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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
4.亡国の王族
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4-01



 ラウストリーチにも、それなりに冬が来る。

 帝都ほどの厳しさはないが、降り積もる雪に閉じ込められたような気分を味わう季節である。

 フィルバートは、草原とは違う冬の景色が珍しいらしく、馬やウルカで遠乗りに行きたがり、その度にこれ幸いとリュスラーンやフェルナンドに促され、スフィルカールも何故か遠乗りをさせられることが増えた。

 どうも、フィルバートに付き合わされることでスフィルカールの体力が以前に比べてかなり付いていることが、幼いころからの側近達の眼には良い傾向とうつっているらしい。

 以前であれば、寒いから嫌だの一言で済んでいたが、降雪のあった翌朝などにフィルバートのきらきらした好奇心に満ちた顔で「外に行きましょう、ナージャの練習にもなるし」とやられると、しょうがない付き合ってやるかとなるわけである。顔の良い奴は、本当にどうしようもない。

 学問や剣術などの修行もそれなりに順調で、剣術はまぁ置いておいて、少しづつではあるがリュスラーンからいくつかの業務を任されるようになってきた。関心があることからやるのが良いねと言うことで、国内の孤児事情や魔法使いに関する情報を集約しているところである。

 魔法使い、と言えば。

 ナザールは少し思う所があったのか、定期的に孤児院で子供達に勉強を教えることにした。孤児のころから、彼らのまとめ役として簡単な読み書き計算は教えていたが、さらにもう少し、ということで読み書き計算に加えて、文学や、魔法使いの子供で希望する者に簡単な基礎魔術を月に数回教えている。"知っていたら避けられたかも、という事がある"ことを理解した時に、ナザールには自分と同じ境遇の子供にも何か出来ることはないかと考え、シヴァとオズワルドに相談した結果、この形になった。ちなみに、ナザールが孤児院に行くときはフィルバートやスフィルカールもついて行き、手伝っている。

 教える、ということはこれはこれでなかなか難しい。相手が理解するように説明するのがこんなに骨の折れる作業なのかと、スフィルカールに自分で学ぶ以上の工夫の必要性を認識させた。孤児院に行く前には、三人で当日の内容を事前に確認し、とくに説明が難しいところについて共有する事が自然と行われるようになった。


 そんな冬を越し、新たな季節が巡ってくる。

 特に事件もなく、時々ちょっとした悪ふざけでシヴァとリュスラーンに叱られながら、三人はそれぞれのやるべき事に邁進する日々を送っていた。


 そうして、スフィルカールが16歳を迎え、三人が最初に出会った頃と同じ季節が来るころに、今までなら絶対に無かったであろう話が舞い込んできたのである。



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「え、何々。カール結婚すんの?」

「馬鹿。飛躍しすぎだ」


 やけににやついた表情のナザールに反して、スフィルカールは苦虫を何匹かかみつぶしてもかみつぶしきれないような顔になる。


「まぁ、とりあえず、お見合い、だね」

「お相手って、王女様だろ? おーじょさま」

「そうそう、お隣、東方公国の王女殿下」


 やや浮ついた様子のナザールをリュスラーンが薄ら笑いでたきつける。

 王女殿下、という言葉に、何故かフィルバートの顔が少し引きつる。


「い、イライーダ様ですか?」

「そう。知ってるよね? 君、"王女殿下の幼なじみ"に分類されているでしょ?」


 まぁ、一応。

 ほんの一瞬の表情のゆがみに、スフィルカールは引っかかりを覚えるが、とくにそれ以上何かを言うつもりはなかった。


 "王女殿下の幼なじみ"ということは幼少時から面識があるということか。

 そうなると、"父親つながり"だろうな。

 すぐに、どういう素性の王女かが理解できた。


「ルドルフ王の遺児、ということか」

「まぁね。正直言ってもいい? フィル君」

「・・・はい。そのご様子だとかなり事情はご存じなんですね」


 なんとも言えない表情のフィルバートをよそに、リュスラーンはなぜかニコニコ顔である。


「これまた、かなりやっかいな王女様なんだなぁ」

「どういうこと?」


 ナザールが首をかしげ、フィルバートは視線を遠くに飛ばしている。


「ルドルフ前国王の遺児、ってことであちらでは旧国の復興を目指す一派、端的に言えば反帝国派の貴族達にとって象徴なわけだ」

「帝国としてはあまり望ましい勢力ではないわけだな」

「そう。それに王女自身も筋金入りの帝国嫌いと来ている」


 そこまでわかっていて、どうしてそんなに顔が笑っているのか。

 リュスラーンにじとりとした視線を送っても、相手は相変わらず腹の奥が読めない笑顔を見せている。


「東方王国が帝国入りしたときに、王女は帝都に送って皇帝の養女にする話もあったみたいだけど、君たちと同じ歳だから8歳か。国許から離すにはちょっと幼すぎるという事で見送られた。まぁ、成長したら皇帝の側室とするかなんて案もあったみたいだけど、年齢的にいくら何でもな話だからね。それは即無しってことになったみたい」

「で、適当な王子と娶せろって事になったのか」


 どうやら皇帝からの指示らしい、ということが理解出来て、すこし飽きてきたスフィルカールはやれやれと手元の書類を軽く整える。


「まぁね。東方領の貴族に降嫁させるには背後勢力がやっかいすぎるし、帝都内の貴族に嫁がせるのも、家格や年齢でちょうど良い感じの受入先がない。で、16歳でそろそろ良いお年頃だし、辺境の公王で帝位継承権なんて有名無実だし、なんだかんだで暫く死にそうもない、ということでウチの王子に白羽の矢が当たってると言うことなんだ。まぁ、なんかのついでに寝所で寝首でもかいてくれんかなーとか思ってるかも知れないけど」

"リュス・・・言い方"


 さすがにその手の冗談はまだ早い、とシヴァがとがめた。

 しまった、と後頭部を叩きつつも、まったく悪気がなさそうなリュスラーンは、一応本人に意向を確認する。


「・・と、言うことなんだけど?」

「断る、と言えるものなら、お前が帝都に出向き、皇帝にそう述べよ」


 スフィルカールの諦めを、リュスラーンは承諾と受け取る。

「物わかりが良くて助かるよ。じゃ、相手方と日程を調整するからね」

「あのさぁ、前から思ってたけど」


 ナザールは、ここで急に今まで感じていた疑問をぶつけた。


「なんでカールって親父さんにそこまで嫌われてんの?生まれたばかりのガキを呪い殺そうって普通じゃないよね。・・・俺からするとすっげー臆病者に思えるけど」


 リュスラーンは、まだ笑顔のままだった。


「それ、聞いちゃうんだ?」







 




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