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「ぶははははははははは!!!」
「リュス、笑い事じゃない」
腹を押さえ大爆笑しているリュスラーンをウルカが不機嫌そうにたしなめた。
しかし、リュスラーンの笑いのツボにダイレクトヒットしたらしく、引き笑いをするほどに笑い転げ、しばらくおさまりそうもない。
「ぼやで済んだからよいようなものの」
「ひー、ごめん、ごめん・・・。だって、あいつら・・馬鹿すぎて・・・・笑える・・・くくっ」
"笑うな。此方はお前の不在で猫の手も借りたいほどの忙しさだったんだぞ。なのに余計な騒ぎを起こしおって"
それまで、無表情で黙りこみ、肘かけについた手で頭を支えていたシヴァがいらだたしげに指を動かす。
目の前に流れ込んできた文字の乱れように、普段冷静な相手のイラつき具合をみとめ、リュスラーンはさらに笑い転げた。
「だめだ、公都に帰ってきて最初の話題がこれって・・。笑うしかない・・」
"三人寄れば文殊の知恵というが、あいつらは三人揃っても碌なことをしでかさんな"
疲れ切った様子のシヴァに、リュスラーンはようやく笑いを抑えた。しかし、笑い過ぎて涙目になっている。
「いやぁ、もう・・・。俺、帝都でくそむかつく親父の相手ばっかりしてきたから、むしろ癒される・・」
「帝都は、どうだったんだ?」
ウルカの言葉に、リュスラーンはようやく気を持ちなおした。
シヴァの向かいで軽く脚を組み直す。
にっと見せた笑みにはいろいろと含みが見られた。
「"スフィルカールは息災か"って皇帝に聞かれたよ。今まで、一度もそんなこと聞いてきたことなかったのに」
"そうか"
「まぁ、呪いが解けてるのはどうせバレてんだろうからな。"お陰さまで元気です。最近じゃ遊んでばっかりですよ。そろそろ真面目に勉強してくれないと困るんですがね"って言っておいた。君の話は聞かれなかったよ。新たに侯爵を封じたくらいの情報くらいは掴んでるだろうけど、さすがに"シヴァ・リヒテルヴァルトは闇の魔術師か"なんて聞けないだろうしね」
"まぁ、そんなものだろうな"
それから、とリュスラーンは苦笑いを見せる。
「フィルの師匠に会ったよ。サミュエル・ランド伯爵。外務卿と一緒に来ていた」
「ほう、一度会ってみたいと言っていたじゃないか。よかったな」
「それがさぁ。・・・・外務卿に紹介された瞬間、すごい形相で詰め寄られたよ」
"フィルは国許の御母堂から頑張りなさいという手紙がきたと言っていたぞ。"
どういうことだと首をかしげるシヴァに、困ったようにリュスラーンは笑う。
「根掘り葉掘り。どのように生活していますかとか、何処に寝泊まりしていますか? まさか貴公の私邸ではありませんよね? とか」
「意味がわからぬ」
「毎日、うちの王子と一緒に勉強したり剣術の稽古に励んでいます。魔術師見習いの少年と相部屋で城に住んでいますっていったら、俺の目をじーーっと見て、本当ですねって念を押すんだ。フェルナンドにも同じことあれこれ聞いてたみたいだし。・・・・どうも、俺がフィルの事"剣術以外"のところで興味をもって引き取ったんじゃないかと危ぶんでいたらしいよ」
「・・・なるほど」
"・・・・・・・・そういう意味か。"
ふっとシヴァが笑みを見せる。