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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
3."主"の視察
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3-13



 ようやく、領主らしい仕事を終えた"リヒテルヴァルト侯爵"は公都への帰路についた。

 家令をはじめ、屋敷の使用人達に滞在中の謝意と今後もよろしくとの言葉をかけて、侯爵は馬車に乗り、護衛の騎士と共に、領都を後にした。


「・・・なにゆえ、私も馬車なのだ?」

「うん、お前はもうちーっと自覚しような?」


 ここ数日で、眦をつり上げることを覚えたナザールの冷たい声に、スフィルカールはあわてて口を閉じた。


 当然のように、街道を馬上から眺めながら帰るつもりでいたスフィルカールであるが、シヴァとフェルナンドに先んじたナザールとフィルバートの「馬車に乗るよな?(乗りますよね?)」という冷たい確認の前に、おとなしく引き下がり、馬車での旅を選んでいる。


「結局、あれから熱出したじゃん。馬鹿なの?お前。俺、一応病院とか手伝ってて医療系魔術も扱うんだから、ちゃんと言うこと聞いて?」

 シヴァだけに頼り切りも良くないと、ある程度はナザールが診ることになり、スフィルカールの看護役としては最も質が悪い事になっている。


「こればかりはナージャの言うことを聞くんだな」


 まったく同情してくれないウルカの冴え冴えとした言葉に、面目なくスフィルカールは窓の外を見るしかない。


"まぁ・・・そうなんだけど"


 シヴァの書く文字が、するすると流れてきた。


"以前と比べたら、随分強くなったなぁと"

「強くなった? どういう意味で?」


 向かい側に座るシヴァに尋ねると、少しためらった後にゆっくりと文字が綴られる。

"正直、ちょっと拙いなと思ったのだが。実際それなりに消耗してはいたが、「喰われて」はいなかった。・・・闇の力に対抗できる様になってきたかなと思って"

「それは、吾も思った。"あれ"に連れて行かれて、内側が消耗したくらいで済んだのが不思議だ」

 ウルカも、頷いたまでは良いが、その後に続くセリフは、なんだか微妙なものであった。


「いろんな物が混ざっていてそれなりの力があった。・・・・腹ばかり膨れて後味はあまり良くなかったが」

「ウルカ・・・俺、大分"それ"慣れてるけど、一応気をつけて」


 スフィルカールは窓の外の様子を眺めて、ぽつりと呟く。

「・・・後味はあまり良くない、尤もかもな」

"そうだな。あまり、スッキリはしないな"


 シヴァの向けた顔の先には、一人で馬を進める見習い騎士の姿があった。


"あとは、筆頭騎士殿フェルナンドにお任せしよう"



---------------------------------------------------------


「ハルフェンバック卿」


 前を進む護衛騎士が肩越しにこちらを呼ぶのに気がついて、フィルバートは隣まで馬を進めた。


「はい、ミラー卿、御用でしょうか?」

「・・・すこし、酷な役目を負わせたな」


 ぼそぼそと、お互いにしか聞こえない声で騎士がそう呟くと、フィルバートは首を振った。


「いえ、わたしが至らなかったのですから」

「・・・私は、魔法使いなんだ」


 突然の告白に、え?と隣の騎士の屈強な体躯を一通り見る。

 とても、魔法使いらしいとは言えない。

 片方の指先で、そっと唇を押さえ、フェルナンドは他言無用を願った。


「ほとんどの者は知らぬ。シヴァ様はごまかせないがな。・・・魔力らしい力も無く、爪に火を灯す事すらできぬ。そういう"体質"でしかないのだ。わたしがあの子供を見かけたとしても、きっと気がつかなかっただろう」


 だから、と騎士は続けた。


「貴殿の恐怖が、私にもわかった。・・・・それとは別に、"魔術の使えぬ魔法使い"であることを家族に誹られる恐怖も思い出してしまったよ」


 私の家族は、皆魔術師でね、と彼は続けた。


「両親に兄弟・・・すべて帝国に仕える魔術師や治療師だ。わたしはその中で唯一、両親が求める力を得ないで生まれてしまった。・・・あの家では、"力のある魔法使い"であることが最も重要なことでね。わたしは、何をやっても、落胆しか父母に与えてこなかったのだよ」


 だから、まったく別の力を得ようと思ったのだという。


「帝国の騎士として、誰からも疑いを挟まれぬ技術と力と矜持を持ち得たと思ったが、あの家で私の居場所はなかった・・・。リュスラーン様から、第四王子の騎士としてラウストリーチへ来ぬかと言われたのはその頃だ。それ以降、わたしは誠心誠意、この国と、カール様にお仕えしている。そう思っている」


 そこで、いつもの固い口元が少しだけ、フィルバートに笑みを見せた。


「・・・貴殿が、わたしの代わりに、わたしのやるべき事をやった。そう思って欲しい。・・・使えもしない力に震えて、出来る事から目を背けることはない」


 騎士の瞳は、公都に続く道をまっすぐに見つめていた。


「貴殿は、実に見事に剣を振るう。・・・君ほど身軽で、鮮やかな騎士を私は見たことがない。貴殿には他の誰にも出来ないことがあるではないか。・・・父御や弟妹には絶対にたどり着けない所へいける素質を持っていることを肝に銘じよ。魔法使いなど、クソ食らえだ」


 言い切った台詞に、フィルバートはくすっと思わず吹き出す。


「はい。ご教授感謝いたします」

「・・・そうだな、城に戻ったら、揉んでやるか」


 そのセリフには、しばらく意識が遠のき、なんとか返事を絞り出す。


「・・・・はい、宜しくお願いします」



 ねちっこく、いつも半殺しの目に遭うリュスラーンの剣もさることながら、この騎士も大概なのだ。



 ・・・一発打撃食らったら即死しそうなんだよなぁ・・・



 一振りの重みがとんでもない騎士の腕の太さを横目に、フィルバートは眼を細める。



 ・・・・・大人って、ムカつく。



 すべてにおいて、何年たっても敵いそうにない精神力と力を見せつけられて。

 フィルバートは悔しそうに唇を噛んだ








 







 

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