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10-04




 学期末の休暇ということで暫く東方王国の王都に戻っていた双子が帰ってきた。

 帰ってきたなり、衝撃的な情報を齎してくれる。


「フィルの婚約者だぁ?」

「ナージャ、ウルカも知らないの?」

「アリーヤって人。元々は砂漠の民の出身だけど、領地にある大店のお嬢さんらしいよ?」

「吾は一切知らぬが。ナージャ、何か聞いていないのか?」


 全く知らない。

 青天の霹靂。


 ぶんぶんと首を振り、どんな人だった?と聞くと、双子はそれぞれ顔を見合わせて印象を語る。


「なんだろう。・・可愛いし、格好良い?」

「睫がバッサバサで、目元がくっきりしていて、綺麗な切れ長の緑の瞳だよ。髪は薄めの亜麻色でふわふわしてた。で、ふわっとした可愛い声で穏やかにお話してくれるんだけど」

「僕のクラスメイトの女の子にはいない感じ」

「あたしの友達にもいないよ。・・・えっと、"女の子"って感じじゃ無いもの」


 双子も、衝撃の方が勝っているらしくまだ半信半疑の様子である。


「で、母上のところで女官の仕事を覚えるんだって。王城で働くらしいよ?」

「・・・兄上は追及を避けるつもりでさっさと国に戻っちゃったし、流石に本人には根掘り葉掘りなれそめとか聞けないから、ナージャ達に何か知らないか聞いてって、母上が言ってた」

「知るわけないだろ。俺もびっくりだよ」

「・・・ちょっと庭に出てくる・・・驚きすぎて龍に戻りそう・・・」

「え、まって、ウルカ。戻るなら目立たないところにして?」


 だからって奥方様・・俺に聞くなよ。


 と内心盛大にハルフェンバック夫人に反論するやら、龍に戻りそうなウルカを心配しなければならないやらで忙しい。

 クラウスは、でもさ、と感じた違和感を口にした。


「あの人、多分強いよね?」

「あたしもそう思う。魔術師って感じじゃ無いけど、魔力は結構あるよ」

「お・・・・そうなんだ」

「ただのお嬢様には見えないって母上が言ってた。・・けど、あのトンチキ確定の兄上が自分で連れてきたなら、よっぽど意識した相手なんだろうから大事にしないとって言っているよ。・・・ナージャ、トンチキってなぁに?」


 俺に聞くなよ。

 とは思うが、トンチキ確定(母親が言ってりゃ世話無いなとは思うが)には同意しきりなので一応教えておく。


「君達の兄貴、顔の割りに女に対してはまず鈍感だからな。縁遠そうって思われてるんだろ」

「あぁー・・・・・」

「兄上ならねぇ」

「それで納得されると、すこしフィルに同情するけど」


 そこでルドヴィカは少しだけため息をついた。


「で、元々ほとんど頼ってこない上に養子に行ってからめったなことでは連絡寄越さない兄上に今回頼られちゃったもんだから、母上がそりゃもうすっごく張り切っちゃって・・・。私が一流の貴婦人で女官に教育するから、どーんと任せて!って・・・あたしちょっとだけだけど、母上が怖いっと正直思っちゃった」

「なんだか好奇心でうずうずしてるのが手に取るように解ってさ。・・・母上って、結構こういうところあるよね。家の使用人とかの恋バナ?にも抑えている様で結構前のめりだしさ」

「うん・・・まぁ、奥方様の恋バナ好きはなんとなく解らんでもねぇよ・・・・」


 双子のやり取りを聞きながら、ナザールは徐々にニヤけるのが止まらなくなる。


「俺、次に国に戻ったらとりあえずフィルをふんじばっておく」


 かなりの"悪い顔"に、双子の期待はかなり高まった。


「うん、ちゃんといろいろ聞いておいてね」

「あたしも楽しみにしておく!」



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 ふと我に返ると、若干取り残されている感はなきにしもあらず、ではある。




「いや、カールと言いフィルと言い、なんだってあっさり決めちゃうんだろうねぇ」


 貴族や王族の結婚はよくわからない、とつくづく思う。

 先日まで、三人でつるんでじゃれているだけだった筈なのに。


 スフィルカールに関しては、ほぼほぼ政治的なメリットだけで決めてきている。

 フィルバートについては、相手がどうもただのお嬢様じゃないということから、そこにはリュスラーン並の打算も含まれているはずだろう。


 俺にはよくわかんないや。


 いろいろ衝撃的な情報をえた次の日である。

 今日はウルカを先に研究所に向かわせてナザールは少し図書館で調べ物をしてから行く事にしていた。


 図書館の片隅で本のページをめくる手を止めて一度息をつく。

 視界の端に、見覚えのある姿があった。

 たしか、クラウスの学級担任の魔術師である。

 どうやら、書架の上段にある本をとろうと必死になっているらしい。


「はい、先生。これで良いですか?」

「あ、ありがとうございます。・・・あら、ロズベルグさん」


 魔術師の指先が届くか届かないかの辺りにある本をさっと抜き取って渡すと、魔術師はそこでナザールに気がついた。


「資料調査ですか?」

「はい。先生も?」

「次の学期の準備もあって・・」


 一冊必要な本を借りて学校に行く途中なのだという。

 ナザールもそろそろ移動したいので、共に貸出手続きをして図書館を出る。

 途中までは同じ道のりなので、話をしながら並んで歩くことにした。


「学校のお休み期間中は、先生達もお休みというわけではないんですね」

「生徒は休みですが、私たちは寧ろ忙しいです。わたしは、やっと初任者研修が終わったばかりで、次の学期からは新人扱いではないので気を引き締めないと」

「と、言うことは。初任の期間中にクラウスが喧嘩騒ぎを起こしたって事ですか!?」

「子供達には、初任もベテランも関係ないですから」


 でも、ちょっとヒヤッとしたんです、と魔術師はすこし声を落とした。


「初任でいきなり戦争がらみの派閥争いみたいなことが担当クラスに起きていると、流石に指導力云々と言われそうな気はしたので・・」


 ですから、と彼女はナザールを見遣り、薄く笑った。


「ロズベルグさんがクラウス君からちゃんとお話聞き出してくださって、私にとっても助かったのです」

「あぁ・・いや、先生がクラウスの事ちゃんとみてて、クラウスの出したサインを俺に教えてくれたからだと思いますよ」


 助かったのはこちらも同じなんです、とナザールも魔術師に笑いかけた。


「言われるまで、俺も気がつかなくて。クラウスはしっかりしてるし、やらかすなら妹の方が先だって思い込んでたから。・・・しっかりしているからこそ、家の事で自分を追い込みやすいタイプだって、兄貴を見てたら少し想像しておくべきだったと、反省しています」

「子供達の指導って大変。自分の研究だけに没頭するのとは訳が違いますね」

「ええ、全く」


 そろそろ、研究所と学校への道が分かれる所で、研究所に続く道方向から見慣れた姿がこちらを見つけたのを確認する。


「ウルカ、どうしたの?」

「うむ。ちょっと急ぎの案件が出たから図書館に迎えに行こうと思っていたのだ」

「ロズベルグさん、私はこれで失礼しますね」


 魔術師の声に、ナザールは振り向き慌てて声をかける。


「はい、先生。次の学期も宜しくお願いします」


 魔術師は小さく手を振り、学校へと向かっていく。

 その背中をチラリと一瞥して、同じく研究所に向けて歩き出す。

 すこし足早に進むウルカに状況を尋ねる。


「何かあった?」

「うむ。最近治療が済んだ龍がいただろう?以前、密猟者に魔法をかけられていたという」

「あ、ああ」


 以前、人間に紛れて治療院にやってきた龍は、今ではすっかり能力も戻り、元の老成した龍らしい、若々しくも落ち着きのある風貌を取り戻している。

 何か、治療に欠点でもありそれが今頃出てきたのだろうかと、ドキリとするが、辺りを伺いながら慎重にウルカが続けた言葉はそうではなかった。


「他の龍から、情報を得たらしい。北方がまたすこし騒がしくなっているそうだ。避難場所を何処か検討したいと相談に来た」

「・・・・戦争?」

「わからないが。・・・所長の話では、どうやらラウストリーチ王国が動き出した、という情報が商家の間に広まっているらしい。今後、ラウストリーチ王国との商機を探ってアプローチを検討している商売人も出るだろうから、所長からは吾らは暫く一人で行動しないようにと釘を刺された。吾はともかく、ナージャのことを嗅ぎつけてくる者がいないとは限らない。同様に双子にも気をつけるようにとのことだ」

「学校内では、ラウストリーチに関係者がいることは知られているみたいだからな」

「治療院の院長にも一応言っておけとのことだ」



 カールの奴。

 決着を付けに来たか。



 ぞくっと背中に寒気を覚える。


 大丈夫。

 今、あいつは一人じゃ無い。

 師匠もいるし。

 フィルもいる。


 俺が出来る事は、ここで自分のやるべき事をやるだけだ。

 あと出来る事と言ったら・・。



「龍と精霊の最大の加護を。スフィルカール王に」




 小さく、本当に小さく。


 誰にも聞こえぬように、言霊を呟いた。







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