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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
4.亡国の王族
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4-02


「それ、聞いちゃうんだ?」


 リュスラーンの笑顔に少しだけいつもと違う色が見えた。

 フィルバートは少し腰を浮かせる。

 その服の裾を、スフィルカールはしっかと握りしめ、座らせた。


「リュス、知っているなら話せ。所謂"予言"以外に理由があるのか?」

「・・もう少し経ってから言うべきだと思っていたんだけど。それに俺としてはまずはカールだけに説明する方が良いかなと思っているんだけど」


 困惑の色が強くなってくるリュスラーンの顔に、不遜な表情でスフィルカールは顎をそらした。


「いや、ここで構わぬ」

「ええと、私は・・・」

「お前もだ。フィル」


 不幸にも、他領国の王族の背後事情に首を突っ込まざるを得なくなってしまった東方公国の騎士にすこしばかり同情の視線を送って、リュスラーンは覚悟を決めたらしい。


「そうかい? じゃあ話すけど。カールのお母上は、帝国の北方、北海領国の御血筋なんだ。皇帝が北海王国を攻め滅ぼしたときに、そこの王女だった彼女は皇帝の側室として召された」

「・・カールって北部地域の御血筋なんですね」

「じゃあなんであんなに寒がりなのさ」

「今はどうでも良いだろう、リュス、続けよ」


 少しだけ入った茶々をおさめて、先を促す。


「北海域については、皇帝も手を焼いてね。かなりの抵抗勢力だったそうだし、側室といっても態の良い人質だね。皇帝も、ほどほどに扱うことにして大分警戒していたみたい。なんだけど・・まぁ、そりゃお渡りがあれば子供が出来る可能性はあるわけで」

「面倒な筋の女だからあんまり乗り気じゃなかったけど、やることやったらウッカリ当たったってこと?」


 空気の読めない飛び道具を放ったナザールのせいで、その場の雰囲気が一気におかしくなる。


「ナージャ・・・言い方」

 フィルバートは、あまりの品のなさに呆れ。


「当たったとか言うな」

 特等の景品みたいな存在にされてしまったスフィルカールは嫌そうな顔を見せる。


「どこで覚えてくるの、そんな言い方」

 今までの教育は一体、と聞きたげなリュスラーンの横目に、シヴァは肩の力を落とした。

"病院に入院している野郎どもだな"


「・・まぁ、そんなわけで」


 すこし、気を取り直したリュスラーンは手元のカップを少しもてあそぶ。


「皇帝にとっては、カールと北海域との関わりを絶つことが最も重要な事だったみたい。生まれてすぐにお母上から引き離されて皇帝派の貴族出身の乳母が養育しているし。予言云々と呪いは、ダメ押しみたいなもんだよ。で、3歳にして監視役の摂政をつけて北海域と一番離れているここの公王として封じた」

「は?監視役の摂政?・・・ってリュス様ん家、皇帝派の貴族なの?」


 ナザールの反応は、実に正直だ。

 自分より雄弁に語ってくれる表情につられてスフィルカールも目を見張る。

 帝都ではそう言う事になってるよ、と事もなげにリュスラーンは返した。


「カールの乳母は俺の姉だし。そんなわけで、生まれたときから手を焼かされていますよ、この王子には」

「・・・リュス様ん家ってちょっと複雑なの?」

「まぁ、皇帝派といっても一枚岩ではないし。第一、俺も父も"予言"が皇帝にばれたら命がないどころかお家諸共お取りつぶし確定だしね。・・・ちゃんと監視役としての定期連絡は欠かしていませんよ?嘘は付かないけど、本当のことは言ってないだけで。ちょくちょく帝都にも行くし」

「狸だなぁ」


 ナザールの感想を最後に、必要な説明を終えてリュスラーンは吐き出した安堵感からか、力の抜けたような声色になっている。


「俺も命は惜しいしね。まぁ・・・皇帝からしてみれば。カールは自分の息子以前に、自分に敵する"亡国の王孫"なんだと思うよ」


 亡国の王孫

 亡国の王女


 なるほど、皇帝にとって面倒な勢力を互いに牽制させる目的か。

 スフィルカールは、未だ見たことのない父の思惑に触れたような気がして、久々に黒い感情が胃の奥をぐるりと運るのを感じる。



"お見合い、といっても何処で行うのだ?"

「あぁ、どっちかの公都より第三国というか、地域の方が良いだろうって事でね」


 シヴァの問いに、リュスラーンが挙げた都市は、ラウストリーチと東方公国の境界に位置する港湾都市だ。中立都市として、何処の勢力にも加担しないことを宣言している。

 そこに双方から使節をおくることになるだろうと言うことだ。


「で、折角だから、フィルは御家族と会えば良いよ。ハルフェンバック夫人に、君を連れて行くから良かったら弟妹さんと一緒に都合をつけて来て欲しいって言ってみる」

「良いんですか!?」


 高い声。

 よほど嬉しいらしい。


 一年ぶりに会えると聞いて、フィルバートの表情が少し明るくなる。

 しかし、その後のつぶやきに、スフィルカールは急に不安を覚えた。



「家族に会えるのは良いけど。・・・殿下はなぁ・・・」











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