お前ん家いいなぁ。美人の母ちゃんと、可愛い弟妹。いつか、ハルフェンバック領にも行ってみたいな」

「それは、是非」

「確かに、フィルの御母堂はお美しかったねぇ。俺、好み」


 急に割り込んできたリュスラーンのセリフに、少年達は一様に微妙な表情を見せる。


「リュス・・・」

「リュス様・・・・」

「リュス様が言うと、ちょっと気持ち悪い」

 

彼らの反応に、リュスラーンはちょっとまってよと抗議の声を上げた。


「えー? 俺、ダメ? フィルのお父さん候補」

「絶対、嫌です」


大変素っ気ない断り文句に、摂政閣下はあえなく撃沈した。












 





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