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10-02



 当面は、国内の体制を整えると共に、北海領域と旧帝国と何らかの決着を付けなければならない。


 とはいえ。


「そもそも、あちらが勝手に私を担ぎ上げているだけで、私が生きて国に戻ったからといって先方に連絡する必要は全く無いよな」

「放置する、ってことかい?」

「近日中に東方王国から他の諸国宛てに宣言文が発送されるだろうから、それをみて連絡を取ってきたら対応すれば良いでは無いか」


 シヴァと当面の対応を検討している中で、そう結論づけると、紛らわしいことこの上ない髪型の頭をそっとなでて、彼もそうだなぁと頷く。


「他所に構っている暇は正直無いからね」


 で、こんな忙しいときにフィルバートは何処に行ったの?という問いに、スフィルカールは東方王国に行ったと答える。


「何やら、火急の用件が発生したので御母堂に直接頼んでくると言って馬を飛ばして行ってしまったよ」

「護衛共々馬で行ったのかい?」

「そうみたいだ。フィルはともかく、彼奴の東方までの道中に馬で付き合える者がいるとは早々思えないんだが」

「はぁ、まぁ、居るんだろうね」


 何やら、知った風なシヴァのセリフに少し引っかかりを覚えるスフィルカールだが、彼はそれ以上詳しくは言わない。

 ただ、ちょっと待ってやりなさい、とだけ言われた。


「私もちゃんと知っているわけではないし、これはただの憶測だけど。リュスラーンと彼は違う、ってこと」


 少しわかったような、わからないような。

 ただ、なんだか最近とみに解りにくくなってはいても、フィルバートのそれとない様子から何か良いことがあったのだろう程度はわかる。

 まぁ、そのうち話をしてくれれば良いかと思い、その件についてはすぐに忘れてしまった。


 

 10日もしないうちにフィルバートはあっという間に要件を済ませて国に戻ってきた。

 実家に帰ったならもうすこしのんびりして母御に顔を見せてやれば良いのに、とスフィルカールがフィルバートの母を気の毒に思いながら言うと、あんまり家には居たくなくてと珍しいことを返される。


「あのまま家に居たら、全方位的に根掘り葉掘りやられるに決まっているので、とっとと退散してきました」

「・・どんな後ろめたいことをしでかしてきたんだ?」

「婚約者を預けるので、一流の女官として教育してくださいと」


 そこで、シヴァとスフィルカールの手から同時に書類が取り落とされた。

 思わずシヴァの顔を見ると、先日の話はそれでは無いと言いたいように首を振られる。


「は?」

「あ、すみません、貴方にはちゃんと許可を得ないといけない話ですね。あとで書面で報告しますのでご確認お願いします」

「じゃ、ない!! どういうことだ! 何処の誰だ!」


 仕事はとりあえず、置いておくしかない。

 シヴァとスフィルカールは詰め膝でフィルバートに事の次第を問い詰める。

 折角実家での詰問を避けたのに、とあまり詳しく話したくはなさそうだが、そう言うわけにはいかないという点でシヴァもスフィルカールも共闘しており、共同戦線をしくことで退路を絶つ。

 しぶしぶ、と行った様子でフィルバートも白状した。


「ええと、領地にある懇意にしている商家のお嬢さんで。優秀な方なので、ゆくゆくはカール付の女官にと思いまして」

「で、東方王国の大公妃付女官長に預けると。なんというか、また放胆なことを・・」

「母も驚きましたけど。まぁ、何れハーリヴェルの伯父や草原の爺様が誰か連れてくる前に先手を打つ気だというならそれで良いということで、任せろと請け合ってくださいましたよ。暫くは女官長付の侍女として仕事を覚えて、いずれは女官とすると。将来的には連合王国の王付きの女官として育成するという名目ですし、ラウストリーチの関係者として身元がしっかりしているなら受入可能とのことです。あちらも連合王国化の基盤整備を見込んで色々と人材育成を考えているようですね」


 フィルバートの母の肝っ玉ぶりが発揮されたことを確信しながら、親子揃って大胆過ぎるだろうとスフィルカールは言葉も出ない。

 シヴァは、別の方向で感慨深いようである。


「失礼ながら。君については多分相当縁遠いと思ってたから、自分で縁談をまとめてきたことに正直驚いている」

「母にも同じ事を言われました。まさか自分で連れてくるとは思わなかったと」

「だって・・・ねぇ、君兄上と一緒で、女性に関してはトンチキとしか言い様がないからね」

「・・・・叔父上?」

「フェルヴァンスでも草原でも、それなりに関心を持たれていたみたいだけど、悉く気がついていなかったし」

「・・・えっと、叔父上?」

「テムル殿もリーフェイも、あれでは幾ら顔が良くてもどうしようもないって呆れるし。草原の可汗ときたら、策を弄しても悉く失敗するから"彼奴の好みも分からぬ"と相当御機嫌斜めでね、剣術ばかりではなく、そちらの方もどうにかせよと、何故か私が叱られたんだが。・・・・で、これ聞いたら、草原のじじいがまた怒るだろうねぇ」

「・・・叔父上、忘れたい事を思い出させないでください・・・」


 そういえば、可汗の家事情を詮索するのが大好物のジュチという青年が、数年後には可汗の親戚の娘を彼のもとに嫁にやる目論見があるだろうと言っていたことを思い出す。

 

 ・・・・ジュチが喜びそうなネタだなぁ。


 少しだけ意識を遠くにやっていたが、はたと気がつく。


「フィル。その婚約者とやらもお前と一緒に馬で東方国へ行ったのか?」

「そうですよ。馬車なんて悠長なこと言ってられませんでしたから」


 当たり前のような返事に、二人とも呆然とする。

 フィルバートは大変綺麗な笑顔で中々のことを言い放った。



「この程度で音を上げるような方ではないですよ?」



 どうやら、ただの令嬢ではない、ということだけは確信出来た。




 そして、とうとう北海領域と旧帝国、それぞれの国からラウストリーチ王国宛に書状が届く。


 スフィルカール殿下のご無事を寿ぎたい、と大変都合の良い知らせであった。


「寿ぐって、そもそもそっちが始めた戦争に巻き込んだのだろうに」


 憤慨する顔を隠しもしないスフィルカールに、書状を眺めながらシヴァが唸る。


「・・・どちらの国に支持を与えるのか、あの手この手で迫ってくるのかな」

「連合王国の王となっていますので、妙なことをすれば東方王国が黙っていないことはわかっているはずですよね」

「これは、それぞれと話をしたら、良いように解釈されて使われるな」



 スフィルカールは書簡を机に放る。

 にまり、と笑みをこぼした。



「面倒だ。両国まとめて相手をしよう・・・・。鼎談の準備だ」









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