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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
4.亡国の王族
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4-04



 フィルバートは、滞在中は公館内の部屋で家族と共に過ごすと言うことになっていた。

 部屋、といってもリビングに寝室や湯殿等、家族での長期滞在に適した、豪奢な作りの部屋である。

 そこの滞在費用はハルフェンバック子爵家から支出がされるとのことである。

 子爵とは言え、公爵家の分家筋でそこらの伯爵よりは・・・らしい。


 ハルフェンバック夫人とフィルバートの弟妹が是非にスフィルカールにご挨拶したい、ということでフィルバートを部屋に送り届けるついでに会えることになった。


「申し訳ございません。本来でしたら、こちらから出向くべきところ、公王殿下にご足労頂きまして恐縮にございます」

「いや、幼き子供もおられると聞いて、その方が良いと思ったのだ。気にしないで欲しい」


 東方公国では王妃付き女官長であるというハルフェンバック夫人の優雅な所作に、スフィルカールは少し緊張した。


「フィルバートは、殿下にご迷惑をおかけしておりませんでしょうか?」

「いや、私の方こそ、彼にはいろいろと助けられている」


 草原の部族長と公爵家の血を受け継ぐ女性は、少しだけ東方国人とは印象が違うが、黒い艶やかな髪と、黒瞳の垂れ目が柔和な印象を与える、美しい女性であった。

 使用人以外の女性、つまり騎士や貴族の夫人や令嬢と会う機会がほとんど無いスフィルカールにとって、どうしたら良いか戸惑う相手である。

 

「ほんとに、まだまだ子供でやんちゃなものですから少し不安ですわ」

「母上・・・」

「頭より先に体が動くタイプでしょう? 考え無しに何かやらかしていないかと」

「母上・・・・」

「いつまでも草原で馬と一緒に走り回ってばかりで、帝国騎士としてのお行儀も十分身についていないのではと思って気を揉んでおりますのよ」

「母上、お願いですから、その程度にしてくださいませんか?」


 大変決まりの悪そうな態度は、普段とは全く違ってしおらしい。

 母親を前にすると、こういう感じになるのか、とスフィルカールは無表情を決め込んだ顔の内側でおもわずにやつくのを我慢した。


「クラウスやルドヴィカは?」

「あら、そうね。二人にもご挨拶を」


 そこで、一度別室にいる子供達を呼んでくると言う。

 気をそらすことに成功した、とホッと息をつくフィルバートに、ナザールとスフィルカールはにやにやとささやいた。


「母御の心配は見事的中、と言うところか」

「ご名答、結構やらかしてます☆って言いそうになった」

「やめてください・・・」


 耳まで赤くなるフィルバートをもう少し揶揄ってやろうと思っていると、残念ながら扉の開く音が聞こえてきた。


 扉の前に、小さな子供が二人母親の前に立っている。

 金色の髪

 緑碧色の瞳

 母親に造作がそっくりで、垂れ目がかわいらしい。

 

「ほら、二人とも、ご挨拶・・・っ」

「兄上!」

「兄上ーーー!!」


 母親が礼儀を促す前に、小さな姿がフィルバートめがけて突進してくる。


「こ、こらっ」

「酷いです!」

「急に、よその国に行ってしまうなんて酷い!!」


 フィルバートにぎゅっとしがみつき、再会の言葉は批難から始まる。

 礼を失した行動に、フィルバートがとがめようとするのをスフィルカールは制した。


「まぁ、いきなり一年の間不在にしてしまったのだ。それをまず詫びよ」

「・・すみません」


 それぞれの体を抱きしめてやり、頭をなでる。

 少し、落ち着いたところで二人にスフィルカールへの挨拶を促した。


「クラウス、ルドヴィカ、いきなり他所の国に行ってしまってごめんね。今この方のところで勉強しているんだ。ご挨拶して欲しいな」

「・・・こうおうさま?」

「そう、公王様だよ」


 まっすぐな髪質の金髪に緑碧の宝石のような瞳でじいと見上げて、まず小さな淑女がお辞儀をする。

「ルドヴィカ・ハルフェンバックです。公王殿下には、ごきげんうるわしく」

「うむ、ありがとう。スフィルカールだ」

 きらきらしい、という表現が当てはまる挨拶に思わず自分の顔が緩むのがわかる。


 一方、少し緩く波打つ髪が額にかかる男児は兄の後ろに隠れた。隠れる弟の体をすこし前に出して、兄がなんとか挨拶をさせようとたしなめる。

「すみません、ちょっと人見知りなので・・。クラウス、ちゃんとご挨拶しよう?」

「・・・クラウス・ハルフェンバック・・です」


 そこまでが限界だったのか。

 また兄の背後に回って背中に顔を埋める。


「よろしくな、クラウス」

「・・・」


 そう、声だけかけると、兄の後ろから少しだけこちらを見上げて、また顔を隠した。


「それに、クラウス、ルドヴィカ、こっちのお兄ちゃんは、私と一緒に勉強しているんだよ」

 ナザールにも紹介したいらしいフィルバートの声に、小さな弟妹は金髪碧眼の少年に目を向けた。


「ルドヴィカです」

「うん、ナザールって言うんだ。ナージャで良いよ」

「ナージャね。ルイで良いよ」

「ナージャお兄ちゃん、っていいなさい。ルイ」

「いいよ、いいよ。で、クラウスね、俺はナージャ」

「ナージャ・・・」


 すこし、腰を落としたナザールの顔をじいと見上げ、クラウスはその緑碧の瞳を少しも動かさず、ちいさくちいさく、声を震わせた。


「・・・魔法使いなの?」

「あれ、さすがにわかるみたいだな」

「この子は少しそういうのが敏感なので・・。そうだよ、ナージャは魔術師の勉強をしているんだよ」


 兄の言葉をあまり聞いていないのか、驚愕に眼を丸くする弟は、急に動き出す。


「僕と同じだ・・!」

「お・・」

「クラウスっ」


 ナザールの腰にぎゅうと抱きついてきたクラウス少年にすこしナザールはたじろく

「あら、クラウスがいきなり懐くなんて」

「魔法使いのお兄ちゃんが珍しいのかも・・」


 母と兄が不思議そうにナザールとクラウスを見比べている。


「・・・人見知りって言ってなかったか?」


 なんだか、釈然としない。

 スフィルカールは、この日ナザールに完敗を喫した。

















 





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