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「洒落になっていないね」
その一言は、フェルナンドの恐縮を最大限に引き上げた。
「申し訳ございません」
「まぁ・・・結果問題ないから、とりあえず、良しとするけど」
これ以上無い程度の冷たい響きに、フェルナンドは何も言い返せなかった。
「頼りにしているんだから、頼むよ。"筆頭騎士殿"」
「はい・・・」
で、とリュスラーンは別の件が気になっているようである。
「・・・フィル君がやったんだって?」
「はい、最も先に殿下の元にたどり着くのが早いと判断しましたので、私がそのように指示いたしました。帝国属とはいえ、他領の騎士にそのようなことを求めるのは筋違いだとは重々承知しております」
「いや、その判断を俺は支持する。・・俺でも、同じ事を言うだろうから、それについては異を挟むつもりはない」
リュスラーンは、執務室の机の上で付いた腕の顎をのせて、微笑む。
「彼は・・・・どうだった?」
「私見でよろしいので?」
「勿論。君の意見が聞きたいんだけど?」
帝国騎士の中でも、最も"らしい"と言える男の見解を摂政は求めた。
「歳の割には、手際が良すぎますな」
「そう? 根拠は?」
その言葉に、先日の状況を思い出しながら、一つ一つ、確認しつつ言葉を選ぶ。
「剣を使わずに、一切の躊躇無く子供の首の根を折り、即死せしめておりました。それを可能にする胆力と技術、そして、"剣でない方が良い"と、瞬時に判断出来る程度には"場数"を踏んでいるのでないかと」
「・・・なるほど」
あまり驚いていない響きに、フェルナンドはすこし詰め寄る。
「リュス様?」
「・・・東方公国の騎士って、結構荒っぽいからね」
視線を合わせることなく、リュスラーンは淡々と事実を述べる。
「サミュエル・ランドという男は、もとは男爵だ。・・・二十年程前の東方王国の南部地方の戦線での戦功をもとに"伯爵"の叙勲を受けている。あの国では一番の"荒くれ者の親玉"だよ。そして、多分だけど、その勲功には、フィルの父親が絡んでいる」
「草原南部の部族と、さらに南部の砂漠の民との国境争いの英雄ですか」
「そう、フィルは彼の"元見習い騎士"だ。いまでも東方公国の南部地方は緊張感があるし、あの辺りの戦線はランド伯が責任者だ。下手をすると俺達より従軍経験があるかもね」
なるほど
額を打ったフェルナンドに、リュスラーンは礼を述べた。
「ありがとう。聞きたいことは聞いたし。下がって良いよ」
「承知しました」
騎士らしい所作でフェルナンドが退室する。
扉が閉まったその後に。
リュスラーンは、机に肘をついたまま、顎をそらす。
「ふーん・・・・・・」