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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
3."主"の視察
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3-04



その日の夜に、フィルバートが昼間に見た事を話すと、シヴァは頤に触れながら暫く黙り込んでしまった。


食事の後、今日の視察の内容の報告をサロンで行っている所である。

しっかり馬の世話も行い、少年達だけで主人とは別室で食事を取り、業務報告と明日の確認と言うことで集まっている。サロンには、例の家令以外居ない。

ここ数日はとうとう観念したのか、フェルナンドはスフィルカールの行動に何もいわなくなっている。


「どういうことだ?」


 スフィルカールにはまだ理解が出来ていないようで、ナザールの顔とフィルバートの顔を交互に見つめる。


「多分、町の端っこってとこが一番酷い生活している連中が住んでいるんじゃないかってこと」

「親もいるのに?」


その疑問に、ナザールはうーんと唸りながら暫く考え、なんとかスフィルカールの理解が及ぶように言葉を選ぶ。


「ナナの親父みたいなのとかがゴロゴロいるかもってこと。ナナは孤児じゃないだろ?一応」

「・・・・そうか。子供を自分の財産のように処遇出来る者が居るということか」

「そういう奴もいるかもしれないけど。そもそも、親が貧乏ってことだよ。こういう家の子は孤児じゃないから、孤児院には来ないよ」

「ふむ」

「あのう・・・・シヴァ様がその地域を見に行かれては?」


 ようやく口を挟んだフェルナンドの意見に、ナザールは首を振った。


「今の師匠じゃぁ、まともに確認するのは無理だと思う。なにせ"御領主様"だもん。大体、今日見た街もえらく綺麗すぎたよ」

「領主が来るから、前もって街を綺麗に整備したってことか」

「あ、あれって整備されていたんですか。都市部って全部そういうもんだと思っていました」


 合点がいった表情のスフィルカールとは対照的な、素っ頓狂なフィルバートの言葉にナザールはやや呆れる。


「あれ、多分金持ちが人を雇って草を刈ったりして道の整備してる。公都だって、たまにお役人が来るタイミングで俺達かり出されてたもん。東方公国だってそうだろ?」

「都市部はいつも綺麗でしたけど。都市部に雑草は生えないんだと思っていました」

 フィルバートは不思議そうに首をかしげる。


「だって、草刈りなんて聞いたことないんですよ。草を刈るって、そんな果てしないことしてもしょうがないでしょう。第一、山羊と羊が美味しく食べてくれるのに」

「・・・草原と一緒にするな」

 スフィルカールは自分の眉根がどんどん寄っていくのを自覚する。


 あれ、とフィルバートは今日の疑問をふと思い出す。

「今日、馬に乗せてあげた子が言っていましたけど。どこの家にも馬がいるわけではないんですね」

「当たり前だろう。維持管理がどれほどかかると思うんだ」

「だって、遊牧地を山羊とか羊とかと一緒に移動するのに、馬がいないと話にならないでしょう?」

「・・・だから、草原と一緒にするな」

 額の溝を伸ばしながら、スフィルカールはなんとか言葉をひねり出す。


 フィルバートはどうにも合点がいかない様子だ。

「季節毎に遊牧地を移動しないで、どうやって家畜を育てるんでしょうか」

「だから、草原と一緒にするなと言っておろうがっ!!」


 大変間の良い突っ込みを入れたスフィルカールの隣で、ナザールは肩を落とした。

「うん・・・お前の方は草原育ちのお坊ちゃんだったな」

「ええい、もう今は草原の事はどうでも良いだろっ。話がずれているぞ」


 いい加減、話が変な方向にずれている。

 スフィルカールがたしなめたところで、周囲に妙な空気が流れていることに気がつく。


「・・・くくく」

"フェルナンド、笑いすぎだ"

「すみません・・。しかし家令殿も・・」

「・・・くく・・も、申し訳ございません」


 騎士と領主までならず家令までが、笑いをかみ殺して身もだえている。

 何かのツボに入った大人を放り、子供達は話を進めはじめた。


「私たちで行ってみよう。今日逢った子供らにすこし情報もらって」

「あー、そうだな」

「馬も置いていきましょう。武器も控えめにして」


 勝手に話を始める子供に、気を取り直したフェルナンドが慌てて割り込んだ。


「カール様、私達で調べますから、そのように危ないことはおやめください」

 

 しかし、スフィルカールが引く様子はない。


「暫く私はそなたの従者だが」

「子供だけで行った方が警戒されないよな」

「ミラー卿のように威圧感たっぷりの騎士に来られたら、大体の人は家に引っ込んでまともな情報得られませんよ」


 子供達の容赦ない言葉に、いかにもと言える屈強な容貌を持つ騎士は、ぐっと押し黙る。


「ミラー卿。今回は彼らにお任せするより他ございませんな」

 大きな体の騎士がちいさくなる様子を一瞥して、家令は肩をすくめた。


"君たちだけで街を見に行くのは良いが、あまり燥ぐな"


 すこし浮かれ気味の三人組を見て、急に不安になったのか。

 シヴァの指がせわしなく動き、文字を綴り始める。


"カール、いつも言っていることだが・・・"

「無理はせぬ」


"フィル、君は大体"

「動く前に一度ちゃんと考えます。」


"ナージャ"

「魔法の準備は怠らねーよ」



"・・・・よろしい、気をつけて行ってきなさい"



 いつも口を酸っぱくして言っている台詞を奪い取られ、シヴァはそれ以上言うことを見失った。






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