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ラウストリーチ家の未熟者  作者: 仲夏月
8.西と東
104/135

8-07



 ロズベルグはね、帝国でそれなりに期待された魔術師だったんだよ。


 所長はいつもの飄々とした語り口で始めた。


「この街で僕と同じ研究所に入ったときはね、資金もそりゃぁふんだんに保障されててさ。研究に邁進していたよ。それこそ、寝食も忘れる程度に」


 周囲の者誰もが及ばないほどの研究成果を出し続け、それに応じて帝国からの資金提供があったのだという。


「お金があるって、大事なんだよ。お金がないと仕事が出来ない。・・・まぁその反面、お金がついちゃうとその分仕事しないといけないけどね」


 だからね、あの子達を責めちゃ駄目なの、と所長は言った。


「君みたいに貴族の後押しがあって、純粋に好きな研究出来る子って恵まれているんだよ? 才能があっても、資金がなければ研究なんてできない。出資者がお金出してもいいなーって思える研究計画が出せないと、いくら腕があっても、独りよがりだ。・・・あの子達を非難する事は簡単だけど、それは誰にも何の益にもならない唯の正論だ」


 ロズベルグは、帝国のお眼鏡にかなう研究ができたから、あそこまで上り詰めたんだ。


「だけどね、彼の研究はそれなりに強すぎた。・・・北海王国を滅ぼすのに一役買っちゃってね。・・・まぁ、それはある程度想定していたんだろうけど。・・・・別の理由で、ロズベルグはぱったりとその研究止めちゃったの」


 君も知っているかなぁと所長は首をかしげた。


「子供ころから、家庭教師で面倒見てた貴族の男の子がさ、12~3歳で北海王国の戦争に従軍してて、大怪我して帰ってきた。タダの怪我ならまだ良い。・・・・心に大きな傷を負って、帰って来ちゃったんだよ。暫くは情緒も安定しなくて、本当に大変だったみたい。・・・それ以降、その子は歪んじゃった。ロズベルグですら、よくわからない子になっちゃったんだ」


 だからね、ロズベルグは帝国中枢の魔術師をやめたよ。


「皇帝の王子の摂政としてラウストリーチに行くってその子が言ったのは19歳だ。まだ成人してそんなに間がない、今の君くらいだよね。・・・・なんでそんなに思い入れもないはずの皇帝の子について都落ちみたいな事になるんだ、って思ったんだろうねぇ。皇帝の子云々より、その子が心配でたまらなくて、ロズベルグはラウストリーチに行ったんだ。・・・しばらく十年くらいは手紙も来なかったよ」


 それが、急に手紙が来たのが三年前だという。


「面白い子を引き取ることにした、って連絡を寄越してね。そのうち、そっちに送り込むから宜しくと。最近帝国の王子の周囲にいろんな子が集まってきて、王子が面白い子に成長してきた。それに引きずられたのか、あの子が実に楽しそうなのがよくわかるようになった。ようやくここでの生活も悪くないと思うようになったよと、文字の端々から楽しそうな雰囲気がでてたよ」


 君でしょ?

 所長は、ナザールの顔を見て微笑んだ。

 急に、目の前がぼやけてくる。

 ナザールは袖で顔を覆った。


「・・・・摂政閣下は、死んじゃった・・・・・」

「そう・・・・残念だね」

「よく、叱られたけど、すごくいい人だったよ。俺の友達を養子にしたんだ。なんかクソガキって言って構い倒してたけどさ。友達がやんちゃする度に、それが出来るなら俺の手加減いらないねぇって言って容赦なく剣でコテンパンにしてた。凄く楽しそうだった。・・・・王子の事も、すごく可愛がっていたと俺は思う。指摘したら本人絶対否定してたけど」


 俺は、俺のやるべき事をやります。

 ナザールは顔をあげた。


「帝国とか、北海領域とか今は関係ないや。カールが無事でいれば何処が強くてもいいい」

「そうだね。彼らのことを気にしてもしょうがないよ」

「けど、あいつらの鼻を明かしてやりたいから、カールは早めに見つける」


 その時には、俺はちゃんとした魔術師になっていないと。


「だから、俺まずは勉強します」

「ん、よろしい」


 所長は椅子から立ち上がる。


「じゃあ、僕忙しいからまたね」


 忙しいはずの所長は、ゆらりと手をふって部屋から出て行った。


 まずは、研究だ。

 カールのことも気になるけど。

 あいつが戻ってきたときに、俺がどの程度役に立てるか。


 いや、あいつが王として戻ったときに。

 俺があいつをどの程度利用出来るか。


 それほどの力量を身につけていなければならない。



「・・・・よし」


 両手で頬を軽く叩く。


「図書室行こうっと」


 魔法構文がびっしり書かれたメモを抱えて。



 彼は部屋を飛び出した。











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