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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
1.呪われし王子と闇の魔術師
13/135

1-13


 街の奥へ奥へとすたすたと進んでいくスフィルカールをフィルバートは周囲を見回しながらおそるおそるついてゆく。


「カール様、どちらに行かれるんですか?」

「わたしが経営している病院と孤児院だ」

「こっそり城を抜け出して、御供の方も連れず、あとで叱られてしまいますが・・」

 その言葉に、スフィルカールはくるりと振り向いた。


「お前がいれば、それで十分だ。他はいらぬ」

 そのまま、無言で歩くスフィルカールの後を同じく無言でフィルバートも続く。

 しばらく進むと、籠を腕に抱えた鳶色の髪の少女と小さな少年の姿が現れた。


「あら・・? カール様?」

「カールだ! 久しぶりー。あれ?先生はぁ?」

 当たり前の様な呼び捨てに、少女の顔が焦る

「カール様って呼びなさいよ」

「いや、構わん。・・・シヴァは元気だが、今日は別の仕事が入っている。・・お前たちは? 不自由はないか?」

「ええ、元気です。・・・御供の騎士様は御一人だけ?」

「わたしと、彼だけだ」


 その返事に、さすがに少女は目を丸くする。

「いいの? 先生がよく許したわね」

「シヴァには黙ってきたから言うな。・・市場で買い物か?」

「うん。晩御飯に使う野菜がちょっと足りなくて」

「そうか、気を付けてな」

「じゃあねー、カール」

「だから、様つけなさいって言ってるでしょ」

 相変わらず屈託ない子供を軽くたしなめ、つづいてスフィルカールにうすく笑みを見せると、ナナはかるくフィルバートにも会釈をして先を進んでいく。


「孤児院と病院で働いている。料理が上手い」

「はあ・・」

「・・・さて、そろそろ着いた」


 入口がみえたので軽く駆け足で入る。

 その姿を見つけた少年が、庭先で明るい声をあげた。

「カール様だ。オズワルド先生ーーー、カール様来たよーーーー」

「おーう。なんでぇ、何しに来たんだぁ?」


 庭で、子供たちに囲まれていた医師が何時もの様子で片手を挙げる。

 スフィルカールは、オズワルドに近づくと周囲を見回す。

「ちょっと、ナザールに話があってきたんだ。・・あいつ、落ち着いたか?」

「まぁ、普通に仕事してる分にはな。シヴァの話はまだ振れねえ。先生どうしてるかな、なんてガキが言ってみろ。すごい顔で睨むから最近は子供もびくついて何もいわねぇよ」

「そうか」


 その時、痛いような視線を感じる。

 顔を向ければ、スフィルカールを凝視しているナザールの視線とぶつかった。

「ナザール」

「なんだよ、別にお前が来たってどうってことねえよ。ここはお前が金出してんだからよ。当然だよな」

「こら、お前はいつまでふてくされてんだ」

「別に。俺、出かけてくる」

「おいっ、何処に行くんだ!」


 するりと、視線を避け、ナザールが早い足取りで歩き出すのを、スフィルカールは追いかけた。

 施設を出て、路地をやみくもに歩いて行くのを必死で追いかける。

「待て、ナザール。まてったら!」

「なんだよ、なんでついてくるんだよ!」

「お前が話を聞かぬから、追いかけているんだ。わたしの話を聞けって!」

「“シヴァ”とかいう馬鹿の話なら聞かねぇよ!」

「あいつの話じゃない。こいつの話をしに来たんだ」

 ナザールは、足を止め、スフィルカールが指を指した先に立つフィルバートの顔を見て、はあ?と声をあげた。


「なんだよ、大体、誰だよ。こいつ」

「隣の国の騎士でフィルバートだ、8歳で父を事故で失ってから、剣で身を立てて、最近やっと騎士になった」

「なんだよ、お涙ちょうだい系?」

 面倒くさいと言いたげに、ナザールはさらにあてもなく歩き出そうとする。


 その腕を、スフィルカールはがしっと掴んだ。

「なんだよ、なんでそいつの身の上話聞かなきゃなんないわけ?」

「騎士になって、家督も継いだ。・・・次は、自分の弟妹を良い魔術師にしたいんだそうだ。良い師匠がいて、紹介してくれるなら、もしそれをわたしが約束したら、此処で働いても良い、そう言った」


 ぐいと引っ張るように力をいれたスフィルカールの腕を、ナザールは振りはらおうとする。

「だから、なんなんだよ!?」

「シヴァと一緒だと言っているんだ! あいつは、お前を魔術師にしたくて、わたしのところに来たんだぞ!?」


 その言葉に、ナザールの顔が硬直する。

「馬鹿な冗談や・・」

「本人に聞いていないから知らん。だが、それが一番の理由だとしか考えられぬ。・・金は稼ごうと思えば、どうにでもなる。わたしの援助など要らない。あいつは、最初からわたしの任官など、受ける気はさらさらなかった。だから、答えようのない質問をわたしに与えたんだ。だが、お前の顔を見て気が変わった。最後に、お前の顔を見て、あいつは気を変えたんだ」

 ナザールの腕を、スフィルカールはぐっと掴み直す。


「あの場所は、お前と、ウルカと、シヴァの三人で始まった。シヴァが最初に名をつけた孤児は、お前だ。それ以降は、誰の名も付けていない。自分が性質の良い魔術師じゃないと知っているから、お前の名づけは、きっとあいつにとっては一か八かの賭けだったんだ。ところが、闇の力が強いシヴァが名をつけても、お前はまったく影響されなかった。・・・・ナザールは聖なる力に恵まれている、自分では教えられない魔術もきっとモノにできる。あいつはそう言ったんだ。逆を返せば、“此処にいたら、何時までたっても真の力を発揮できない”ということだ、。シヴァが、自分を曲げてわたしのところに来たのは、自分で名を付けたたった一人のお前を、魔術師として大成させたいからに決まっているだろう!?」


 その言葉に、ナザールがどう思うかなど、たぶんスフィルカールにはどうでもよかったかもしれない。

 だが、落ち込んでいるシヴァの背中を、どうしてもこの少年には伝えなければと、それだけでもやらなければ。



 自分が、なんだかとても嫌な者に思えたからだった。



「だから、シヴァは、お前に拒絶されて落ち込んでいるんだ。・・・何のために、わたしに仕官したのかわからないからな」

「・・・・・」

 ナザールは、少しだけ口を震わせたあと、腕を振りほどく。

 すこし掴まれて痛むのか、片方の手で掴まれた腕をおさえ、そっぽをむいた。


「・・・なんだよ、それ。まるで、俺が師匠の事何も分かってないガキみたいな言い方するなよ」

「・・・ナザール」

「昨日今日会った奴に、言われたくねぇよ」

 その時、何処からか、少女の高い声が聞こえた。


「放して! 放してったら!!」

 その声に、ナザールとスフィルカールが顔を会わせる。

「ナナの声だ!」


 同時に二人の体が動く。フィルバートも後に続いた。

 声の聞こえた方向の路地へと飛び込むと、転がった野菜が転々とした先に、籠と、小さな少年が座りこんで泣いている。

 ナザールはその肩をゆすった。


「おいっ、どうした!?」

「なーじゃぁ、ナナが・・・」

「ナナが、どうしたんだ!?」

「知らない人に、連れて行かれた。ナナは嫌がっていたけど、引っ張ってあっちに連れて行かれたんだよっ!」


 子供が指をさした方向を見つめ、ナザールの顔が、蒼白になる。

「やばい、多分ナナの親父だ。あいつ、ナナのこと取り戻しにきやがったんだ・・!」


 その言葉に、スフィルカールとフィルバートはナザールに詰め寄る。

「何!?」

「え!? 父親!?」

「ナナの奴、親父が酒飲んでは暴れて、ナナの事殴るけるするから逃げ出してたんだ。やばいよ、あいつ。今度は殴られるじゃ済まないかも。どうしよう、もし売り飛ばされたりなんかしたら・・」

 おいっとスフィルカールはナザールの胸倉を掴んだ。

「売り飛すとはどういうことだ?」

「てて・・、ひっぱるなって。お、俺もそんなによくわかんないだけど。・・入院してるおっさん達の話しだと、ナナの親父、そうとう借金があるらしいって。・・っておいっ、何処行くんだよ!!」

「追いかける、決まってるだろ!?」

「ええ!!??」

 おもむろに駈け出した背中に、声をかけたナザールに、振り向く時間すら惜しい様子のスフィルカールがはき捨てるように言う。

 そのセリフにナザールもフィルバートも思わず腕をとって引き止める。


「カール様、危険ですっ!」

「追いかけるって、俺たちだけでどうするんだよっ。やばいって!! あいつの住んでる地区、まずい商売してる奴ら多いんだって。一回病院に戻って、師匠に連絡取ってもらおう。おいっ、カール、聞いてるのかよ!」

「それでは、間に合わない。わたしは一人で行くから、お前たちは病院に連絡にいけ」

 そういうと、腕を振り払い、スフィルカールは駈け出す。

 その後をまよわずフィルバートが追いかけた。


「カール様!! 待ってください!」

「って、おいっ・・・・おいっ、お前まで行くなよっ」


 しばし、助けを求めに病院に戻るか、スフィルカール達を追いかけるかで逡巡したナザールは頭をかきむしったあと、腹を決め二人の後を追い、走り始めた。




 「・・・もうっ、無茶言うなよっ!」




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