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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
2.聖なる魔術師と白い魔女
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2-2

「シヴァはまだ魔術師の会議が終わらんのか」

「しかたねぇよ、師匠はリュスの代わりでなんだかなんだ仕事して、他の師匠たちとの会議が後回しになってるんだから」

「さすがにリュス様が帝都にお出かけの間は、シヴァ様が摂政代行のような事になってしまいますね」

「リュスの奴、何ゆえ何かにつけシヴァに仕事を押し付けようとするのだ。あいつはもともと街の治療師だぞ」



 公国の政務は表向き摂政のリュスラーンが取り仕切っている。ここ数週間は公都に騎士のフェルナンド等数人を供に出かけており、不在だ。

 皇帝に嫌われているスフィルカールはともかく、公都で行われる行事にまったく顔を出さないのもまた不審がられるからと一年に一二度はリュスラーンは帝都に顔をだすようにしている。



「リュス様が、“あいつが、ただの治療師なわけないだろ”っておっしゃってたけど」

「俺も聞いた。師匠に“絶対、どこかで仕官したことあるだろ”って詰め寄ってたけど。記憶がないんじゃどうしようもないってんであしらわれてた。ありゃ、自分が楽したいから言ってるだけだな」

「まぁ・・・、今のところ問題なくやっているようだから良いが」



 シヴァは当面、摂政代行ということだが、もともとやる気のない男だけに、そうたいそうなことをやっているわけではない。

 政務会議に顔を出して、政務官が出す案に目を通し、リュスラーンが帰って来てから結論を出してもよいものを、ある程度緊急性があるものと分け、緊急性のある案件についてのみ他の政務官と議論をして意見を吸い上げ、まとめてからスフィルカールと共に最終的な決断を下す、という方法をとっている。さして自分の意見を通す方でも無いうえ、政務官達の意見をよく聞いてまとめているので、彼らの反感を買うことはないらしい。

 ただの治療師にしては手際の良い男だとは思うが、詮索しても仕方がないので、スフィルカールはさほど気にしていない。



「ちっくしょー。これ難しいな」

「・・ところで、お前は何をしているんだ? ナージャ」



 魔術書をめくりながらなにか紙に書き込んでいるナザールに近づき手元を覗き込む。

 同様にナザールの手元を見つめたフィルバートが高い声をあげた。



「あ、魔術師の暗号パズルだ。懐かしいなぁ」

「フィル、お前は知っているのか?」

「上の暗号文を解読して、下の魔法陣に書き込むんですよね? 正解したら正しい呪文が発動するって奴。昔、家でやってたな」

「なんでお前が暗号パズル解くんだよ」

「解くだけだったら、別に魔法使いじゃなくてもできるからって、幾つか問題集を解きましたよ。正解すると小さな花とか、上手くいくと小さな精霊が召喚出来たりするんですよね。正解かどうかは父が発動させて判定してくれたし。間違うと、プスっといって紙が消えちゃうから悔しかったなぁ」

「この間まではおもちゃみたいな暗号だったんだけど、最近急にレベルあがっちゃって。これ師匠と先生達が皆で作ったオリジナルみたいで、どの虎の巻見ても類似問題乗ってないし。先生達は“自分で解くのが面白いんだ”ってにやにや笑うだけで誰も教えてくんないしっ」



 ナザールの中では、シヴァが師匠で、他の宮廷魔術師は先生、という区別らしい。どうやら、宮廷魔術師全員でこの若い魔術師を育てようとしているようだ。



「へぇ・・」


 その紙をしばらく凝視して、スフィルカールは、ぱっと紙を奪いとる。

 ナザールは手を伸ばすが、するりとかわされた。


「わっ! なにすんだよ! あとちょっとなんだってば!」

「これって、適当に書いたらどうなるんだ?」


 そういうと、スフィルカールは自分のペンで魔法陣に適当な落書きを一つ入れた。


「馬鹿、やめろって」

「わたしも昔からも気になってたんですよね。書いちゃおうっと」



 悪乗りしたフィルバートもスフィルカールから紙をとり、ナザールの手をよけながら、またひとつ書きこんだ。

 そこで、紙を奪い返したナザールが、どん、と紙の上に手を乗せる。


「馬鹿っ。変なとこに変な用語書きこんだら、紙が消える失敗じゃ済まないんだって! これ、炎系の呪文なんだよ、変なとこでボヤ騒ぎとか出すわけにいかないだろー? もう、ちっとは考えろよ!」

「発動させずに処分して、新たに紙に書き直せばいいじゃないか」

「俺はそういうこと言ってるんじゃないんだよっ。まったくもー、魔方陣に手を乗せたら、簡単に発動し・・・」



 そこで、ナザールは自分の手元に目を移す。

 スフィルカールも、フィルバートも同様にナザールの手の下にあるものを見つめた。

 ペンで描かれた円が掌の下から見える。



「・・・・魔法陣だな」

「・・・・・魔方陣ですね」

「・・・・・・・・・」



 三人の間に、妙な沈黙が流れる。

 どこかで、悲鳴のような声が聞こえた。







「大変です! 厩で突然火がーーっ!!」







 馬丁の声が響く。



 三人の顔が、徐々に青くなり、悲鳴に近い声が同時に口から飛び出す。



「げええーーーーーーっ!?」

「ナージャーーっ!!」

「何してるんですかーーーっ!!」





 ナザールが慌てて手を魔方陣から放し、あたふたと三人が騒いでいる背後に、ぬっと影が差す。

 その影に、どきいっと三人が硬直し、おそるおそる振り向いた、



「・・・・」

「・・・・・」

「えーと、ウルカ・・?」




 三人を見下ろして、金の瞳がぎろりと睨む。




「妙なところで魔力が動いたからと見に来てみれば・・・・」






 ウルカの肩がふるふると震える。

 少年はがっくりと肩をおとし、頭を抱えた。





「お前たち、吾は知らんぞ・・・」








 その瞬間、三人はこれから起こりうる恐怖に凍りついた。





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